人生幸福論 | ナノ


08:ふわふわした秘密  




「そういえば、ハグリッドの授業ってもう終わってるんだよね?」


レイの言葉に俺とサラは顔を見合わせた。


ある意味、すべての伏線となってくるハグリッド初回授業での事件。


知らなかったとはいえ、すでに変わってきている筋書きに、俺たちはあー、と声を漏らし苦笑を浮かべる。


「実はさ、」


俺たちの反応に首をかしげるレイに苦笑しつつ、事のあらましを伝えると、彼女はあきれ果てたと言った表情でサラを見た。


サラの魔法生物好きが、筋書きを変えてしまったのだから、その表情も仕方ないだろう。


「ってことは、どうあがいたって、この通りには最初から進まなかったわけね」

「そういうことになるな」

「これじゃあ、バックビークがいない今、もしシリウス・ブラックが捕まった時逃げられないじゃない」

「捕まらせなければいいんだろう」

「もちろん、そうなんだけど」

「それに、レイは最初から予想していただろう?」

「まあね。だってサラと祐希がいるのよ?バックビークが襲い掛かることはあっても、マルフォイが怪我をすることはないだろうって思ってたの。まあ、そうなっても、バックビークが裁判にかけられることになるだろうとは思っていたけどね」

「ドラコの性格をよくわかっているな」

「だって、わかりやすいでしょう?彼」


にっこりとほほ笑むレイに思わず噴き出した。


腹を抱えて笑う俺に、レイはきょとんと眼を瞬かせる。


「いやいや、毒舌っぷりも健在でなによりだ」

「毒舌?」


何のことだかわからないと首をかしげているが、本当に彼女は無自覚なのだから仕方がない。


俺は気にしないでくれと言って笑いをなんとかおさめた。








俺は創設者の部屋を出たあと、「闇の魔術に対する防衛術」のクラスに訪れていた。目的はその奥にある教授のための部屋だ。


ノックするとばさりと何かが落ちる音がしたかと思えばどたばたと続けざまに騒音がしてようやく扉がひらいた。


「よ、リーマス」

「祐希!」

「なんか落ちたみたいだったけど大丈夫か?」

「ああ。君ならこんなに焦ることもなかったね」

「?なんか悪かったな?」


突然の訪問者に何か焦らせたらしく謝ると気にしないでくれとリーマスは肩を竦めた。


「それで、どうしたんだい?こんな休日に」

「休日だから、だろう。平日には教師と生徒にならなければいけないんだからな。ルーピン先生?」


からかうように彼を呼ぶと、リーマスは眉をしかめた。


「君にそう呼ばれるのは慣れないね」

「そりゃそうだ。俺も慣れない」

「とにかく入るといい。紅茶を淹れよう。それとも、君は珈琲の方がいいかな?」

「いや、今日はリーマス特製の紅茶で」


開けてくれたドアの中に足を踏み入れる。


所狭しと並べられた教材らしき本が所狭しと積み上げられている。机の上もいっぱいいっぱいで机としての役割を果たせそうにはなかった。


「明日の予習か?」


机の上の本を持ち上げる。タイトルは『びっくり魔術のひっくり返し方』とある。どんな本かと内容を流し読めばさまざまな場面で取れる魔法の応用的な使い方について書かれているらしかった。


