カウントダウン


夜の海をゆく船乗りにとって小さな星の輝きが救いの天球となる様に、たった一枚の絵に、一冊の本に、一編の詩に、一曲の音楽に――誰かの何気ない一言に、ほんの些細なできごとに、心救われる人間がいる。オーロにとってそれはテゾーロのうたう歌だった。たったそれだけのこと。言葉にしようとすればかえって白々しくなってしまう気がして、理屈をつけようとしたことはなかった。
だから憧れの奥深くにひっそりと根付いた感情に気付くこともなければ、見つめ直す機会もオーロは自ら逃してしまっていた。

名前をつけられなかったそれは誰の目にも触れることがなかった代わりに、誰の手にも手折られることなく、じっくりと、緩やかに、根っこを引き抜けば血が流れでてしまうところまで育ってしまった。取り除いて何事もなかったかの様に振る舞うには、もはや手遅れである。


  
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