居酒屋オンボロ寮

オンボロ寮にて、監督生はご機嫌で料理していた

サイエンス部から貰ったキュウリを適当に輪切りにして、塩と倍の量の砂糖、サムさんに取り寄せてもらったワサビを混ぜて袋に入れる

サイエンス部が開発中の植物成長促進剤のおかげで、食べきれないほどの野菜が一斉に実ったそうだ

こういう実験ならいくらでもして欲しい

何度か袋の上からもみもみ揉んでから、キュウリを冷蔵庫へしまう。1晩漬ければ味も染みていい感じ

きゅうりと入れ替えるように取り出した餃子の皮に包むのは、1口大の大きさのチーズと細かく切ったたくあん

たくあんのコリコリした触感と、甘塩っぱい味がチーズと合うのだ

皮のふちに指を滑らせて水を塗り、慣れた様子でヒダをつける

余りそうな量のチーズやたくあんは、時折作業を見に来るグリムの口やら自分の口へとポイと投げ入れる

その作業を10分ほど繰り返し、チーズ餃子が皿いっぱいになると、監督生はコンロへと向かった

フライパンに油をひいて、チーズ餃子を次々揚げ焼きにする

油ものは掃除が面倒だし、油跳ねが怖くて嫌なのだが、揚げ物ってだけで何故か美味しいから仕方がない…

既にお気づきかもしれないが、この監督生、居酒屋メニューのようなご飯が大好きである

「子分ー!トマトのヤツ作ってくれー!」

「はい喜んでー!」

グリムが自分のツナ缶ストックから一缶取り出し、背伸びして監督生に手渡す

まな板にキュウリと一緒に貰ったトマトをご招待し、上部3分の1をスパンと切り落とす

スプーンでトマトの中身をいい感じに取り出し、オーブン皿に乗せ、取り出したトマトの中身を刻んでツナ、コーンと枝豆、調味料を混ぜる

混ぜ終わったらトマトの中へ戻し、マヨネーズをかけて、最初に切り落としたヘタの部分をちょこんとのせる

「親分、オーブン準備してぇ」

「はい喜んでー!なんだゾ!」

グリムが予熱をしてくれる間に、監督生はキャベツを千切りにする

その上にとろけるチーズをのせて、てっぺんにイカの塩辛をちょこんと添える

熱を通して甘くなるキャベツに、蕩けたチーズと塩辛の塩味がマッチして美味いのだ

このキャベツ塩辛はトマトと一緒にオーブンでブン!

「あ、コーンと枝豆余った。せっかくだしかき揚げにしちゃお」

「子分、ご飯若干黄色いんだゾ。」

炊飯器を覗き込んだグリムがそう言うと、監督生は

「あ、じゃあおこげも作っちゃおー。新しくご飯炊くから、おこげは任せたよ、親分」

「合点承知之助!」

「クッキングシートここに置いとくよー」

「おー」

普段は何かと非協力的なグリムだが、美味いものの為ならお手伝いしてくれる

親分子分、相棒同士息ぴったりに料理の数を増やしていく

グリムは監督生の出したクッキングシートにご飯を乗せ、さらにその上にクッキングシートを乗せて肉球でふみふみコネコネする

米がバラけなくなる程度までコネコネし、それを監督生が受け取って揚げ焼きにして塩コショウか醤油で味付けすれば、カリカリお菓子のように無限に食べられるおこげの出来上がり

