「はいもんじろう毛づくろい終わり」
「♪」
「こらー!なんで終わったばっかりで落ち葉の上に飛び乗るのー!」
ここは学園の裏のまた裏山。滅多に人のこないと言われている場所である。
何故そんな場所にいるか?それは身体のデカいこいつらの毛づくろいをするためである。ここは食満さんに教えてもらった場所なのだ。
私の仲間たちは綺麗な子ばっかりだ。もんじろうととめさんとせんぞうは美しすぎて、週に一回は毛づくろいしてやらないといけない。っていうか、本当はコガネの地下にいるお兄さんたちにやってもらうのが一番いいのだが、何せせんぞうももんじろうも伝説のポケモンだ。それに、デカい。あそこで出すわけにはいかない。
なのでこの二匹にいたっては私自身が毛づくろいや散髪…散羽?毛?をしてあげている。
それにそれを見たとめさんも「俺も俺も」と言わんばかりに毛づくろいを要求してくるので、もうしばらくコガネのお兄さんたちには会っていない…。割引券まで貰ったのに…。お前はまったく…。
「あれ?とめさん?」
もんじろうを毛づくろいしている間に、とめさんが離れてしまった。さっきまでその辺ピョンピョンしてたのに。
「もんじろとめさん見なかった?」
「(フルフル)」
「そっか。じゃぁいいや、ボールに戻ってていいよ」
シュパッと音を立て、もんじろうはボールの中に戻った。
「とめさーん?」
そんな遠くにはいってないはずだ。どこかで蝶々でも見つけて追っかけていってしまったn「エーフィ!」
「ブッ!!」
前方から凄い勢いで飛んできたとめさんを一瞬視界に入れると、視界は真っ黒になった。こいつ顔面に飛び掛ってきやがったな!
「痛ッ!何すんのとめさん!」
「…おや、お前は翔子じゃないか」
「うわあああああ!!!」
とめさんが飛んできた方向にいたのは、あの食満さんのご友人の、超美人なのに男の人。
「あ、立花さんじゃないですか」
「なんだ今の叫び声は」
「そりゃ普通驚きますって…。ここあんまり人来ないって聞いたのに…」
「先日ここに罠を仕掛けたのだが、一つ回収するのを忘れていてな。それを取りに来たとき、その、猫が」
「あ、とめさんですか?」
「とめ。そう、とめと目が合ってな。声をかけたら逃げられたので追ったら」
私が此処にいたと。多分とめさんも突然のことに驚いただけだろう。今は「お前何もってんだそれ武器じゃねぇだろうな」と言いながら立花さんの手荷物に興味を示している。そんなとめの頭を撫でてくれる立花さんの笑顔がまぶしい。超ふつくしいです。
「で?」
「え?」
「もんじろうという名前のやつはいたな。そしてこいつはとめさぶろうなのだろう。で、私と同じ名前の仲間はいないのか」
「あー…えっと…」
「私はいないのか?」
「い、いますよ、いるんですけど…」
いる。確かに"せんぞう"と名づけた仲間がいる。
だがあいつはとんでもなくプライドが高いのだ。せんぞうを仲間に加えた日、実家に送り届けられ、新しい仲間をウツギ博士に紹介したとき、「翔子以外の貧民ごときが私に触れるでない」とウツギ博士を吹き飛ばしたのだ。まじビックリした。あの声は私にしか聞こえていないとはいえ、せんぞうのプライドの高さったらないわ。
確かに彼は伝説のポケモンだ。一般人には触れること、もしかしたら見ることすらできないのかもしれない。
見れるだけでもめちゃめちゃ運がいいことだ。
それ以来、知り合いにせんぞうを紹介するときは、一度頭を下げてから、自分をめちゃめちゃ下にしてから触れる許可を貰うようにと前もって言ってあるのだ。何も知らずに手を出してまたふきとばされたらたまったもんじゃない。
それにせんぞうは潔癖症かテメェはと言いたくなるほどの綺麗好き、そして、綺麗好きである…。彼のためにゴージャスボールを知り合いから譲ってもらったのだ。私は人間だから解らないがアレの中は相当居心地が良いんだそうな。よく解らんが。
以上のことを踏ふまえ、………あまり、立花さんには、あわせたくないというのが、本音である。
そのお美しい顔に怪我でも負われたら私は私は…!
