人生幸福論 | ナノ


10:休暇の過ごし方  




「闇の魔術に対する防衛術」はたちまちほとんどの生徒の一番人気の授業になった。二回目からの授業も最初と同じようにおもしろかった。


さすがリーマスと俺も鼻高々だ。


そして、なんといっても「魔法生物学」ハグリッドの授業だ。


最初の授業がうまくいったおかげか、そのあとの授業でもとても珍しい魔法生物が見られた。もちろんハグリッドが教授であるために少々危ない部分がなかったとは言わないが、彼に対して意地悪に接するのはスリザリンぐらいだ。


しかし、そのスリザリンの中には大の魔法生物好きがいる。


そう、サラだ。


サラは毎回爛々と目を輝かせ、ハグリッドの説明を聞き、それはもう熱心に授業に取り組んだ。授業後に、時間を見つけて、バックビークの背に乗れないかと進言しにいったほどだ。その様子をマルフォイはとても嫌そうに見ていたが、サラの熱意を止めることはできなかったらしい。


一度本気で妨害しようとしたときにはサラの逆鱗に触れ、それはもうマルフォイたちは青ざめていた。正直ざまあと思ったのは嘘じゃない。


それからは、マルフォイたちも大人しく、授業中は片隅でサラの巻き添えを食わないようにしていた。


サラの巻き添えを食えば、強制的に実地授業になってしまうからだ。触ることは当たり前。餌をやったり果ては背に乗ってみたり。ハグリッドと友達であるハリーたちよりもずっと積極的に参加していた。そんなのに巻き込まれるなんてマルフォイはごめんだったのだろう。


その気持ちはよくわかる。


さすがに、ハグリッドがアラゴグをどこかの授業で呼ぼうかと思うのだと言った時には、ハリー、ロン、ハーマイオニー、俺の4人がかりで全力で止めさせてもらったが。特にハリーとロンは必死だった。それはもう必死だった。ハグリッドが言うことを聞かなければ、服従の呪文をかけることも厭わないぐらいに必死だった。


彼らは去年アラゴグに会い、死にかけているのだから当たり前だろう。


まあ、そんなこんなで、ハグリッドの授業もそれなりに人気があったことは言うまでもない。








生徒が待ちに待った日がやってきた。ここの所、3年生は浮き足立っていた。それもそうだろう。なんせ、今日はホグズミードに行ける日だ。どんな店があるのか、どこに何を買いに行こう。バタービールが…、と言った話題で持ち切りだった。


「え!?祐希は行かないのか?」


ロンが正気かよという目で俺を見る。


「でも、祐希は許可証をもらってたじゃないか」

「ああ。でも、生徒がいない間にやっておきたいことがあってね。次回にでも行くさ」

「祐希、僕に気を遣わなくてもいいんだよ?」

「そんなんじゃないって。本当にやりたいことがあるんだ。俺はそんなお人よしじゃないぞ、ハリー。ってことで、おみやげよろしく。面白いお菓子がいいな」

「君ってやっぱり変わり者だよ」

「別に、今日じゃなくたって行けるんだ。また今度な」


ロンたちを見送り、ハリーと一緒に校内を歩く。


「祐希のしたいことって?」

「魔法薬だよ。今日でちょうど2週間だからな。やっと出来上がるんだ」


今作っているのは脱狼薬だ。今回のものは理論的にも、経過的にも順調に進んでいた。あとは実際に飲んでもらって効果を見ていくしかないのだが、とにかく、今回のものが上手くいけば一歩進んだことになる。


ハリーを見れば、とても顔をしかめていた。それもそうだろう。ここ最近のセブルスは、リーマスの授業で行われたボガードの一件でご立腹だった。いつだって不機嫌で、ネビルをいじめては憂さ晴らしをしていた。なんて器の小さいとか思っていない。俺もリーマスの養子という立場なので、俺に恥をかかせようとしてきたが、きっちり120パーセントに答えを返してやった。その時の苦味走ったセブルスの顔は忘れられない。


若いなと生暖かいめで見守らせてもらった。もちろん、ネビルのフォローをしつつ。そのたびに俺もにらまれるわ、放課後に魔法薬を作らせてもらいに行った時に嫌味を言われることもあったが、まあ、そんなのはどこ吹く風だ。


