彼は、鉄壁


ガリ。


頭蓋骨の内側からひびく鈍い音。ルッチが眉を顰めると同時、その胸がドンと突き放された。距離が、ひらく。鮮やかな赤色が両者の唇に滲んでいた。口元に親指を近づけたルッチに対し、スペッキオは手首の甲側を寄せて、

「順番がちがえば、僕が君に関心をもっていたはずとか言ってたけど……────」

袖口で、ぐいいっと拭う。



「あり得ない。君の慾は原始的だから」



口端をきゅっと引き締め、“血”を求める殺戮者を拒絶した。ルッチは驚くでも反発するでもなく、落ち着きはらった眼差しを返す。足早に去っていくスペッキオを追いかけることはもうしない様だったが、血を舐めとり、不敵な微笑で見送っていた。


  
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