リーマスの部屋のドアは開いていた。
乱雑に積み上げられていた書物類は綺麗に縛られ隅に重なっている。水魔の水槽は空っぽになっており、スーツケースは中身をいっぱいにさせたまま口をあけていた。
「本当にやめるのか」
「祐希」
「続けてもいいんじゃないのか?リーマスの授業は好評だったぞ」
「ありがとう」
リーマスが狼人間だとばれたわけでもないのに、リーマスは原作通り教授職を辞任するという。何が原因だろうかと思って慌ててやってきたのだが、リーマスの表情は晴れやかだった。
「理由を聞いてもいいか?」
「シリウスだよ」
「シリウス?」
「これから、きっと大変だろう。裁判や、社会復帰だってある」
「まあそうだな。職につくのも一苦労かもしれない」
日刊預言者新聞によってシリウスの英雄談が大々的に飾られていたため、しばらくはメディアに引っ張りだこかもしれないが、シリウス自身あまりおおっぴらに今回のことを語ったりはしていないようだった。
まあ、シリウスにとっては、ピーターも取り逃がしたことだし、誇るようなことではないのだろう。
「今まで、僕は彼が犯人だと疑わなかった。その償いじゃないけど、今まで何もしてやれなかったぶん支えたいと思っているんだ」
「そういうことか」
「それに、祐希は知らないかもしれないけど、シリウスは実家が大っ嫌いでね。どうせ今も家には帰っていないだろうから、寝る場所の提供もしようと思ってる」
「ってことは、夏休みにはシリウスと一つ屋根の下、か?」
「そういうこと。反対するかい?」
「いいや。大賛成だ」
「よかった」
不意に、リーマスは机の上に広げている羊皮紙に目をやると、ふっと相好を崩した。
「ハリーが来るよ」
「リーマスが辞めるからだろう」
ハリーはひどく焦ったようにこの部屋に来た。ノックをする前に、俺に気づいて驚いた顔をする。
「祐希!」
「よ。ハリー」
「君がやってくるのが見えたよ」
リーマスは柔和な笑みを浮かべる。
「今、ハグリッドに会いました。先生がお辞めになったって言ってました。嘘でしょう?」
「いや本当だ」
「どうしてなんですか?まさかシリウスのことで?」
俺とリーマスは顔を見合わせた。そして、吹き出すようにしてお互いに笑う。
「正解だ。でも、おそらく君が思っているような意味合いではないだろうけどね」
「どういうことですか?」
「ハリー、私はねシリウスを支えてやりたいんだ。今まではそれをすることも、しようとも思わなかったからね」
「でも、辞める必要なんて」
「シリウスは、12年もの月日を無駄にした。それを取り戻すのは、一人では大変だろう」
「……先生は今までで最高の『闇の魔術に対する防衛術』の先生でした。行かないでほしいです」
まあ、一年と二年の教授とは比べるべくもないだろう。行かないでほしいというのは、ハリーの本当の願いのようだが、シリウスのことを考えると強くは言えないでいるようだった。
「そうだ。これを君に返そう」
リーマスは机の上に広げていた「忍びの地図」を差し出した。それはただの羊皮紙に戻っていた。
「私はもう君の先生ではない。だから、これを君に返しても別に後ろめたい気持ちはない。私にはなんの役にもたたないものだ。それに、君とロンとハーマイオニー、祐希なら使い道をみつけることだろう」
ハリーは地図を受け取ると、にっこりと笑った。
「ムニー、ワームテール、パッドフット、プロングズが僕を学校から誘い出したいと思うだろうって、先生、そうおっしゃいました。面白がってそうするだろうって」
「ああ、その通りだっただろうね。ジェームズだったら自分の息子がこの城を抜け出す秘密の通路を一つも知らずに過ごしたなんてことになったら、大いに失望しただろう。これは間違いなく言える」
リーマスの言葉に俺も頷いた。俺はシリウスやリーマスから聞いた人柄しか知らないけれど、確かにそうだろうと思えた。
「それと、もし君の保護者が許してくれるのなら、夏休みに私の家においで。それは祐希の家でもあるんだが、おそらくしばらくはシリウスの家にもなるだろうからね」
「え!?ってことは、シリウスと一緒に暮らすの?」
その驚きは俺へと向けられた。
「家がないと何かと不便だろうってリーマスがな」
「僕、絶対に遊びに行くよ!」
日にちが決まったら連絡することを約束して、俺たちはリーマスの私室から出た。今日は学年末パーティーだ。試験も無事に全科目クリアできたし、今年もグリディンドールが優勝したことだしと俺たちは大いに食べ、のみ、語り、笑いあった。
fin.
(Next is the Goblet of Fire ...)