お茶目なイタズラ

ポムフィオーレの朝は早い

この寮に集まる生徒は、何故か美容関係に力を入れていることが多い

目が覚めたらストレッチで軽く汗をかき、シャワーを浴びてしっかりと身体を覚醒させる

シャワーの後は、頭のてっぺんから足のつま先まで入念なケアと化粧の開始である

いくつもの化粧水やら乳液やらクリームやら追加の保湿液やらおまじない程度の魔法薬やら、たっぷり肌に染み込ませていく

生徒によってこだわりのポイントが違うので、流行りに合わせて髪を整えたりファッションショーを開催したりと各々更に時間をかけ、美の追求に余念が無い

「あっはっはっはっはっ!!!」

そんな穏やか(?)な朝に相応しくない豪快な笑い声がポムフィオーレ寮に響く

声の主はハルト。ヴィルやルークと同じ3年生で、映画研究会の衣装製作を行っている生徒である

彼はヴィル専属のデザイナーを目指しており、既にいくつかの衣装デザインの仕事をしている

そんな彼は談話室に届けられた、発売されたばかりの雑誌のとあるページを開いて、絶賛大爆笑中である

なんだなんだと野次馬しに来た寮生達は彼の手元の雑誌を見ると、ハルト程では無いが、肩を震わせる

それを見た野次馬が興味深そうに寄ってきて、笑いの輪に加わる

そんなふうに妙な連鎖が起きるものだから、談話室は結構騒がしくなっていた

朝っぱらからの騒音に、ヴィルが形のいい眉を顰めながら部屋から出てくる

「ちょっと、朝からなんの騒ぎなの?」

ヴィルが現れると、後輩達はすっと顔を取り繕い、各々が美しいと思う表情と角度でおはようございますと挨拶をしつつ道を開ける

3年生も後輩達より緊張してはいないものの、軽く挨拶をしてそっと道を譲った

そんな中、態度が全く変わらないハルトは、笑い過ぎて目尻に溜まった涙を指で拭いながら

「ふっふふふ、ちょ、コレ見てよヴィル!!」

と雑誌を差し出す

ヴィルは眉を顰めたまま雑誌を見て…

「ふっふふ」

と小さく笑いを漏らした

雑誌にはデカデカと『ヴィル・シェーンハイト、賢者の島でプライベートデートか?!』と見出しが踊っていた

私服とサングラス姿のヴィルと、ふわふわとした癖毛の可愛らしい少女のツーショットが載っている

その少女は真ん丸な瞳に微笑む桜色の唇を持ち、ふんわりしたスカートが良く似合う、甘いミルクティーのような子であった

「職場の後輩とのプライベートデート、ねぇ?」

スキャンダルは芸能界ではNGだと言うのに、ヴィルの唇の端は持ち上ってしまう

この少女は職場の後輩などでは無いし、当然付き合ってもいない

というより、少女ですらない

だって子の写真の人物は

「オレ、いつからヴィルの後輩の女の子になったの???」

この朝っぱらから騒がしく笑い転げていた同級生…男子校であるNRCに通う、生まれも育ちも立派な男の子である

映画研究会に所属し、小柄な体躯とエペルとは違った系統の柔らかなかわいい系のお顔で女役をメインとしていて、ちょっと女装癖もあるが立派な男の子だ

ちなみに、この写真を撮られた時は、恋人同士の役作りがてら、部活の物品の買出しに出かけた際のものである

余談だが、この日、2人の数十メートル後ろではルークが動画や写真撮影しており、2人の自然な仕草や恋人らしくみえるか等チェックを行っていた。もちろん、ヴィル公認である