「あのですね、」
「全て声に出ていたぞ」
「な、なんですと…!」
「大体は理解した。そいつが出たとき、私が深く頭を下げればいいのだろう。」
「た、立花さん!」
立花さん超いい人!理解力ありすぎて惚れる!
「だが、断る」
「ナンダッテー!?」
「私にもプライドがある。獣如きに頭を下げるなど論外だ」
「だ、だって襲われたら…!怪我をするかもしれないのに!」
「翔子、私も忍として六年間学んできた。さすがに獣の攻撃ぐらいかわせる」
さぁ、早く出せ。
そういう立花さんの正面のお顔美しくてツラい。本当に男性なんです??
「…怪我しても恨まないでくださいね」
そういって腰にある一番輝くボールを高く投げる。現れたせんぞうは、いつもどおり綺麗な羽をしていた。
ちらりと横を見ると、立花さんはまさに圧倒されていた。
先日食満さんがこの世界には「鳳凰という神話に出てくる伝説の鳥がいる」という話をしてくれた。その絵も見せてくれたが、確かにホウオウそっくりなのだ。何かこの世界とリンクしているところがあるのだろうか。
きっと立花さんも鳳凰を知っているのだろう。それを同じような容姿をしたポケモンが目の前にいる。そして、こいつの名前が、自分と同じ。
「…なんて、美しい………」
「でしょう!せんぞう、こちら、立花仙蔵さん。貴方と同じ名前の方よ」
「…」
あ、まずい、せんぞうちょっと怒ってるかもしれない。そりゃそうか、この間ほのおのうずしてすぐしまっちゃったんだもんそりゃちょっと怒るわ。
「こ、この間はごめんね、ちょっと色々あってね。ほ、ほら、今からせんぞうの大好きな散髪してあげるかr…た、立花さん!?」
せんぞうのためにハサミとブラシを出すと、立花さんが一歩、また一歩とせんぞうに近寄った。
「た、立花さん!」
「お前の名前は、せんぞうというのか。奇遇だな、私も仙蔵というのだ」
「…」
「何かの縁だ。私と友になってはくれないだろうか」
「…」
「……案ずるな。お前を傷つけた人間のように、お前を無理矢理手に入れるような真似も、攻撃するような真似も、…お前の主を傷つけるような真似もしない」
「!」
「た、立花さん、何処でその話を…」
この子達がわけありだという話は、潮江さんと食満さんしか知らないはずだ。
何故、貴方が知っているのですか。
「先日、我が同室の文次郎から聞いた。翔子の仲間は全員、心に闇を持っていると。それを癒すための旅をしているのだと。聞けば私と同じ名前のこいつも、もんじろうと同じような境遇らしいではないか」
「…そうです」
「私も協力させてもらおう。同じ名のよしみだ。私に出来ることがあったら、何でも言ってくれ」
そういうと立花さんはせんぞうに向き直る。せんぞうも、立花さんの心の優しさを感じ取ったのか、信じられないことに自分の方から立花さんに近づいた。
潮江さんのときは餌付けから仲良くなったが、立花さんは何もしていない。すごい。
「お前はプライドが高いのだろう。そして主である翔子をとても大事に思っているのだな。なんて美しい生き物なんだ」
「…」
「そういえばそうだな、同じ名前では呼びにくい。お前のことは……そうだな、"せん"とでも呼ばせてもらおう」
「♪」
「あぁ、よろしくな」
あぁ無事に怪我もなく心が通じたみたいだ。もしかしたら立花さん超美人だし、せんぞうも立花さんのこと気に入ったのかも知れない。よかったせんぞうが攻撃態勢に入ったらどうしようかと思っt…………
え!?ちょっと待ってくださいよ!!立花さん!!!!
「せんぞうの言葉、解るんですか…!?」
「………………………そういえば何故だ」
「♪」
せんぞうは、クルルと鳴いた。
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徐々に仲良くなっていくといいのに
助走もせずいきなりゴールまでたどり着く立花先輩フゥー☆
「っていうかなんで私のこと呼び捨てなんですか」
「お前も私のことを呼び捨てにしているだろう」
「いやこれせんぞうのこと呼んでるですけど」
「ほらまた」
「ややこしい!」