トリックスター4


「――テゾーロ!」

ドフラミンゴから体を離した男は、弾んだ、という表現がふさわしい声で仕える王の名を呼んだ。情報を伏せていた事実についてはすっかり頭から抜け落ちているらしい。とてもご機嫌な様子だ。
テゾーロはオーロを見つめたまま、指から徐々に力を抜いていった。

「テゾーロ、見てくれ、ほら――これが……これが“立つ”という感覚なんだな。こんなにも高い視界で動きまわるのは初めてだ、ダンスも初めて踊った、夢の様だ」

そう言って華麗なターンを披露してみせる。オーロが歩きまわっている。ひとりの力で。自分の足で。――あり得ない光景だ。正確には隣にいる男の能力によるものだということは、ドフラミンゴの独特な指の曲げ方をしている手からも察しはついた。
とはいえ、見えない糸に支えられ、自分の動きたいようにハシャいでいる彼は、仮初めとはいえたしかに自由を得ているも同然。なぜ天夜叉がそんな手助けをするに至ったのかさっぱりわからないが、ふだん喜怒哀楽の表現が乏しい男の大喜びする姿を見ていると、だんだんと怒る気も失せてきてしまった。
嘆息を洩らして歩きだそうとしたテゾーロ。それより先に、愉快げに笑うドフラミンゴが再びオーロに近づいた。

「フッフッフ!ウチに来れば、いつでも好きなだけ歩かせてやる」

――――――……オーロの腕をぐっと引く大きな手が。私物を扱う様な気安さが、実に不快で。
テゾーロは黄金のシャンデリアを液状化させ、触手の形に変えると、オーロをドフラミンゴからべりっとひっ剥がし、流れる様な動きで自分の許へとひき寄せた。

「待たせて申し訳なかったなドフラミンゴ。ウチの部下が、随分と世話になったらしい」

触手が解かれテゾーロの傍らに立ったオーロは、謝罪の言葉で我に返った様だ。先程までとはうってかわり弱々しげにテゾーロの名を呼ぶ。
――ドフラミンゴもドフラミンゴだがオーロもオーロだ。どういうつもりで天夜叉などと踊っていたのか。知らせを寄越さなかったのか――。その苛立ちが見下ろす眼差しに上乗せされてしまうのは、致し方ないことだろう。

「それで、本日のご用件は?」
「用なら終わった。お前の優秀な部下がヨくしてくれたからなァ」
「変な言い方はやめてくれドフラミンゴ」

会話に壁が取り払われているように聞こえるのも気の所為だろうか。オーロはドフラミンゴという男をテゾーロ以上に警戒していた筈なのだが。二人が並んでいたさきほどの映像が頭にちらつき、うっかり舌打ちがでてきそうになる。
本当ならここで根掘り葉掘り聞きだしてしまった方がしこりを残さずいいことはわかっていたのだが、早く帰ってくれ、と心の内で唱えていたテゾーロは、ドフラミンゴが開け放たれた窓の前に立つのを止めはしなかった。

「事を急ぎ過ぎると、失敗するもんだ。フフフッ……『またな』、ドール」

オーロは返事をしない。それに構うことなく、ドフラミンゴはゆっくりと背中から夜の街へと身を投げだしていった。
――――同時に、オーロの膝もガクンと高度をさげる。咄嗟にテゾーロの腕が伸び、くずおれかけた身体を抱きとめた。


  
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