トリックスター3


テゾーロは初めの表情で“判断”することにした。自分の姿を見た瞬間、オーロがどんな反応をするかによって決めようと――。


今日のショーは素晴らしかった。完成度が高いのはいつものことだが今夜は特にノっていた。体も歌も、演奏も光も空気も黄金の輝きも、すべての色が見事に調和し虹橋となって夜空をつらぬく様な感覚にとらわれた。最高の気分だった。この感動をいの一番にオーロに伝えたくて、ステージを降りてすぐにオーロの姿をさがした。
しかし、外壁の一部を改築してつくった特等席にも、コントロールルームにもオーロの姿はなく。しょうがない、声だけでも良しとするか、と子電伝虫に呼びかけたのだが、それにも応答はなかった。一体どういう事なのか。

タナカさん曰く、「オーロ様ならショーが終わってすぐに“しばらく一人きりになりたいから”と仰られて自室へ戻られましたよ」とのことだった。成程。彼が部屋に籠るのも、集中力が高すぎるゆえに電伝虫の呼び声に気がつかないのも特段めずらしいことではなかったので、納得がいった。
ならば部屋へ突撃しよう。といきたいところだったが、テゾーロには大切な客人達との会食が差し迫っていた。タナカさんに急かされ、不満を抱えながらも更衣室へと向かう。オーロと話すことは断念するしかないのであった。――とりあえず、そのときは。

会食を終え、今度こそオーロの部屋へ赴こうとしたテゾーロの足を止めたのは、またしてもタナカさんだった。今日の彼はいやに待ったをかけてくる。

「テゾーロ様。グラン・テゾーロの取材をしたいという記者が」
「三十分後に応じると伝えろ」
「しかし大手出版社の社長が直々に」
「知ったことか」
「テゾーロ様、どちらへ向かわれるのですか?」
「頭にキノコを生やしそうな男に会ってくる」
「お待ち下さいテゾーロ様。それはなりません」
「なぜだ?」
「誰も近づけるなとオーロ様が」
「フン、知ったことか」
「テゾーロ様」
「タナカ、今日のおまえは変だぞ?わたしをオーロに会わせたくないらしいな」
「いえ、その様なことは」
「何か隠し事でもあるのか」
「い、いえ、滅相もございません」

と、なんやかやあり逃げを許さず問い詰めたところ、タナカさんはついに白状した。

――――いま、ドンキホーテ・ドフラミンゴが来ています、と。




ようやくオーロを見つけた。自室に籠るだなんてまっ赤なウソだ。彼は『テゾーロが知らせを貰わなければおかしい人物』と共に、『応接間』で、優雅に『ワルツを踊っていた』。
裏切りと見なすべきか、とテゾーロは考えた。考える間もなく怒りの頂点に達していてもおかしくはなかったが、その回路を阻害したのは、驚きと戸惑い――目の前に広がる光景のなかに『あり得ないこと』が紛れ込んでいた所為だろう。

すこし考えて、テゾーロは初めの表情で“判断”することにした。自分の姿を見た瞬間、オーロがどんな反応をするかによって――“処分”を決めようと。


「オーロ」


ドフラミンゴはすでに気がついていた様子だが、その腕のなかにいる男は、いま、入口に立つテゾーロを意識に入れた様だった。
此方を向いた目が、じわりじわりと瞼を押しひらいていく。瞳が点となり、驚愕の表情に変わる。そのかおから一片でも後ろめたい感情を読み取れたなら、テゾーロが次に起こす行動は決まっていた。

右手の指環から、青い火花が散る。


  
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