フロイド思春期リーチは恋してる
こんにちは。僕はジェイド・リーチと申します
そして隣の彼が題名にもあるフロイド・リーチ。僕の片割れです
またの名をフロイド・思春期・ポンコツ・リーチ。
彼は今、小エビちゃんこと監督生さんに恋をしているのです
あぁ、監督生さんについても説明しなければなりませんね
監督生さんはこの学園の入学資格を持ち合わせていないにも関わらず、恐らく学園側のミスで一方的に招かれ帰れなくなってしまった大変愉快…不幸な事情を持つお方です
監督生さんはとても珍しいことに魔力を有しておらず(生物は全て、量の差こそあれ魔力を有します。全くの魔力0は前例がないそうです)、当然魔法が使えないので、魔法学校であるナイトレイブンカレッジに本来ならば入学出来ません
しかしながら、魔獣であるグリムくんの監督を押し付け…任され、グリムくんと2人1組でナイトレイブンカレッジの生徒となったのです
どこの寮にも属す事の出来なかった監督生さんは、オンボロ寮の寮生として大変趣ある建物で過ごしています
イレギュラーづくめの監督生さんはそれはもう、良くも悪くも目立ちまくっています
そんな監督生さんに興味を持つのはまぁ誰しもが通る道なのですが、僕の片割れはそのまま興味が恋心へと変わってしまったようなのです
なんて面白いのでしょう。
…なんて面白いのでしょう!!
僕達は正直に言いますと、海の中ではとてもモテていたんです。強いですし、勉強も出来ますし、魔法だって使えるので
自分からアピールしてお付き合いを申し込む、なんてことはありませんでした。あちらから勝手に言い寄ってきたので
なので天才肌のフロイドも、流石にどうしていいのか分からないのでしょうね
珍しくどうにもならずに小エビに振り回されるウツボが面白くないはずが無いんですよ
さて、フロイドはいつもの様に僕の隣を歩いているわけですが、その視線は僕ではなく何かを探すように忙しなく動いています
何か、なんて今更勿体ぶることもありませんね
獲物はいつだってその視界に捉えておきたいものです
これが全くの無意識で、指摘すると顔を赤くして否定して機嫌を悪くするものですから、クスクス笑いだしたいのを堪えて知らないフリをするのも大変なのです
ほら早速、監督生さんが中庭に…おやおや、また先輩から礼儀を教えてやる…略して洗礼に合っていますね
まぁシンプルに言うとイジメってやつです
ふむ、断片的に聞こえる感じからして、グリム君が問題を起こして逃走
元イソギンチャク達が追いかけっこに夢中になっている間に孤立して囲まれたようですね
「ちっ」
フロイドが鋭い舌打ちを残して窓から飛び出して行ってしまいました
僕もせっかくなので追いかけましょうかね。面白そうですし
雑魚どもは所詮集まっても雑魚で、フロイドは魔法を使うでもなく、あっという間に生徒たちを地面に伏せてしまいました
あぁ可哀想に。空っぽの頭を持ったばかりに、考え無しの行動をしてしまうなんて
慈悲の心でアズールを紹介してあげましょうね。
スマホでイジメ実行犯達の顔写真を撮っていると
「あの、ありがとうございます、フロイド先輩」
と可愛らしい声が聞こえてきました
これはいい雰囲気。フロイドはさながらピンチに駆け付けたヒーローですものね!
しかしここで上手くいかないのがフロイド・思春期・ポンコツ・リーチ
「別に…ちょっと絞めてぇ気分だっただけだし…小エビちゃんの為じゃねぇし」
と面倒臭そうに視線を逸らしてしまいました。
耳が赤いし、ソワソワしちゃってますし、褒められて本当は嬉しくて仕方ないんですよね!フロイド!
あとで部屋に戻ったら沢山お話聞いてあげますからね!!
「そ、そうですよね、すみません」
あー、監督生さん気まずそうになっちゃいました!お礼を跳ね除けられたらそうなりますよね
「別に小エビちゃんに謝って欲しいわけじゃねーし!」
「あ、はい、その、すみません」
「あー、あー…ジェイド、オレ寝る。アズールに適当に言っといて 」
フロイド!!上手くお話出来なくて拗ねちゃいました!なんと面白…可哀想に!!
