HR終了後の賑やかな教室。
教科書を鞄にしまっていると、前の席の鳴子が振り返った。
「Firstname、今日部活ないんでしょ。カラオケ行かない?」
「うん、休み。カラオケいいね!」
「南口に新しいカラ館できたじゃん。気になっててさ〜」
「行こ行こ。開店記念とかで安くなってたりしないかな?」
「ね! 調べてみよっか」
鳴子がスマホを取り出す。
二人で画面を覗き込んでいると、背後で黄色い声が上がった。
「Firstnameちゃーん」
ゆるい声に振り返ると、ドアに手をかけて微笑んでいたのは。
「津軽先輩…」
学校一のイケメンと言われている、3年生の津軽高臣先輩だ。
「一緒に帰ろ?」
先輩はにこりと私に笑いかけた。
「すいません先輩、今日は…」
「あれ? 今日部活休みじゃなかったっけ」
「休みなんですけど先約があって」
「Firstname、いいよ」
「えっ?」
鳴子を振り返ると、こそっと耳打ちされた。
「一緒に帰りなよ。気になってるんでしょ、津軽先輩のこと」
「はっ!?」
図星を突かれて大きな声が出た。
ちらっと先輩を見ると、津軽先輩も私を見ていた。
慌てて顔を逸らす。
「鳴子ちゃん、もしかして約束してた?」
「いえいえ全っ然! 約束なんて一切無いですよ〜。放課後デート楽しんできてくださいね」
「ちょっと鳴子っ」
「…そ? ありがと」
じゃまた明日ねー、と鳴子は素早く教室を出ていってしまった。
(鳴子… ごめん!)
まだ椅子に座ったままの私は、おずおずと津軽先輩を見上げた。
先輩は微笑んだ。
「帰ろ?」
胸元の鞄をぎゅっと抱きしめ、私は頷いた。
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