俺は、死んだのだろうか。
身体の感覚がある。生きているのか。あの傷で。
まず目に入ったのは見知らぬ女の顔だった。下からのぞいていることに、なるのだろうか。
「…っ、」
「あ!起きられました!?」
少し息を呑むと。女がこちらを(というか下を)向いた。どうやら俺は膝枕をされている状態らしい。
「……………ここは…」
「さっき貴方が倒れてた場所の近くにあった小屋です。勝手ながら移動させていただきまして…。あ、あそこで誰かと待ち合わせとかは……」
「……いや」
「で、ですよね。」
そこで気づいた。さっきより全然身体が重くない。毒が抜けているような状態だった。
痛むのは戦闘したときにうけた傷だけだ。どういうことだと身体を確かめようとして、俺は身体を起こした。「あ、だだだ大丈夫ですか」と噛みまくりながら聞き返してくるので「問題はない」というように手を出す。
「あなたが、助けてくださったんですか…」
「え、えぇ一応。傷も応急処置ですがキズぐすりで…。ほ、本当は人間に使うもんじゃないんですけど」
一番ひどい出血をしていた腕には包帯が巻かれてある。見ず知らずのこの人が治療までしてくれたとでも言うのか。まるで伊作みたいな人だ。
「ありがとうございます」
「あ、いえいえ。ちょ、頭なんて下げないでください!傷に触りますよ!」
「いえ、貴方は見ず知らずの私の命を救ってくださった。感謝せずにはいられません」
「いいですって!気にしないでください!」
普通は毒気がないということは解毒剤を持っているということだ。どう考えても同業者だろう。傷につけた薬が人間用じゃないということは、狼などに使うようなものだろうか。
しかし、くノ一にしては、なんというか。………見たことのない服装をしている。
南蛮の服装なのだろうか。しかしタソガレドキのファッションショーでも見たことのない服装だな。
「あ、名乗り遅れました。私翔子と申します。ジョウト出身のトレーナーです。今はこれでも殿堂入りした身なのでゆっくりふらふら全国を旅している者です」
「翔子さん、と言うのですね。ところで、お聞きしたいんですけども」
「はい?」
何故、俺の名前を知っていたんですか?
「は?」
「え?」
「私が、貴方の名前を?」
「え、えぇ、先ほど助けていただいたとき私の名前を呼んでいたでしょう」
「え?」
「え?」
翔子さんと名乗る彼女は、俺の咄嗟の質問に目を白黒させた。
そうだ。追っ手ではないと判断するのはまだ早い。さっきこの人は俺の名を、名というか、あだ名を呼んだ。いつも伊作が呼んでいるように「留さん」という単語を出して俺の元に来た。
「え、私あなたの名前なんて知りませんよ!初対面じゃないですか!」
「だってさっき、留さんと、仰いませんでしたか」
「と、とめ、さん?」
暫く考え、はっ!と合点があったかのように息を吸う。
「すいません、あなたもとめさんと言うのですか。私のエーフィも"とめ"という名前なもんで。あ、本当は「とめさぶろー」って言うんですけど、あの有名な姓名判断のおじさんにつけていただいたんです。
でも、ちょっと長いので"とめさん"と呼んでいるんですけれども」
この短時間で聞いたことのない単語が出すぎてこの人、いや、翔子さんの言っている事が半分以上理解できないでいる。さっきから出てくる俺の理解できない南蛮の言葉だろうか。俺の知らない言葉なのだろうか。
「えーふぃ、とは。」
「あ、とめさんのことです。今屋根の上で見張りをしてるんですけど。」
とめさーん!と屋根に向かって一声かけると、屋根を何かが歩く音が聞こえ、
窓から入ってきたのはさっきの綺麗な色をした猫だった。