のたのたと体を揺らして歩いていくフロイドの背中を、監督生さんはしゅんとしつつ見つめています
実はですね、両片想いと言うやつなんです。互いに好きなのに、相手から好かれてないと思っているんですよね
何度アズールと人魚の寮生達が「焦れったい!ちょっとキスザガール歌ってきます!」というのを止めたか…
今その歌を歌ったところで、2人とも変に意識したり否定したりしてさらにこじれて落ち込んで関係が進まなくなるのは目に見えていますからね
…それも面白そうだとは正直思うんですけど、フロイドと監督生さんの恋路は応援してあげたいんです
「ふふふ、すみません。今日は気分が乗らないようで…監督生さん、どうかフロイドを嫌いにならないであげてください」
「いえ、そんな、嫌いになんてなりませんよ!フロイド先輩にはほんとよく助けて貰ってて、その、」
っはあぁぁぁ~~~!!わかります、好きですもんね!気まぐれな彼が自分にだけ優しいの、何となくわかっちゃってますもんねぇ!!
ピンチの度に駆けつけてますものねぇ!!知ってます?ボク毎回隣にいるんですよ!
監督生さんたら、真っ赤になって俯いてしまって…!
もうなんでもいいのでボクのことお義兄さんと呼んでいただけます?
はい、今はミステリーショップでお買い物中です
ボクはテラリウム栽培セットを取り寄せて頂いたのでそれを受け取りに、フロイドはお菓子を買いに来ました
そしたら運命なのでしょうか、監督生さんが駄菓子コーナーで屈んで、真剣にふたつのお菓子を手に取り見比べていました
「小エビちゃん、どしたの?」
監督生さんの小さな体を跨いで、フロイドが真上から問いかけます
監督生さんは少し驚いて、顔を見ようとしてバランスを崩し、ペタンと座り込んでしまいました
ふふふすみません、僕達足が長いもので
そんな監督生さんを起こしてやりつつ、フロイドは小さな手に握られたお菓子をのぞき込みます
「それ、好きなの?」
「はい!でも今ちょっとお金が無くて…どっちかひとつなら買えそうなんですよね」
えへへと照れ笑いする監督生さんに、フロイドの顔が顰められます
わかりますよ、照れ笑い可愛かったんですよね。あと、ふたつ合わせて500マドルもしないのに買えないの?学園長、金渡してねぇの?え?死ぬ?って顔ですね
「小エビちゃんが買わねぇならオレ買おー」
フロイドは監督生さんの手からお菓子を奪って、サムさんの所へと行ってしまいました
暫しポカンとしてから、まぁ我慢すればいいかとちょっと困った顔をしつつ監督生さんは立ち上がりました
安心してください、監督生さん
思春期・フロイドはやってくれますよ?
買うものがなくなり、フロイドへと着いてく監督生さんを僕も追います
フロイドは会計をすませ、早速お菓子の袋を開けていました
ひとつをパクリと口に運び
「思ってたのと違うから小エビちゃんにあげる」
ですって!!!
素直に買ってあげる!とは言えないんです!でもフロイド、頑張りました!あなたは素敵ですよ!
監督生さんはまたポカンとして、その後ニッコリ笑って
「ありがとうございますっ」
ととても嬉しそうです!笑うと目尻が下がるの、可愛いですよね、フロイド
お顔緩んじゃってますよ?
「ん。」
ぶっきらぼうながら優しい眼差しで、たった1音の返事をするボクの兄弟、可愛くないですか?可愛いですよね、当然です
そして屈託なくからかいもなく素直に喜んじゃってる監督生さんも可愛いですよね、知ってます
「あの、もし良ければ、オンボロ寮でお茶しませんか?その、お菓子の、お礼に…」
おや!今度は監督生さんがアプローチです!
「ん。」
フロイドー!!!良かったですね!いってらっしゃい!!ボクはお邪魔なのでちゃんと弁えて帰るので大丈夫ですよ!
