彼は、業腹


ささやかな意趣返しもわるくない。
そんな思いを抱きながら、時限爆弾の効果を心待ちにする気持ちで別事にいしそむスペッキオ。目下の急務は、壊された窓の遮蔽物を張り替える作業だった。すべて鉄の板にしようと考えているところである。窓を塞ぐ材質をもっと丈夫にし、侵入にかかる時間が長くなれば、“空き巣”は諦めてくれるとも聞くし。

「ああ、面倒くさい、面倒くさい……実に面倒くさい……。あのむっつり君……ムキになって二度と近づかないでくれるといいなァ……」

何度も水で擦り洗いした唇が痛い。

男に迫ったという望まない噂がひろがったとき、ロブ・ルッチはどう行動するか?と考える。1、気にせず日常通り。2、沈黙して激昂。3、フクロウまたはスペッキオに当たり散らす──。素直に認める、はないだろうとスペッキオは読んでいた。彼はそこまで自分をとりまく世界に無関心ではないし、人に笑われることを受容できる男ではないだろうから。女相手であればなんら問題はなかった、むしろ彼の魅力を引き上げる要素になったかもしれない。だが同性となれば話が変わる。好奇の目に晒され、無遠慮に探られ、娯楽のおもちゃにされる。賢い者なら、これ以上無用な噂が立たないよう接触は避けてくるはずだ。

(そういえば……────)

懐かしいグアンハオでの記憶が掘り起こされる。

(昔の彼は、どんなに人前でみっともない姿にされても問題にしない程、不様を晒すことに抵抗がない様だったなァ……。あの頃は僕と似ている点も多かった。周囲なんて眼中になくて、今より随分尖ってて。誰とも群れねェぞ、なんて気概すら感じられた……)

なにが彼を変えたのか。答えは簡単。司法の塔内で繰り広げられるあんなにも賑やかな諜報部員たちの集まりを、スペッキオは他に見聞きしたことがない。早朝に聴く小鳥のさえずりに等しい、心地のいい喧騒。ルッチはそこへ自然に融け込み、時に彼が中心になることだって……──。


「──────……、」

スペッキオは驚いていた。『羨ましい』という感情を抱いたのは、スパンダムとの出会い以来であったから。




────スペッキオの目論見どおり、翌日には島のあちこちで挨拶代わりに話が切り出されるほど、噂は瞬く間にひろがっていった。ただし、スパンダムとの噂も相まって『スペッキオとスパンダムが完全破局。その真相はスペッキオに新たな恋人の登場!?なんと、お相手はあのロブ・ルッチ──!』といった、スペッキオにとっては予想外の発展をしていきながらではあったが。
注目度もトップクラスに入るロブ・ルッチのゴシップネタに、女性陣をはじめエニエス・ロビー中が騒然となっていた。中でもいちばん反応したのは、ほかでもない、

「は……はあああ?!なんだそりゃ!?おい、至急ルッチを呼べ!」

スペッキオの幼馴染・兼・主人、スパンダムその人である。


  
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