「遅れることなんて今まで全然なかったから、もしかしたら…って思ってて」

「はっきりしたら言わなきゃって思ってたんです。でも検査薬がなかなか買えなくて、だんだん体調も悪くなってきて」

「もし妊娠のせいだったらって思ったら、何て言ったらいいかわからなくて」



津軽さんは目を見開いていた。


心底驚いているようだった。



「嘘ついてごめんなさい」



頭を下げる。



しんと静まり返る医務室。



「津軽さんのこと傷付け…」

「ごめん」



私の言葉は遮られた。



「ごめん、Firstname」



津軽さんの腕が私に伸びる。



「気付かなくてごめん」



引き寄せられて抱きしめられる。


津軽さんの声が真上から聞こえた。



「嘘つかせて本当にごめん」



強く抱きしめられる。


私は首を横に振った。



抱えていたものが全部、津軽さんの体温で溶けていく。



心が軽くなっていくのを感じながら、この人の腕の中はどうしてこんなに居心地が良いんだろうと思った。


広い背中に腕を回すと、津軽さんが私の髪に顔を埋めた。



しばらくして彼の胸から顔を上げると、真摯な目にぶつかる。



「まだ調べてないんだよね?」

「これからです」

「今から病院行く?」

「いえ、検査薬が買えればそれで間に合うかと…」

「どっちにしたってFirstnameの体に何が起きてるのかわかんないんだし、診てもらいなよ」

「でも…」

「心配なんだよ」



津軽さんの真剣な目に何も言えなくなる。



「俺、一緒に行くし」

「え!? いいですよ子どもじゃないんですから」

「子どもが行く所じゃないでしょ」



津軽さんに冷静に突っ込まれる。



「…あー、俺このあと会議だった… まあサボればいっか」

「よくないですよ! 出てください」

「だってこっちの方が全然大事だし」

「わかったら連絡するんで出てください、会議は」

「えー…」

「班長」

「ここで班長呼びする?」



わかったよ、と津軽さんは不本意そうに呟いた。


私は息を吐いた。



抱き合ったままの津軽さんの胸におでこをくっつける。



これで全部はっきりする。



「Firstname」



津軽さんの腕に力が込められる。



「大丈夫だから」



静かだけど力強い声に、私は頷いた。






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