「では僕は早速、部屋でテラリウムを作りますので…ゆっくり楽しんできてくださいね、フロイド」
義理でしょうが、僕を誘おうとして下さった監督生さんを遮りそう言います
「フロイド、よかったですね」
すれ違いざまに小声でそう言うと、フロイドは小さく頷きました
少しでも進展するといいですね
これは余談ですが、いつもテラリウムを弄っていると土臭いと言われてしまうのですが、この日だけは何も言われませんでした
☆☆☆
これはおまけ
ジェイドからポムフィオーレの奴らが複数人で無理やり小エビちゃんを連れていったのを見たと教えられた時、血の気が引いた
小エビちゃんは魔法が使えないし、喧嘩もできない雑魚オブ雑魚
最近は俺が守ってやってたからその白い肌に傷なんてなかったけど、オレが気にかけるまではちょこちょこ怪我してた
小エビちゃんになんかあったら絞めるだけじゃ済まさねぇと心に誓い、自慢の長い足でポムフィオーレへと乗り込んだ
の、だが…
「やはりこのコスメの方が似合うのでは?」
「監督生、動かないで」
「これ美しくね?やば、僕天才だわ」
「割と肌綺麗だよね」
ポムフィオーレの奴ら複数人に囲まれてる。確かにそう。
でもたまにテレビで見る芸能人のメイクアップみたいになってる。
1番にオレに気が付いたのは小エビちゃんで
「あ、フロイド先輩!どうしてここに?」
なんて呑気に聞いてくる
「ジェイドが、小エビちゃんが無理矢理、ポムフィオーレの奴らに連れてかれたって聞いて…」
「助けに来てくれたんですか?」
「…うん」
「勘違いさせちゃってごめんなさい、フロイド先輩」
そう申し訳なさ半分、嬉しさ半分みたいな顔で微笑まれ、一気に脱力する
「ちょっと、騒がしいわね。何をしているの?」
思わず床に座り込んだオレの背後から、ベタちゃん先輩がやってくる
「あら、小じゃがじゃない」
「すみません、お邪魔しています」
小エビちゃんはほんのちょっぴり頭を下げて挨拶する。
まだメイクを続ける小魚の1匹が「動かない」と端的に指示する
「寮長!御機嫌よう」
「すみません、監督生がメイクどころかケア用品もまともに持ってないと聞いて居てもたってもいられず…」
「ほとんどメイクの経験もないというものですから、研究がてら試していたところです」
「ふぅん?」
ベタちゃん先輩はオレを引っ張りあげて無理やり立たせて、小エビちゃんの方へとシャチみたいにすげぇ力で引っ張って歩く
「ちょっ、ベタちゃん先輩?」
「…悪くないわね。フロイド、アンタはどう思う?」
「ヘ?オレェ?」
なんでオレに聞くの?メイクなんてベタちゃん先輩の方がわかってんでしょ?プロだし
そう思いつつ、小エビちゃんをみる
いつもより大きく見える目が、なんか期待するみたいにキラキラしてる
あ、やべぇ。普段でも可愛いのに、小エビちゃん、妖精みたいに周り光ってる。無理無理無理無理、このまま見てるだけでオレの心臓爆発して死んじゃう!!
「その、いんじゃねーの?…いって!!」
ベタちゃん先輩に思いっきり足を踏まれる
「フロイド」
そうひっくい声で呼ばれる。小エビちゃんはちょっとがっかりして肩 を落としている
違ぇの!そんな顔させたい訳じゃねぇの!!
「っ~~~!!!可愛い!可愛いよ、小エビちゃん!!!」
こうなりゃヤケクソだと、そうやって本音を叫ぶ
「……嬉しい」
小エビちゃんは、はにかんで、目を細めて、エクボが見えて…甘い甘い声でそう呟くように言った
「………は?」
無理。可愛すぎる
きゅるるるるとマヌケな音がする。
それがオレの喉が勝手に漏らした求愛の声だと、小エビちゃんに見蕩れていたオレはしばらく気がつくことが出来なかった
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