小エビ専用モストロ臨時バイト

フロイドはイライラしていた

理由は簡単、メニュー開発である

大抵はアズールから季節ごとに「この食材を使って数品作ってください 」と無茶振りから始まる

でもまぁそういう時は、ラウンジにあるものはなんでも使っていいと言われることが多いので、フロイドはとりあえずコスト度外視で気分のまま好きに作る

ここまではそうイラつく事もない。この食材を使ってみてー、この組み合わせでーと考えるのは結構楽しい。

見たことも無い組み合わせで予想外に美味いもんが出来ればもうサイコー!ってなもんで、キッチンを手広く使って思いつくままに大量に作る

だが、問題はここからだ

味見と称して新メニュー候補を平らげたジェイドは、大抵ニマニマ笑いながら「ありきたりですね」だとか「何かが物足りません」だとか文句を残していく

あとキノコを入れろとうるさい。絶対使わねぇからな。ひとりで食ってろ

アズールは味に文句はあまり言わない。しかし、一言目には「値段」二言目には「コスト」三言目には「材料費」だ。ついでに四言目は「カロリー」だ

かのフロイドとて最初の2、3個の意見くらいは真面目に聞く。

が、その後はフロイドのご機嫌メーターを下げるだけの口煩い文句である

イライラしつつ作り直すと、大抵最初に作ったやつよりパッとしないし不味くなる

するとアズールとジェイドの文句は当然のように多くなる

更にフロイドの気分が下がり、新メニューが不味く最悪に仕上がっていくという悪循環に入る

こうなりだすとオクタヴィネルの生徒達は、とばっちりを恐れて岩陰に潜む小魚のように息を殺して部屋から出て来なくなるか、逆に寮から出て帰ってこなくなる

生き抜くための知恵だ。NRC生には必要なスキルである

そして冒頭。

ついにフロイドは、イライラに任せて鍋とフライパンをシンクに投げ入れた

ドンガラガッシャーン!!と自身が起こした騒音に顔を顰めつつ、ポケットからスマホを取り出す

タプタプ操作して、メッセージアプリの上の方にあるエビの絵文字に挟まれた名前をタップする

アズールとジェイドはまぁフロイドにしてはもった方だとさほど気にしていない。まぁ、道具は丁寧に扱えとそこは注意したが

間抜けなコール音を聞くことしばし

「はーい、監督生ちゃんですー」

とのんびりした声がフロイドへと届く。

自室で課題に取り組んでおり、行き詰まっていた所なので電話に出た監督生に

「小エビ、すぐモストロ」

と、フロイドは低い声で端的に命令した

電話越しの小エビはちょっぴり困ったように

「え、今日はお休みでは……?」

と言う。メニュー開発のためモストロラウンジ自体はお休みである。マジカメでもメッセージが届いていたはずだ

いつもご利用ありがとうございます、何日と何日は大変勝手ながらお休みとさせていただきますご注意下さいみたいなやつ。

フロイドはチッと舌打ち1つ。俺が呼んでるんだから、休みとか関係ねぇから

「いいからすぐ来い」

「ぴゃい!」

スマホ越しの低音に震え上がり、小エビはやりかけの課題をぶん投げてオンボロ寮を飛び出した

ちなみに耳の良いグリムは、スマホ越しの声を聞いた時点でとばっちりを恐れて逃げた。NRCで生き抜くためには必要なスキルである



監督生は美味しいご飯をたくさん頬張っていた

数分前に、フロイドに怯えてガクガクぷるぷる震えながらモストロラウンジへ来たことなどもうさっぱり忘れている食べっぷりである

フロイドが小エビちゃんを呼び出した理由は至極単純で、小エビが失敗作だろうがなんだろうが美味しそうに食べてくれるのを見たかったから、である

「ほら、食って感想教えて」

と怯える小エビの前にどんと皿を置けば、小エビはお目目をまん丸にして数秒固まったあと、花が咲くようにぴっかり笑顔になって食べ始めた

この監督生はちょっぴり貧しく、節約のために常に空腹である。可哀想。好きな言葉はタダ飯、奢り、ご馳走である。他人の金で食う飯は美味い

そしてこの小エビちゃん、語彙力は無い。全くない

「あふっ、もいひぃ……もいひぃれふ」

大体これ。そしてたまに真面目に食レポをしようとすると

「あ、なんかソースが美味しくて、お肉美味しい…」

これである。あとは知識も乏しいので

「魚のこれ、なんかかかってるこれ、おいひぃ…野菜の揚げたやつもなんかおいしぃ」

こんな感じ。しかし、フロイド・リーチはご機嫌にっこりで小エビちゃんの真ん前の席を陣取ってただただ食べる姿を眺めている

先程まで文句ばかり言われささくれてイライラしていた心が、この語彙力0知識0でただただ美味いと褒めてくれ、もひもひ食べる小エビちゃんにとっても癒されている

「小エビちゃんはとってもいい子だね」

そう甘い声で優しく言えば、お口を食べ物でいっぱいにした監督生は不思議そうに首を傾げる

「いっぱいお食べ」

そう聖母のように微笑みながら、フロイドは監督生の前にデザートを追加した

監督生は目を輝かせて、また大きな口でそれを食べ始めた



というわけで、ご機嫌に戻ったフロイドはアズールとジェイドも納得するメニューを生み出し、無事にメニュー開発を終えた

「あー、小エビちゃん飼いてぇ」

全てを出し切ってソファーにダラりと身体を投げ出したフロイドがそう呟く

本格的に小エビに求愛し始めるまであと3日



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