ボクにとってポケモンはトモダチで、周りのニンゲンはテキだ。
正しくはテキだった、なのだが。

それは当然で



それはボクにとって空気同然であったし、周りにボクを諭す大人もいなかった。
傷ついたポケモン、傷つけるニンゲン。ボクはニンゲンが信じられなくなっていた。ボクだってニンゲンで、ニンゲンから生まれたってことは十分理解はしているけれど、理解することと受け入れることは別次元の話だった。
ボクは王と呼ばれていたし、ボクも自分以外にポケモンを解放する人はいないと確信していた。


全てはうぬぼれだったのだけれど。





体中が熱い。頭も痛い。しかし不思議と微かに意識はあって、遠くでレシラムがボクのことを心配して鳴いているのが聞こえた。大丈夫だと言いたいが、言葉は二酸化炭素となって口から吐き出されるだけだった。
薄目を開けてみると、見ず知らずの男性が僕を抱えてくれていた。初めて会ったはずなのに、初めてな気がしない。

(…トウヤ?)

瞳の奥に隠れている色が、彼によく似ていた。強いけれど、どこか脆いような瞳。彼は今頃何をしているだろうか。元気でいるのだろうか。

(でも、この人は目が赤い、みたい。)

目を開けているのも限界になって、トウヤをまぶたの裏に思い出しながらゆっくりと目を閉じた。




彼はボクを救ってくれた。そしてボクは彼に恋をした。彼はボクにとって、かけがえのない大切な人だ。
でも、彼にはボクじゃあ駄目なんだと気づいてサヨナラをしたまま、一度も会っていない。

なのに、どうして。

どうしてこんなにもトウヤはボクの中に溢れているのだろう。






目を覚ますと、ボクはしらない部屋のベッドの上に寝かされていた。知らない誰かに助けられたときよりだいぶ体が楽になっていた。
両目をこすると、手のひらがしめる感じがして、自分は泣いていたのだと気がついた。


(女々しいなあ…。)


ベッドからおりようとしたとき、部屋の奥の方から声がした。ボクはピタリと動きを止める。


「あ、起きたか?具合どうだ?まだつらい?」
「あ…いえ。大丈夫です。」


またしても知らない顔に動揺はしたものの、恩人であることに変わりはないだろう。それに目の前の彼はトウヤやトウコのような優しい笑顔をしていた。ボクの周りには無かった柔らかい笑顔だ。悪い人ではないのだろう。


「あの、すみませんでした。」
「いーの、いーの!気にすんなって。俺はグリーン。君を運んできたのはレッドっていうんだ。今は出かけてるけど…もうすぐ帰ってくるはずだよ。」
「グリーンさん、本当にすみませんでした。」

深々と頭をさげ、もう一度グリーンさんと顔を合わせると、彼は先ほどとは違った顔つきになっていた。

「謝るなって。」
「…え?」
「…いや、いいや。ココア飲むか?」
「…頂きます。」

ボクはグリーンさんがキッチンからもってきたホットココアを両手で受け取った。しばらくして指先から温かさがじんわりと体中に伝わってきた。

ココアを一口のむと、たっぷりのった生クリームとココアのほろ苦さがまざりあって絶妙な味が口内に広がった。
ココアの温かさは、ボクの胸のあたりにもじんわりと広がってくるようで、優しさが味にでるというのはこのことだろうかと、ふと思った。



「どうだ?」
「美味しいです。とても。」

そうか、といって笑うグリーンさんの笑顔は、何故かボクに海の向こうにいる彼を思い出させて心の底がほんの少しだけうずいた。



二口目のココアは、最初よりほんの少しだけしょっぱい味がした。


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それは燦然と

につながります。

Nって脆そうだなっていう。





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