私がやってたホラゲーの名前は『ib』。

舞台は美術館。ある日家族と主人公のイヴ(可愛い女の子)が美術館に行く。イヴは家族とは別行動をして作品を見ていたが、突然停電してしまう。

そこから妙な世界に巻き込まれ、脱出しようと試みるゲームだ。

実況動画もそこそこ種類がある、メジャーなゲームだと私は思う。


それを、折角だから皆でプレイしてみよう!というのが、今回の奥ちゃんの考えだ。

いっちゃんにとって、今の奥ちゃんは悪魔か鬼くらいに見えてるかもしれない。

ホラーが苦手な奴にホラゲーをやらせるって、どんな苦行だ。

しかもメインプレイヤーをいっちゃんに押し付けて、奥ちゃんは後ろからニマニマと笑うのみ。

見た目がアレだから、ホントに無邪気に笑ってるようにしか見えなくて、余計悪魔みたいに感じる。恐ろしい子だ。


そんなことを言ってる間に、オープニング的なものは終了。イヴは知らない場所に飛ばされ(?)辺りは若干暗くなった。



「これどうすんの?ねぇどうすんの!?」

「落ちつけいっちゃん。まだ何にも無いから」

「だってホラゲーとかやるの初めて…!」

「あ、おだ。そこ右に行って。花瓶があるから」

「花瓶?…ひっ」



なっちゃんはもうibの実況を全部見ているらしく、ある程度だったら覚えてると言ってた。

言われるがままいっちゃんは右に行き、そこでビビる。

ゲーム画面に現れた壁一面に、ひたすら『おいで』と書かれているのだ。これでビビってると、この後耐えられないかもな。

そのまま進むと、なっちゃんの言う通り花瓶が置いてあった。赤いバラが生けてある。操作するとそれを取ることが出来た。

同時に、画面左上に表示される赤いバラと、“3”という数字。



「これは…?」

「んー、まぁライフポイントみたいな?0になったら死ぬんじゃなかったかな」

「ちゃんと覚えておいてよー!」

「無理だって。あたし、そこまで記憶力無いもん」

「記憶力が良かったら勉強で苦労してないよね〜」

「うわ、奥ちゃんの顔が未だに輝いてる…」



ホントに恐ろしい少女だなお前は。

まぁなっちゃんが言ってることは正しい。そのバラは所謂HP。三つしかないHPってのも嫌な話だけど、ホラゲーなんてそんなもんかもしれない。

バラを取ったことで上には何も無くなった机をもう1回調べると動かせたので、扉の中へ。

部屋の中には青い鍵が一つと大きな壁画があるだけで、とりあえず鍵を拾う。

…すると。


ニヤリ



「ひッ!」

「いやここで怖がるなって」

「壁画が動いただけだよ」



鍵を取ると、壁画の表情が動いた。鍵を取る前は優しく微笑んでいたのに、突然猫目になって口元が歪んでる。

壁の下には何かの紙が貼ってあって、近付くと読めた。



「『そのバラ ?ちる時 貴女も?ち果てる』……」

「主人公のイブ、読めない漢字があるらしくてね〜」

「それがハテナマークで表示されるんだよ」

「何書いてあるかは一目瞭然だけどねぇ」

「これがさっき言ってた、バラがHPってやつ…?」

「そうそう」



部屋を出ると、壁の字が変わっていた。部屋に入る前は『おいで』と書かれていたのに、今は『かえせ』と書かれている。そして相変わらず血文字っぽい。

来た道を戻ろうとすればいきなり地面に書かれる『かえせ』に予想通りいっちゃんがビビったりしつつも、なっちゃんのアテになるかならないか微妙なアドバイスの下、先へ進んで行った。



*****



「こ、怖かった…!」

「でも面白かったっしょ?」

「もう二度とやんない……ホラゲー嫌…」

「うわぁいっちゃんがここまでグッタリしてんのレアじゃない?写メっとこ」

「奥ちゃんもうやめたげてよ、いっちゃんのライフはもうゼロだよ」



あの後、ギャリーという女口調の男性と会ったり、金髪の可愛い少女メアリーを仲間にしたり。

途中で選択間違えてバッドエンド迎えちゃったり。ああ、バッドエンドはメアリーにギャリーのバラを全部摘まれて、イブが元の世界に帰った後ギャリーが肖像になっちゃうヤツだった。“忘れられた肖像”っての。

いっちゃんは結末はどうであれちゃんと終わったからやめようとしたんだけど、奥ちゃんとなっちゃんが「ギャリーを助けようよおだちゃん!」「あんなに頑張ってたギャリーを救ってこそ勇者でしょ!」とか言って、いっちゃんの「このゲーム勇者設定関係無くね!?」ってツッコミが飛んだのは余談だ。

そんでいっちゃんが泣く泣くもう1回。途中でセーブしてあったからそこからスタートした。その時はちゃんとギャリー助けたよ。



「まさか、あんな可愛い美少女がヤンデレだったなんて…」

「主人公を殺そうとしてたもんねぇ」

「ギャリーは確実に殺してたし」

「あ、あたしが知ってる限りだともう1個バッドエンドがあるんだよ。やる?」

「もう勘弁してください……」



面白いんだけどなぁib。問題形式で頭使うし。今回は無駄に頭が良いいっちゃんがプレイしてたから案外すんなり行けた。

スッゴイいろんなところでビビってたけど。うん、暫くからかうネタが出来た。

でももうちょっと経たないといっちゃんは動けそうもないなぁなんて思ってたら、隣の奥ちゃんが何かを思いついたらしい。

それはもう輝く程の笑顔を浮かべていて……だけどどこか悪そうに見えるのは何でだろう。



「芹都ちゃん、ホラゲーって他にもある?」

「へ、ああ…一応。零シリーズなら少しだけ」

「それ、やろっか。今度はいっちゃんの目の前で祐香達がプレイしよう♪」

ちょっと奥ちゃん!?『♪』を付けて言うことじゃないよ!さっき散々やったじゃん!」

「ナイス奥ちゃん!早速準備しよう!」

「おいコラ相早菜々里!!」



おいおい……。どんだけいっちゃんを追い詰める気だコイツ等。

予感が見事に的中したことに喜べばいいのか悲しめばいいのか分からん。

いっちゃんはいそいそと準備する2人を止めようと若干涙目だ。うん、まぁ零シリーズは戦闘も入るしバッドエンドも多いからねぇ。話が深くて好きなんだけど。

視線で私に助けを求めるいっちゃんと目が合う。



「ねぇ芹嬢やってー!」

「…………しょうがないな」

「Σ芹嬢!?」

「だって私も零シリーズやりたいし」

「流石芹都ちゃん話が分かる!!」

「芹嬢の裏切り者!!!」



失礼な、私は自分に正直なだけだ。

毎日疲労困憊になる程ツッコませ、セクハラしてくるいっちゃんに私からのささやかな仕返しを込めていることは言わないでおこう。

未だ「嫌だ」と叫ぶいっちゃんを一度(物理で)黙らせて、私はパソコンのゲーム画面をクリックした。



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[mokuji]



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