「ハリーもセンスいいと思うんだよなー。やってみるか?」

「いや、いいよ」


げんなりしながら答えたハリーは談話室に戻ると言って、途中の階段で別れた。


セブルスの元を訪れると、ちょうど休憩中だったのか、珍しいことにテーブルの上にはお茶菓子と紅茶が置かれていた。


「よ。魔法薬の様子見に来た」

「我輩の記憶が確かなら、今日はホグズミードの日ではなかったかね?」

「ああ。セブルスの記憶は確かだぜ」

「貴様も保護者にサインしてもらえなかった口か」

「まさか!相手はリーマスだ。彼がそんな意地悪なことをするわけないだろ?」


俺がなんでここに来たかわかってるくせにと笑えば、深い深いため息をつかれた。どうやら、セブルスは俺が魔法薬よりもホグズミードを優先すると思っていたらしい。まだまだ甘いな。


「貴様は馬鹿だな」

「酷いな。藪から棒に」

「普通の子供なら、ホグズミードに行きたがるだろう」

「じゃあ、俺は普通の子供じゃないんだろうな」

「そんなことはすでに知っている」

「なんだよ。セブが言ったことだろ?」


俺が肩を竦めると、セブルスはそこで終わりだというように紅茶を手に取った。


「俺の分は?」

「あるわけがなかろう」


すげなくあしらわれたので、しょうがなく、お茶菓子に手を伸ばす。クッキーをひょいとつまみあげ口に含めばほのかに甘い味わいが口に広がった。


「珍しいな。ここにお菓子があるのは。自分で買ってきたのか?」


もう一枚別のクッキーに手を伸ばす。


セブルスは、その様子を見てはいたが止めるつもりはないらしい。何か言いたげではあったが。


「いや…」

「じゃあもらい物か」

「………」

「へえ、スリザリンの女子から?やっぱり教師ってのはあこがれられるものだよなー。告白でもされた?」


今、顔がにやけているのがわかる。言葉を続けるにつれ、セブルスの顔がどんどん歪んでいく。普段ならこの辺できつい言葉が返ってくるものだが、それがない当たり図星であるらしい。


他寮からはすごい嫌われ者だろうが、やはり自寮からの人気はあるのだろう。もともと、面倒見もいい方だし、俺と同じ薬学馬鹿ではあるが長い間教師をやっていただけあって教え方も上手いもんだ。憧れるものが出てきてもおかしくないだろう。


何より、この年代の子供というのは先生”というものにあこがれる歳である。


「返事はしたのか?」

「馬鹿か貴様は」

「恋に年齢なんて関係ないさ。誰にも好きという感情を操ることはできない。予測不可能、何がきっかけになるかなんてわからないからこそ、人生に恋や恋愛というのは必要不可欠であり、大切にすべき感情だ」

「何がいいたい?」

「つまり、生徒と教師の禁断の愛になっても俺は応援するぞ」


セブルスが紅茶吹き出しかけた。むせながら、鋭い眼光が飛んでくる。しかし、むせているために涙目になっていて怖さは半減していた。


「おいおい、大丈夫か?」


俺が淹れた紅茶を渡してやると、それを口に含んだ。そして、ぎょっとした顔で紅茶を覗き込む。眉間にしわがより、俺の顔を見ては、紅茶を見てを繰り返したセブルスは、カップを遠ざけるようにして机に置いた。


「貴様はまともに紅茶も淹れられんのか」

「魔法薬は得意なんだがなー。紅茶は昔から、どうも、微妙なんだ」

「魔法で作っておきながら、なぜだ」

「俺も不思議なんだよなあ。淹れ方の知識はしっかりあるし、その通りに作ってるんだぜ?でも、俺が作るとなぜか、とても微妙な味になるんだ」


セブルスは複雑極まりない顔を紅茶のカップに向けた。


そして、無言のまま杖を振ると、カップの中身を淹れ変えた。


「で?告白の返事は?」

「断ったに決まってる!!」

「なんだ。つまらん」

「貴様を楽しませるためではない」

「いや、でも本当に。セブルスが恋した時は応援するからな」

「ぬかせ」


ふんと鼻を鳴らしたセブルスは、自身が淹れた紅茶をくちに含み、数度満足げに頷いた。


そのあと、脱狼薬の様子を見ると、なんとか俺が思い描いていたようにクスリが完成しているようだった。念のため、検査をし、セブルスにも意見をもらってから、それをリーマスの元へ持っていく。


