ドンドンと荒々しく扉を叩く音に苛立ちながらも、客に対して無礼であってはならないと思い、俺は玄関へと急いだ。

扉をあけると、目の前には幼なじみの彼がしらない青年を背負って立っていた。
数ヶ月ぶりに顔を出したと思えば、厄介事と共に戻ってきたらしい。


「お前、どうしたんだよ。」
「……この人、落ちてきた。」


レッドはその他に二言ほど現状説明の言葉を発して、俺に見ず知らずの青年を預けてどこかに行ってしまった。
待てよ、と叫んだ言葉は乱暴に閉められたら扉によって跳ね返されてしまった。俺はレッドを追いかけて連れ戻そうとしたが、高熱をだしている人をないがしろにするわけにもいかなかった。とりあえず、自分とさほど体格の変わらない彼を仮眠用のベッドへと運び、薬を飲ませて様子を見ることにした。


『お前、どうしたんだよ。』
この言葉は、まぎれもなくレッドに向けたものだったのに、あいつはそれを分かっていて逃げ出したのだろう。あんな不安定なレッドをみたのは久しぶりだった。



(あいつ、たぶん泣いてた。)

俺と一度も視線をあわさずとも、俺はいつもより赤く充血したあいつの目を見逃さなかった。

「帰って来たらただじゃおかねえ。」

いらつきをどこにやることもできず、ソファーの上のクッションをぼふりと殴りつける。それとほぼ同時に、ベッドの方で誰かが動く気配がした。


「あ、起きたか?具合どうだ?まだつらい?」
「あ…いえ。大丈夫です。」


相手は俺のことを多少警戒しているようだったが、それは仕方がないだろう。俺だって逆の立場なら、お礼は言えども警戒はとかないだろう。
それにしても同い年くらいかと思っていたが、ずいぶん幼い印象をうける。それに怖いくらいに細い。
(俺も細いほうだと思っていたけど、こいつは折れそうなくらい…。)


「あの、すみませんでした。」

緑の髪と瞳に、綺麗だなと見惚れていると、相手が口を開いた。


「いーの、いーの!気にすんなって。俺はグリーン。君を運んできたのはレッドっていうんだ。今は出かけてるけど…もうすぐ帰ってくるはずだよ。」
「グリーンさん、本当にすみませんでした。」

深々と頭をさげて、そいつは謝ってきた。お礼ならともかく、なんというか、なぜ謝られているのかがよくわからない。

「謝るなって。」

つい威圧感を含んだ声でそう言ってしまい、あわててそれを取り繕おうとした。


「…え?」
「…いや、いいや。ココア飲むか?」
「…頂きます。」


キッチンでココアをつくりながら、ふと幼い頃のレッドを思い出した。
言葉の数が少なく、誤解を招きやすい彼。それを全て理解することができるのは俺しかいない、なんておごっていた時期もあったなあと思う。

(あいつも、なのか?)

ありがとう、と言えない。ごめんね、としか言えない。そうだとすれば、俺はきつい言い方をしてしまったのかもしれない。



ココアを差し出すと、彼はほっとしたような顔つきになった。やはりどこか幼すぎるような印象をうける。

「なあ、君の名前は?」
「N。」

ぽつりと答えた彼の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。何があったかは分からないが、何かがあったことは確かなようだった。
色素の薄い緑の髪の毛に優しく触れるように、彼の頭を撫でる。


「Nのことはよく知らないけど、言いたいことは言った方がいいと思うよ。」


この言葉を皮きりに、Nは大粒の涙をこぼし始めた。そして、途切れ途切れではあるが自分の素性を俺に教えてくれた。どうやらこいつも、幼いときから苦労した質だということがわかり、今までの言動にも納得がいった。







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