「疲れたー!!」

「うおっ!?」

「奥ちゃん声デカイ!」



開始して約2時間。

最初にギブアップを言ったのは祐香だった。



「い、いきなり何…?」

「飽きた疲れた眠いもうヤダ」

「うわぁ、やる気ナッシングの台詞をスラスラと…」

「飽きた疲れた眠い飽きた飽きた飽きた飽きた飽きた飽きt」

「分かった分かった!しつこい!」

「奥ちゃんどれくらい進んだ〜?」

「7ページくらい」

「2時間やって7ページなの?」



祐香のスペースには、解きかけのワークとシャーペンが無動作に置かれている。

隣には答えの本も置かれているが…どうやら、開く気も削がれてしまったようだ。



「もうこの際全部間違えたってことで答え書いちゃおうかなー」

「うわぁ、意味無ぇ」

「そもそも祐香に数学をやらせようっていうのがおかしいんだよ。数学なんて分かるワケないじゃん!何?舐めてんの?どーせ祐香なんか頭悪いよ脳ミソ苺ゼリーだよプルプルだよ詰まってても何の役にも立たないよ数学滅べ!!!」

「落ち着け奥ちゃん!」

「奥ちゃんが壊れたぁぁあああ!!!」

「それは大変だね、今スグ直サナイト……アレ?何ダカ頭ガオカシクナッテキタゾ」

「芹嬢!なっちゃんも壊れた!」

「だぁああお前等はーーー!!」



祐香と菜々里は勉強が嫌いだ。

いや、この場にいる全員が嫌いなのだが、その中でも2人は特に嫌い度が高い。

まるで成績に比例するかの様に、祐香と菜々里は一定時間以上勉強すると湯気が出るのを通り越して思考回路が壊れ始める。

本人達曰く「拒絶反応が限界を越える」らしい。恐ろしい勉強嫌い脳。



「奥ちゃんとなっちゃん、どっちも数学と英語大っ嫌いだからな…。でも今回はだいぶ保ったか」

「最短記録で10分保つか保たないかくらいだもんね。2人にしてはかなり頑張ったんじゃない?」

「芹都ちゃーん!ゲームしていいー?」

「何の為にウチに来たんだい奥ちゃん」

「遊ぶ為(主に芹都ちゃんで)」

「括弧の中聞こえてんぞゴラァ…!」



諦めろ芹都。いつものことだ。



「黙れナレーション!!いつもだから更に怒ってんだろ!!!」

「ダメだよ芹都ちゃん。祐香は芹都ちゃんの反応が好きでやってるんだから。
寧ろ常に反応を返して。決してMなんかになんないでね。イジられるのを待ってるようなヤツは用無しだから」

「お前もナレーションと一緒に滅べ見た目詐欺師!!」



芹都が机をバンバン叩きながら叫ぶ。夏休みに入ってもテンションが通常運転の3人を相手だ。それも仕方ないだろう。

散々叫んだ後大きく深呼吸をして、芹都は出していた宿題をしまい始める。それに疑問を感じた出雲が首を傾げた。



「あれ、芹嬢どうしたの?」

「どうせもう勉強しないだろ。つか、私はもう今日分は終わった」

「早くね?」

「お前等が遅い。
ほら、奥ちゃんとなっちゃん起きろ。息抜きすんぞ。さっさと準備しろ」

「……息抜きぃー?」

「アニ○イト行くぞ」

「「「マジで!?」」」

「一々ハモるよなぁ」



突っ伏していた祐香と菜々里がガバリと顔を上げ、出雲さえも驚きの声を上げた。

それを華麗にスルーした芹都は既にテキパキと出掛ける支度をしている。それを見た3人は視線を合わせて、すぐに芹都と同じ様に支度をしだした。

その口元はニヤけている。



「芹嬢もやっぱり遊びたかったんでしょ!」

「うっさいな」

「祐香は知ってるよ。まだやる筈だった宿題あるでしょ。だけどその予定をちょっとずらしたよね!祐香達と遊ぶ為に!」

「う…!」

「もう芹嬢ツンデレなんだから!素直に言ってくれればいいのに!」

「誰がツンデレだ。
…勉強しろって言った手前なのに、『遊びたい』とか言えるワケ無いだろ。それにほら、今日は欲しかった漫画の発売日だし、アニ○イトで買うと特典付くから!」

「じゃあそういう事にしておいてあげるね〜」

「そのニヤけ顔を止めろ奥ちゃん…!!」



4人はまだ中学生。遊びたいお年頃だ。

しかも夏休みという絶好の遊び期間に、遊ばないのは地獄だ。

まだまだ夏休みは始まったばかり。今日くらいは、遊んでもバチは当たらない。

折角嫌いな数学を頑張った祐香と、呪文に見える英語を壊れるまでやった菜々里。少しのご褒美という事で。



「さて、お金は持ったな!」

「「「押忍!」」」

「いざ、アニ○イトへ…出陣!!」

「「「アイアイサー!!!」」」



炎天下、元気に家を出る4つの影を、宿題が見送った。



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