人生幸福論 | ナノ


12:狼のお勉強  




シリウスには創設者の部屋で寝泊まりをしてもらうことが決まった。


その部屋の仕組みを伝えるとシリウスはとても驚いていたようだった。彼らはあの忍びの地図を作るぐらいだ。このホグワーツのことを網羅していると思っていたのだろう。ただし、ここはあの地図には乗っていないはずだ。俺たちが開けるまで誰もここに踏み入ったものはいないのだから。


ぐつぐつ煮えたぎる鍋を前に、後ろで明日の闇の魔術に対する防衛術の教材を整えている人物へ目を向ける。


「セブルス、本当にやるつもりか?」

「もちろんだとも」


猫撫で声が答える。機嫌は上々らしい。


「授業に私情を挟むとは感心しないな。といっても、今更か?」

「何を言う。我輩は、あやつがしにくいであろう授業を代わりにやってさしあげようというのだ」

「物は言いようだな」

「それより、貴様こそ、薬の出来が芳しいようには見えないが?」

「難しいところは確かだな。論理をいくら組み立てようと、どうにも従来の脱狼薬と変わらない効果にしかならない。加えるものをもう少し変えてみるべきなのかもしれないな…。だが、果たして何がいいか…」

「ドラゴンの爪はいかがかね?」

「でも、それだとここでダメになるだろう」


論理を書き連ねた紙をセブルスの元に持っていき、指を差す。十数枚にもわたる分厚い紙束には、脱狼薬の精製方が書き連ねてある。


「ふむ…。次買い出しに行く際に何か良いモノがないか探して来よう」

「それ、俺も行っちゃダメか?」

「ノクターン横丁に生徒を連れていくわけにはいかん」

「だよなあ。バレなければいいってことにはならねえ?」

「ならん」

「まあいいか。とにかく、明日はやりすぎるなよ」

「元はと言えば、アヤツが教壇に立てないのも貴様が作った脱狼薬が不作だったからではないのかね?」

「だからこそ、こうして苦言を呈しているんだろうが。俺の罪悪感が募る」


人選としては、他に頼めないぐらい知識としても申し分ないとは思うが、いかんせん彼はリーマスのことを嫌っており、さらには明日はグリフィンドールの授業がある。彼にとってはいい鬱憤晴らしになることだろう。


きっと初回の授業でのボガード扮したがセブルスの女装姿について、未だに根に持っているはずだ。


俺の罪悪感うんぬんについては鼻であしらわれた。


「ならばセブルス、先に行っておくが、俺は明日のDADAには出ないからそのつもりで」

「なぜだ?」

「一日リーマスに付き添う。ああなったのは俺のせいだ」

「それこそ、ダメに決まっているだろう。貴様はバカかね?人狼に自ら近づこうなど。貴様が作った脱狼薬が元来の効果を発揮しているとはいえ、人狼に変わっていることには違いない。その状態で、いつクスリの状態が切れるともしれんというのに、一緒に居る?同類になりたいというのなら、我輩は止めないがね」

「昼間は普通に人間だから大丈夫だっていうことは、セブルスだって知っているだろう。ただ、今回の薬はあまりに副作用が強い。何がそうさせたのか、確かめなければならないだろう」

「我輩の記憶が確かであれば、貴様は学生だったはずだが?いつから研究者になったのかね?」

「学生でもあるが、研究者でもある。魔法薬に年齢なんて関係ない。そうだろう?」

「授業をエスケープすることは許さん」

「授業内容が人狼だというのなら、俺には必要ない事だ。百聞は一見にしかず。本物がそこにいるんだから、そちらを相手にしたほうがよっぽど授業になる」

「我輩に授業内容を変えろ、というのかね?」

「変えてくれるなら万々歳なんだけどな」

「チッ、好きにしたまえ。ただし、グリフィンドールから点を引かれてもいいのならな」


話しは平行線のままだったが、まあ、いいだろう。


俺は鍋に保存魔法をかけて、セブルスの私室に運び、明日再び様子を見に来ることだけ伝えて教室を出た。






「なあ、シリウス。シリウスたちはアニメーガスになってリーマスと過ごしていたんだよな?」


俺は机の上に広げた脱狼薬の論文をまくりながらシリウスに話しかける。シリウスは暇をしているのだろう、ベッドの上で横になったまま天井を見上げている。ここ数日、3食きっちり食べているからか、彼の顔色は格段に良くなり昔のハンサムな面立ちが戻ってきていた。


「リーマスから聞いたのか?」

「いや。リーマスはパッドフットとの思い出は話してくれたけど、シリウスって名前は聞いていない」

「……そうか」

「それにアニメーガスのこともな。俺が真似をすると困るからだろう」

「リーマスは反対するだろうな」

「まあ、反対されてももう遅いんだけどな」


シリウスが背後で起き上がった気配がした。俺も振り返りと、彼は俺の顔を見て目を見開いたまま笑みを浮かべた。


「君はやっぱりおもしろいな」

「満月の夜に一人はさびしいだろう。共に月を見上げる相手ぐらい必要さ」


俺の言葉にシリウスは満足げに頷いた。


「ところで、シリウスに頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「ここにずっと籠っていても暇だろう。だから作ってほしいんだ。忍びの地図!」


シリウスが怪訝そうに眉をしかめた。


「君がそれを知っていることについては何も言わないでおこう。しかし、なぜそれが必要なんだ?」

「あれはハリーの手元に行くからな。対抗するためのもう一枚が欲しい」

「祐希なら自分で作れるだろう?」

「まあ、作れないことはないんだろうけど、時間はかかるだろうな。あれは画期的だ。とても学生が考え付いたとは思えない」

「そうだろう」


満足げに頷くシリウスに笑みをこぼす。


「ってことで頼むな」


俺は杖を振ってもともと用意していた羊皮紙と一本の杖をシリウスの上に振らせた。杖はシリウスの手に納まる。


「俺に杖を持たせてもいいのか?」

「杖がないとつくれないだろう」

「それはそうだが…」


今は軟禁状態であるシリウスは自分の立場をよくわかっているからこそ微妙な顔をしたのだろう。


「もちろん、信用しているからさ。ハリーの幸せを願っているシリウスならばその杖を使って無謀にもここを抜け出し俺たちの計画を破たんさせるようなバカなことはしないであろうことを見越して、杖を渡したんだ」

「…えらい釘の刺されようだな」

「イタズラ小僧にはこれでも不十分だろう?」

「君と話していると、俺は子供だと錯覚させられる」

「俺にとっては等しくみんな子どもみたいなものさ」

「その見た目で言われると複雑なものがあるな」


その言葉に俺は声をたててわらう。確かに、見た目はただの子供でしかない。それも東洋人の顔立ちであるため、童顔なのだ。見た目の幼さに拍車をかけている。


「まあとにかく頼んだぞ。パッドフット」

「!!…せいぜいいいものを作らせていただきますよ」

「ああ、いたずら仕掛け人らしい施しも頼む」


言い置いて、俺は部屋を出た。


さて、シリウスには暇つぶしになる仕事も与えたことだし、しばらくは大人しくしているだろう。


俺はとりあえず、部屋で寝込んでいるであろう保護者の元へ向かうことにした。


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