6.走り回って

「彦四郎ー?」

どこにいったのだろう?
ここで待っていてと言ったのに。


「庄左ヱ門!」
「あ、彦四郎、どこに…」

言ってたの、という言葉は続かなかった。

物凄い速さで彦四郎は僕の手を掴んで町の中に走っていった。
危うく団子を落とすところだった。

何が起こっているのかさっぱりわからない。

それより彦四郎は何故町の外から走ってきたんだろう。
ここから向こうは山なのに。



「彦四郎!?どうしたの!!」
「いいから走って!!」

一瞬振り返って見ると、僕等を、というか彦四郎を追ってるのは


「止まれぇ!」
「クソガキ逃がすかよ!」
「追え!絶対逃がすな!」



大人の男が、3人。



「あいつら人攫いだ!!僕と庄左ヱ門を狙ってる!!」
「!?」


彦四郎は振り返りもせずに町を縦横無尽に走り回る。
僕もこれは異常事態だからと走る速度を落とさないで付いていく。

何回か角を曲がったところで、振り向いても追ってくる姿は見えなかった。
どうやら上手く巻けたらしい。


「ハァ、ハァ、」
「彦四郎、大、丈夫、?」
「な、なんとか。ハァ、ハァ…あ、お団子は!?」
「大丈夫、ちゃんと買えたし、落として、ないよ」
「ハァ、ハァ、よかった…!」



町を走り回ってる間に、どうやらまた同じ場所に戻ってきてしまったらしい。
気づいたら目の前にはまた赤い看板の櫛屋があった。

ここまで走れば、きっとあの人攫い達も迷って
後を追ってくることはないだろうと判断した僕等は、帰り道を急いだ。


帰りながら彦四郎の話を聞くと、

どうやら外で待っている間に急に口をふさがれたらしい。
町の角だから、死角になりやすい場所。そこで攫われそうになったと言っていた。


その後団子屋から出てきた僕も捕まえるように
もう一人の人に指示を出しているのを聞いて、

つかまれている手に噛み付いて、逃げてきたらしい。


「危険だね、後で尾浜先輩たちに伝えなきゃ」
「忍術学園でまた被害が出たら困るしね」









「何が困るって?」









「「!?」」

「みつけたぞクソガキども!よくも噛み付きやがったな!?」
「今度こそ捕まえてやる」
「大人しくしろ!」


「「う、うわぁああ!!」」

「逃がすな!二人とも捕まえろ!!」
「「おう!」」


とっさの判断だった。
僕と彦四郎で手を繋いで、山道へと飛び込んでしまった。




追ってくる。



まだ追ってくる。




引き離せない。




また走り続けていると、小雨が降り始めた。
まずい、暗くなってきた。帰り道が解らなくなっちゃう。






「―っ、うわぁ!」
「庄左ヱ門!?」

迂闊だった。少し段差のある場所を踏みはずし、脚を挫いてしまった。

「大丈夫!?」
「痛ッ…!彦四郎、先に行って!」
「そんなことできるわけないだろ!?」

彦四郎は僕の脇に腕を入れて支えるようにして歩いた。
脚が猛烈に痛い。でもそんなこといってられない。

僕は彦四郎に遅れを取らないようにできるだけ早めに歩いた。
乱太郎から脚の固定の仕方、教えてもらっておけばよかった。


しばらくあるいて、大きい樹の根で彦四郎は歩くのを止めた。

「ハァッ…!ハァッ…!」
「庄左ヱ門!この辺で一旦休もう!」
「ダメ、だよ…!またあいつ等が来たら今度こそ僕も彦四郎も、捕まっちゃう…!」

「だって、さっき脚挫いてたじゃないか!」
「これぐらい…ハァ、大丈夫だよ…!」
「大丈夫じゃないよ!」

「学園までまだ距離があるんだ…!早く帰らないと…、…ただ、でさえ、日も落ちて、…ハァ、ハァ、…周りがわかんないのに…!イッ、たい…!」
「庄左ヱ門!」


触っただけでもわかる、この脚の腫れ具合。
これはいよいよダメかもしれない。無理したら保険委員会からお説教くらっちゃうのに。


「庄左ヱ門!庄左ヱ門!」
「彦四郎、…学級委員会、会議用の、お菓子は…?」
「無事だよ!でも今それどころじゃないだろ!」
「ハァ、ハァ……ちゃんとそれ、持って帰ってね。鉢屋先輩と尾浜先輩の、オススメなんだから…」
「ダメだよ!庄左ヱ門も一緒に帰るんだから!!」


泣きそうな顔をしている彦四郎に申し訳なさが込み上げてくる。





「ここに居やがったか!」

「うわぁあ!」




最悪だ、こんなタイミングで見つかるなんて…!




「彦四郎だけでも逃げて…!!」

「嫌だ!庄左ヱ門を置いてはいけない!!」


「梃子摺らせやがって…。もう逃げても無駄だ!」
「お頭ぁ!ガキども見つけましたよ!お頭ァア!」

「うるせぇ!わかってらぁ!…なんだ坊主、脚を怪我したのかぁ?」

「庄左ヱ門に近寄るな!」
「彦四郎…!」

「あぁあぁ大丈夫だよ。どうせてめぇらみたいなクソガキを買い取る物好きなら
 傷物だってかまいやしねぇんだよ。早くこのガキ両方とも縛っちまえ」

「「オッス!」」

「やめろ!庄左ヱ門だけは逃がせ!」
「彦四郎!」

「泣かせるねぇ。安心しろ。お前等セットで売ってやっから」
「大人しくしてろぉ」



「やめろ!庄左ヱ門を離せ!!」

「彦四郎を離せ!!触るなぁ!!」












「「誰か助けてえ!!!」」
















そう最後の力を振り絞って叫んだ時、


耳に飛び込んできたのは



















「おら、その汚い手とっとと離せ。」





こんな山奥には似合わないほど綺麗な声だった。
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