数週間前のある朝。
俺は通学電車に揺られながら本を読んでいた。
文字を追いつつ、ふあ、と欠伸をする。
(ねっむ…)
欠伸ついでに、今どこだろと本から顔を上げる。
窓の外を流れる景色を追うと、まだ学校までは数駅ある所だった。
あと10分はかかる。
(こんなに遠かったっけなー)
そのまま何となく、ドアの方へ目をやる。
うちの制服を着た女の子と目が合った。
でもすぐに逸らされる。
(…1年生かな)
パリッとしたブレザーと鞄の感じからして多分そうだ。
俺は本に目を戻した。
けど何だか集中できなくて、 また視線を上げる。
なんとなく、もう一度ドアの方を見る。
1年生はもう俺を見てはいなくて、その視線は窓の外に注がれていた。
流れていく景色をじっと見ている。
遮るものが無くなると日差しが彼女の顔に当たり、そのたびに眩しそうに目を細めている。
なぜかはわからないけど、俺はその横顔から目が離せなくなった。
(…なんだろ)
目が、離せない。
彼女は何を見ているんだろう。
もちろん俺がよく知っている、もとい、すっかり見飽きているこの景色を見ているんだろうけど。
彼女の目が何を映しているのか、何を思っているのか気になった。
どのくらいの時間彼女を見ていたのかわからないけど、やがて聞き慣れた車内アナウンスが耳に入って我に返る。
現実に引き戻されたような感じがした。
(見すぎだろ、俺)
彼女から視線を引き剥がす。
いつの間にか学校まであと一駅だ。
でも再度手元に目を落としても、やっぱり彼女が気になって。
大して読み進めることが出来ないまま本を閉じた。
次の日も、またその次の日も。
同じ時間の同じ電車で、彼女は窓の外を見ていた。
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