「子分、そーいやシジミは?」

「ん?…あ、砂吐かせてたの忘れてた!ナイス親分!」

監督生は油ハネにアッツアッツと悶えつつ親指を立てる。元気の良いサムズアップだ

「子分のミソシル飲みたいからな!」

「それは告白なんよ」

おこげとかき揚げを済ませてフライパンを湯に浸してから、キッチンの隅に置かれていたボールを確認する

「おーおー、ちゃんと吐いてる」

このシジミはアズールから貰ったものである。この前監督生の意見を参考にした和食フェアスシの心が上手くいったお礼だそうで

「久々にシジミの味噌汁とか飲みたい…」と呟いていたのを拾って、わざわざ仕入れてくれたのだ

フロイドには首を傾げつつ

「こんなちっこいの集めても腹の足しにならなくね?」

と言われたけど。美味しい出汁が出るんですよと答えておいた。

流石というかなんというか、ジェイドとアズールからは

「またよければ味見させてくださいね」

と言われている。完璧に前回の和食フェアから味を占めている

まぁ、和食が食べられるのは素直に嬉しいので、出し惜しみせずレシピ提供するつもりである

余談だが、自分で好きにカスタマイズ出来る手巻き寿司プレートが1番よく売れたそう。

シジミを鍋に入れて湯がき、酒と味噌を入れて沸騰直前で火を止める

オーブンがチン!と音を立てて仕事を終えたことをアピールしてきた

それと同時にコンコンコン、と玄関をノックする音が聞こえる

「待ちくたびれたんだゾ!」

と嬉しそうにグリムがお出迎えに行った



「邪魔するぞ」

「ご招待感謝するよ、小鬼ちゃん♪」

「いらっしゃいませー!お席に座ってて下さいね」

グリムに連れられてやってきたのは、クルーウェルとサムの2人だった

クラスで監督生の故郷の食べ物や好きな物の話になった際、話が気になったクルーウェルから、材料費を出すから作ってくれと声をかけたのである

異世界の料理や文化に興味があった…というのは半分以上建前で、酒に合いそうなメニューが多かったので…

材料の買い出しの際に、誰も買わない醤油やらみりんやら塩辛やら、妙なものばかり買い込む監督生を見掛けて面白そうだったのでサムも参加を申し込んだ

あと、マドルの香りがしたので…

以前、監督生が話していた異世界のコンビニを参考にレジ横に揚げ物コーナーを設けた所、男子高校生達にバカウケしたのだ

お礼に監督生が1人で買い物に来た際は唐揚げ棒を1本オマケしている。

「揚げ物を挟める専用のパンを売っているところもありましたよ」との意見も頂いたので、今度仕入れる予定だ。センキュー!!

「早く座れ!熱いうちに食うのがうめぇんだゾ!」

「おやぶーん、座ってもらったら料理運んでー!」

「喜んでー!なんだゾ!」

「オレもご馳走になるし、それくらいは手伝うよ」

「あ、サムさん!ありがとうございます」

「ほら仔犬、土産だ。」

「わぁ、デザートですか?ありがとうございます!」

「高そうな丸ごとフルーツのゼリーだ!」

目をキラッキラさせる仔犬2匹にご満悦のクルーウェルが魔法石のハマった鞭を軽く振るうと、いくつかの料理と取り皿が勝手にテーブルの方へと飛んでいく

サムも慣れた様子でフォークやら箸やら準備してセッティングする

「魔法っていいなぁ」

思わず監督生がそう呟けば

「先に言っておくが、未熟なものが使えば料理が台無しになるぞ」

とクルーウェルは半分教師の顔で笑った。ちらりとグリムを見ると、ほんのちょっぴり悔しそうにしている

「水の入ったカップを零さずに移動させる練習からするといいよ、小さな小鬼ちゃん」

サムは教師ではないが、伊達に負けず嫌いな生徒達の相手をしていないので、ざっくりとしたアドバイスだけくれてやった

ここの生徒は下手に優しくされるとアレルギーを起こし逆ギレするので…NRCは自主性を大切にする学校です

「さぁ食べましょ!」

ゼリーをしっかりと冷蔵庫にしまってから、監督生はニコニコ促す

「いただきます」

みんな声を揃え、監督生の故郷の作法に倣い手を合わせる

ちなみにだが、クルーウェルとサムはそれぞれ持参したグラスやジョッキに、これまたそれぞれ持参したワインやらビールを注いでめちゃくちゃ飲んだし、オンボロ寮に泊まったし、朝から二日酔いで真っ青になる未来が待っている



☆☆☆
クルーウェル「二日酔いにシジミのmisosiru?が沁みる…美味い…」

サム「otyazuke美味しい…小鬼ちゃんのomotenasiヤバい…」



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