パンチドランカー


「……いったい何があった?」

テゾーロとバカラが見つめる先には、ダイスの腕の中でぐったりとなっているオーロの姿。玉のような汗が肌をびっしりと覆っている。気絶している本人からは回答を得られそうにない為、テゾーロは運び手であるダイスを見上げた。

「二人でいつもの手合せをしていたんです。普段より長くやるなァとは思っていたんですが、まさかオーロ様がこんなふうにぶっ倒れるまで止めないとは思わなくて……」

車椅子を押して移動するよりも抱えて運んだ方が振動が少なくて良いのではと考えた結果、今このような状態になっているらしい。沈黙するテゾーロにダイスがそろそろ御前を失礼しようとしたとき、不意にダイスの腕の中から重量が消えた。

「運ぶのはわたしがしよう。ダイス、車椅子を持ってこい。バカラ、使用人にわたしの部屋まで水とタオルを持ってくるよう伝えてくれ」
「テゾーロ様のお部屋……ですか?」
「こいつの部屋では休まるものも休まらんだろう」

そういって横抱きにしたオーロをすたすたと運んでいくテゾーロの背に、近頃漂っていた不穏な空気は見当たらない。テゾーロはここしばらくオーロに対し冷淡な態度をとっていた様に思えるのだが、抱き寄せたときのその手つきは、同一人物とは思えないほどに優しいものだった。

「バカラ、行かねェのか?」
「……オーロ様が倒れたのって、もしかするとわたしの所為もあるかもしれないわね……」
「?」


  
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