エンドレス・リピート


涙は頬をつたい、静かに膝の上へ落ちていく。テゾーロが泣いている。どうして泣いているのかまだ理解が追いつかなくて、オーロは指の一本すら動かせずにいた。

「此処はおれの野望そのものだ。力であり象徴だ。おまえにとっても、それは同じじゃなかったのか?」

額を押さえて項垂れるテゾーロ。

「おれにはおまえの目的がさっぱりわからない、なァ、教えてくれ、おまえは一体、何を考えている……――――?」







「……君が、好きだから」







――――テゾーロが視線をあげたとき、オーロはハッとした様に顔を大きく逸らした。けれど何かを決意する様に呼吸を整え、再びテゾーロの方へ向き直る。言葉が撤回されることも、補足が付け加えられる様子もない。テゾーロは抜け殻の様な顔つきでオーロを見つめていた。

「君がステラを深く想っているのと同じ、俺にとってはテゾーロが大切な存在なんだ。なにかを考えるときの中心はいつも君であるつもりだ」
「……突然何だ……、何を言っている……?」
「……君に伝えたい事がある。俺は、君の事が好きだ。友人以上に――」
「ふざけるな」

過去のやりとりをなぞる様な会話にテゾーロが気色ばむ。オーロの表情筋が動かないのはいつものこと。冗談を言うときでさえそれは変わらない。けれどまっすぐに向いた目が、冗談ではないことを訴えていた。

「突き放してくれたっていい。受け入れてもらえるなんてハナから思っていない。ただ許されるなら……俺は、今後も君の力になり続けていたい」


「――――だったら船を下りろなどと言うな」


唇だけの動きでテゾーロが唸る。

「下りるとも言うな。今後二度と、絶対に。もう、おれを――否定するな」

オーロの目がゆるやかに見開かれる。そこにあるのは怯えや恐怖などではなく、真冬の凍える寒さのなかから晴れ間を見つける様な、救いに似たよろこびだった。

「……いいのか……?これからも……傍に居続けても」
「……勘違いするな。気持ちを受け入れたわけではない」

冷たいとも取れる声音にも、オーロは悲しむ気配を見せなかった。

「充分、充分だ。わかってる。テゾーロ、もう君が望まないことは口にしない」

オーロの指がそっと、テゾーロの頬にのこる涙の跡を拭う。拒否されるかもしれないと思ったが、テゾーロはオーロをじっと見つめるだけで、手を叩き落とすことも体を後ろへ引かせることもしなかった。

「……おまえが待っている“かつての歌声”とは、どんな歌声を指す?明確な答えはあるのか」
「!」

指を離して、オーロは思考する時間を稼ぐ様にゆっくりと腕を下ろす。そんなことをしなくたって初めから答えは決まっているのだけれど。

「君が心の底から“幸せだ”と感じながら歌っていれば、それがきっと俺の望む歌声になる」

ただの『美しい思い出の声』ではなかった事に、そして冷淡な男の温度ある言葉に、テゾーロは驚いた。この場で告げられたことはすべて真実なのだと実感する。まだ頭の整理がついたとは言えないが、前を向いたテゾーロの顔には力強さが戻ってきていた。

「それを聴くことができれば、おまえはまた笑うのだな」
「……? ……笑顔は……家族だった者達からも、一度も見たことがないと気味悪がられていたくらいだ。俺は昔からそういう顔なんだ」
「そんな筈はない、おれはこの目で――」

言いかけて、止める。自覚がなかったとなれば言ったところで会話は平行線のままだと思ったからだ。つくづく鈍い奴だと思わざるを得なかった。

「……まあいい。いつかはおまえに聴かせてやろう、その歌声とやらを――この“グラン・テゾーロ”でな」




この日を境に、ショーはよりきらびやかさを増していく。そして添え花となる歌姫を募った頃、運命の日を共にするひとりの少女が現れることになる。

「ウシシ!好機到来ね」


麦わらの一味が訪れるまで、あと一年――――。


  
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