「やるじゃない、大出世よ」

「どこからどこへ出世したの??性別捨ててないからね、オレ」

「そんじょそこらの女の子より可愛いって普段から豪語してるのに?」

「だってほら、オレの顔、めっちゃ化粧映えするタイプだから。それはもう、神が与えたかわいさだから」

「その自信が羨ましいわ。」

「裏付け出来る努力してるからね。ヴィルもでしょ?」

「当然」

ぽんぽんと軽口の応酬がされるなか、遠目から様子を見ていた1年生が

「でも、スキャンダルは不味いのでは?世間の人は、この写真の女の子がハルト先輩だと知らない訳ですし」

とちょっぴり不安そうに零す。彼は根っからのヴィル・シェーンハイトのファンである

まだ確認していないが、恐らくマジカメを開けばトレンドにはヴィル関係のものが溢れ、コメント欄には荒らしが蔓延り大炎上しているだろう

「Oh la la!心配いらないよ、彼らは大人しく狩られるような軟弱な獲物では無いさ」

ひょっこり背後から現れたルークがにっこりと笑う

「楽しいことが起こりそうだ」



ヴィルに恋人がいたと炎上するマジカメに、1本の動画が投稿された

それはヴィル・シェーンハイトの公式アカウントから投稿され、コメントには

「アイメイク講座。モデルは後輩」

といつものように簡素な説明が書かれていた

動画を開くと、決して派手では無いがまずまず顔の整った少年が椅子に腰かけて画面に向けて手を振っていた

「どーも、ヴィル・シェーンハイトの部活の後輩です。自分は一重なんですけど、今から二重にしてメイクしてもらって、ぱっちりお目目になりまぁす」

「静かに」

「はぁい」

ヴィルはハルトの前髪をくるりと巻いてヘアピンで固定する。化粧の邪魔にならないように落ちてこないことを確認し、テキパキと必要なものを並べていく

「待って、おでこ全開恥ずかしいんですけど」

「幼く見えて可愛いわよ……ふふっ、あんまこっち見ないで、その顔、親戚の子を思い出すから」

「いや、笑ってんじゃん。親戚の子何歳よ」

「今年4歳よ」

アイテムの後ろに掌を置いてピントを合わせる例のポーズをするヴィルが、いくつもの化粧品やら小物を紹介しつつメイクが進んでいく

「次はこの部分にラインを……」

「あ、クシャミ出そうだから待って…」

「今クシャミしたらどうなるかしらね?」

「ちょっ、やめてマジでヤバいってへくちっ」

「あら、かわいい」

「ごめんね、ヴィルよりかわいくて」

「わたしはアンタより美しいからいいわよ。」

動画は終始和やかな雰囲気で、ヴィルとハルトは時折冗談を言ったり自然体な様子を見せる

「仕上げに化粧崩れを防いでくれるミストをふって完成よ」

そうヴィルが満足そうに微笑む

画面の中にいた素朴な顔の少年は、たったの数分でまん丸お目目の美少女に変わっていた

美少女がお目目をパチパチしながら顔を左右に向けたり、少し俯いてキメ顔で微笑む。遠近法で目を大きく、顔を小さく見せるあのポーズである

「あら、いけない。」

ヴィルがわざとらしくそう言って、画面の外からミルクティ色のウィッグを受け取る

手渡したのは、当然のように撮影協力をしているルークである

余談であるが、メイクの間に画面外からボーテを37回は飛ばしたし、3分クッキングの助手のようにアイテムのコストや類似品の解説を入れていた

ヴィルのマジカメでは声だけの登場が多く、ルークの合いの手のある回の動画はヴィルファンからわりと人気である。閑話休題

前髪をとめていたピンを外し、軽く解してからハルトの丸い頭にウィッグを被せる

「さて、動画をご覧の方はお気付きかもしれませんが」

ハルトは髪を整えつつ微笑んだ。

「ヴィル・シェーンハイトの恋人の正体です♪勘違いさせるほど可愛くてごめんね♪」

動画には、週刊誌の写真と同じ顔が映っている

ヴィルもにこりと微笑む

「私のファンならわかってたと思うけど、今は勉学と仕事に専念したいから恋人を作るつもりなんてないわ。」

ヴィルの後ろで、映画研究会の次回作のポスターを持ったハルトがくねくねとセクシーポーズをとっていた。画面端なのにとても邪魔である

ちなみにポスターには、週刊誌の写真を撮られたのと同じ場所で撮影した、ヴィルとハルトが見つめ合うものが使われている

もちろん、このポスターは週刊誌に対する嫌がらせである。やましいことなんて一切ないですよ&ポスター撮影で街を彷徨いていたんですよというアピールだ

「この格好は映画研究会の次回作、『深夜3時の木靴の灰被り〜真実の愛とは〜』のヒロインのものです!主演はもちろん麗しの美青年ヴィル!よろしく!!」

「わたしのファンなら当然見るわよね」

「もちろん、私も楽しみにしているよ!それではアデュー!」

ヴィルのウインクと、ルークの画面外からのあいさつで動画が終わった



動画を投稿してから数時間後、ヴィルに対しての炎上はあっという間に収まり、入れ替わるようにいい加減な記事を書いた記者が所属する職場が炎上した

次の日には謝罪文が出され、記事に対する訂正やら言い訳やら色々並んでいた

「恋人騒ぎは鎮火したし、宣伝にもなったし、よかったね」

ハルトがスマホの画面を消しつつ、隣に座るヴィルに笑いかける

談話室のソファーに腰掛けているだけなのに、さながら絵画のような美しさのヴィルが

「あそこの記者、マナーがなってないしいい加減な記事を書くし、正直嫌いだったのよね」

と形のいい唇を持ち上げ、ちょっぴり悪い顔で微笑む

以前取材を受けたのだが、発言を勝手に切り貼りし、ヴィルが話したことと真逆の意味に捉えられるように編集されたことがあったのだ

ここの取材は二度と受けないからとマネージャーに強い口調で伝えたが、今回また当たり屋のように絡まれる結果になるとは流石に予想外だった。

まぁ、これでちょっとでも懲りてくれたらいいのだけれど

「ねぇヴィル」

「何よ」

「美しい系ヴィルがさ、逆にカワイイ系メイクしたら受けんじゃね?お目目まん丸にして、唇プルンプルンで性別不明攻めようよ」

「アンタね…」

ヴィルは急な提案に若干呆れたような顔を作るが、すぐに破顔して

「そんなことしたら色んな人の性癖歪めるじゃない。やりましょう」

と勢いよく立ち上がる

談話室にいなかったはずの男のボーテが何故かすぐ近くで聞こえた



結論から言おう、バズったしツイステッドワンダーランドの性癖は歪んだ



☆☆☆
この世界線のヴィルは女子高生(概念)なので、誰が1番あざと可愛くポッキー食べられるか選手権で優勝してるし
ハルトと女子高生の顔をしてプリクラ撮ってくるし
愛してるゲームで友達全員の腰を砕けさせたりしてる

ハルトが目線の高さでスマホを構え、ヴィルが壁ドンしてリクエストされたセリフを言う動画がアホほどバズったりもする

学生らしく羽目を外してるヴィル様もいいと思います!!




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