「私は長年勉強とは離れていたからね。さすがにいきなり教職を取るには復習もしておかないと」

「安心しろよ。どうあがいたって、去年よりは絶対にいい授業になるはずだから」

「ロックハート先生のことだね。他の先生方からも聞かされたよ」


リーマスが苦笑する。


ロックハートは今は記憶を取り戻すための旅路にあるそうだが、別に取り戻す必要もないのではないかと思う。世の中には思い出さなくていい記憶もあるものだ。


「俺のクラスは明日だよな」

「そうだね」

「楽しみにしてる」

「君に教える必要があるのか、僕にはわからないけどね」

「?俺、そんなにリーマスの前で魔法は使ってないだろ?」

「君の噂はいろいろ聞いているよ。守護霊だって出せるんだろう?」

「あー…、そういや、出したな。去年」

「あれは、成人した魔法使いだって使える者は多くはない。それをその歳で使えるなら、上級者と同じだろう。誰かに教えてもらったのかい?」

「いや、自分で習得した」

「大したものだ」


感心したようにうなずくリーマスに苦笑する。俺はもともとこの術を知っているのだ。だからこそ、できたことであり、感心されるようなことでは断じてない。


「そんなんじゃない。そんなんじゃないんだ…」

「祐希。私はね、君が何か大きなものを隠していることを知っている」

「!!」

「でも、それを無理に聞き出そうとは思わないんだ。祐希が言いたくなったら言えばいい。私はいつだって君の味方だから」

「……あんまり甘やかすとつけあがるぜ?」

「私の特権だろう?君を甘やかすのは」


顔をそむける。微笑むリーマスの目はどこまでも優しく、まるで本当に親のようでくすぐったくなる。


「んなこと言ってたら、一生話さないかもしれない」

「それでもいいよ」

「もしリーマスに危害が加わるような秘密だったらどうするんだよ」

「君にならそれも受け止めるさ。それに、危害を加える秘密なら私の方が問題だ」

「それこそふわふわした小さな問題だ」

「なら、君の秘密も同じ、ふわふわした小さなことさ」

「まだ聞いてもいねえのに、なんでそんなこと言えるんだよ」

「どんな秘密であろうと、私の秘密をふわふわした小さな問題だと言える君が優しい人だということを知っているからね。私にはそれで充分なんだよ」

「いつか騙されるぞ」

「大丈夫だ。私は人を見る目はあるからね」


リーマスの手が伸ばされる。その手が俺の短い黒髪をかき混ぜるようにして頭を撫でた。大人しくされるがままになるが、顔が熱を持つ。見られたくなくて顔をそむけると、リーマスがクッと喉を鳴らした。


「笑うなよな」

「いつも済ましている君が珍しい」

「うっさい」

「君は大人びているからね」

「それより、明日はどんな授業にするんだよ」

「それは明日のお楽しみだ」


あからさまに話を逸らした俺だが、リーマスはウインク付きで答えてくれた。


それからしばらく、去年、一昨年の授業内容について話したり、リーマスの学生時代の授業についでも聞いたりした。


あっというまに消灯時間になり、リーマスに別れを告げて寮へと戻る。


談話室に入ると、隅でハーマイオニーが分厚い本を広げ、羊皮紙に何かを必死に書き込んでいた。


「ハーマイオニー」


声をかけると、顔をあげたハーマイオニーの目の下には隈ができている。


「疲れた顔をしてる。大丈夫か?」

「ええ。もちろん!」

「睡眠時間も大切だぜ?」

「わかってるわ!でも、私この課題をやらないと、明日マグル学に提出できないのよ」


グリフィンドールの明日の授業内容にマグル学はなかったはずだ。


そのことに気付かず失言をしていることに、気づいていないハーマイオニーはやはり普段よりも注意力が散漫になっているのだろう。


まったく。この歳で随分無茶をする。


「そうか。本当なら紅茶の一つでも用意したいんだが、あいにく俺の作る紅茶は味が微妙なんだ」

「微妙?」


羊皮紙に向かっていたハーマイオニーの目が俺に向く。


「そう。飲めないほど拙いわけじゃないが、上手いとは到底言えない味なんだそうだ」

「それは確かに…、微妙ね」

「なんだったら飲んでみるか?」

「今は遠慮しておくわ」

「その方がいいだろうな。代わりと言っちゃなんだが」


杖を一振りする。するとテーブルの上にクッキーが数枚皿と共に現れた。


「夜食に食べるといい。腹が減ると集中力が途切れる」

「あら、気が利くのね。ロンとは大違い!」

「言ってやるな」


ハーマイオニーの嫌味がこもった言い方に苦笑する。最近は、ハーマイオニーがいろいろと隠し事をしていることや、クルックシャンクスがロンのネズミのスキャバーズを狙っていることなどがあってロンはハーマイオニーに対する当たりが強くなっているのだ。


ハーマイオニーも忙しさに心理的に余裕がなく、ピリピリしているためぶつかり合うことが増えたように思う。


「無理はしすぎるなよ」


最後に、ハーマイオニーの頭をぽんぽんと撫でてから俺は自分の部屋へと上がっていった。




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