ついてくる必要はないと言ったのに、セブルスはなぜかついてきた。


リーマスの部屋に行くと、驚くことにそこには先客がいた。ハリーだ。


「祐希!?どうしてここに?」

「それはこっちのセリフだ。ハリーは、なんでここに?」

「やあ、よく来たね。祐希。それにセブルスも。ちょうど今、ハリーに水魔を見せていたところなんだ」

「へえ。次はグリンデローか。河童の次だし、ちょうどよさそうだよな」


水槽を覗けば、グリンデローがこちらにむかってファイティングポーズを向けてくる。こうやって見る分にはかわいげがあるように思うのだが、実際に水の中では会いたくないな。


「リーマス。これ。今飲んで」

「祐希が作ったものかい?」

「そう俺とセブルスで改良したものだ」

「私としては、味をもっと甘くしてほしいんだけどね」


湯気が立つゴブレットに鼻先を近づけ、リーマスは顔をしかめた。そして、甘えるように俺を見るが、それにはなんとも返せないため肩を竦める。どうにもこの薬は糖分とは相性が悪いらしく、何度か試してみたのだがどれも失敗に終わっている。効力が消えてしまうのだ。


「良い大人なんだから、それぐらい我慢しろって」

「仕方がない」


リーマスは諦めたようにゴブレットの中身を一気に飲みほした。


「どうだ?気持ち悪くなったりしないか?頭痛、吐き気、めまい。その他変わった症状は?」

「いや、特に問題はないようだ」

「本当だな?」

「君は医者にも向いているみたいだ」

「ちゃかすなよリーマス。大事なことなんだからな」

「本当になんともないよ」

「そうか?ならいいけど。とりあえず、今回ので様子見だ」

「ありがとう。祐希。セブルスも」

「こやつが勝手にやっていることだ。我輩は何もしていない」


つっけんどんに言ったセブルスは踵を返し颯爽と出て行ってしまった。用は済んだということだろう。


恐らく、薬の不具合などを見極めるためについてきてくれたのだろう。まったく素直じゃないやつだ。


「その薬…」


ハリーが空になったゴブレットとリーマス、そして俺へ順番に目を走らせる。


「リーマスの持病さ。でもこの持病に効く薬がまた厄介なんだ。俺はそれの改良をしているところ」

「最近スネイプの所に通っていたのはそのために?」

「まあな」

「君って本当に…、すごいよね」

「リーマスには世話になってるからな。恩返しってわけじゃねえけど、俺は魔法薬学が得意で、改良にも興味がある。幸いセブルスも協力してくれているんだ。やらない手はないだろう」


セブルスの名前を出した途端、難しい顔をしたハリーに苦笑する。本当にあいつはどれだけ嫌われているのやら。


「さてと。俺は談話室に戻るけど、ハリーはどうする?」

「あ、じゃあ僕も」


カップの中身を飲み干し、立ち上がったハリーに頷く。


「じゃあ、リーマス。夕飯後にでもまた様子見に来るから、無理はするなよ。あと、体調に変化があったら、マダム・ポンフリーの所か、セブルスに言うこと。もちろん、俺でもいい。いいな?」

「はいはい。わかっているよ」

「面倒くさがるのも、いつものことだと流すのもなしだぞ」

「まったく。まるで君は私の親のようだ。これじゃあ、どっちが保護者かわかったものじゃない」

「俺を息子にしておきたいなら、その秘密主義をどうにかすることだな」


俺がなおも言いつのると、リーマスは肩を竦め、降参と顔のサイドに両手を上げた。


「じゃあまた夜に」

「ああ。夜に」


俺たちはリーマスの部屋を出てゆっくりとした足取りでグリフィンドール寮へ向った。


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