うろ覚え先輩
ハルトには悩みがある
それは、他人の名前を覚えるのが死ぬほど苦手と言うことである
「はぁ〜い、ダンゴウオ先ぱぁい
」
甘ったるく呼んでくるのは、今年入学してきた1年生だ。同じオクタヴィネル寮の後輩で、とにかくデカい
一応言っておくと、人魚の多いオクタヴィネル寮だが自分は人魚ではなく人間である。ので、当然ダンゴウオでもない。
巨体を屈めてわざわざ顔を覗き込んでくるこの後輩に
「センパイ、どんくせェからダンゴウオね」
と出会い頭に命名されたのだ。
どうでもいい補足だが、ダンゴウオは魚のくせに泳ぐのが下手らしい。
失礼極まりない話だが、彼のあだ名を付けるのはクセのようなものらしい。
大抵の彼のオキニイリの生徒は海鮮系、もしくは水辺の生き物のあだ名を頂戴しているし、止めろと言っても関係なしに呼んでくるのでもう放っておいている
彼は何かと問題の多い後輩だが、自分のことは何故だか気に入っているらしく、よく絡みに来る
「今日こそオレの名前、呼べるかなぁ?」
にっこりとタレ目を蕩けさせて、ヘテロクロミアを細める
あまりにハルトが名前を覚えないものだから、毎日顔を合わせる度に名前当てゲームをするのが恒例化してきていた
ちなみにゲームの参加を断ると気を失う寸前まで激しくハグ(マイルド表現)される
絞めることが得意とアピールしてくるだけあって、数秒で視界が真っ暗になる
「あー…、ふ、ふ…」
「そうそう!最初の文字はあってるよォ!」
頑張れ
頑張れ
と馬鹿にしつつ応援してくる後輩に、ハルトはうんうん唸る
ここでキレたり言い返したり魔法を放って問答無用大乱闘に持ち込まないあたりがダンゴウオなんだよなぁ。と考えつつ、フロイドはニコニコ待ってやる
「なんか美味しそうな名前だと思ったんだよなぁ…あ、わかった!」
「お?」
「フロート君!」
「違ぇ!!」
フロイドはゲラゲラ笑って床に崩れ落ちる
「ふふふ、ではボクは?」
床で笑い転げる兄弟に触れることなく、背後からぬっと現れたのは、フロートくん(仮)と同じ顔をした後輩だ
ハルトはほんの少しだけ驚く。彼は毎回背後から気配なく現れるのだ。ちょっとは慣れたが、やっぱり怖い
ニコニコ人好きのする笑みを浮かべて行儀よく立っている。ここだけ見れば大人しくて可愛い後輩なのだが…。ちょーっとデカいけど。
「あー、君はさぁ、なんかフロート君とセットで美味しそうな名前だったよなぁ」
「いやフロート君で決定すんなし」
「おやおや。惜しいところまでは来ているんですけどね」
フロート君(仮)とは違う少しつり目の瞳がうっそりと細められる
フロート君(仮)は性格が猫っぽくて、こっちは見た目と仕草が猫っぽいんだよなぁなんて考えつつ、ハルトは自分よりでかい後輩を見上げる
「あー、ジェラート君?」
「ふっふふふ、違います」
「違うかぁ…」
「僕はジェイド・リーチです。」
「で、オレはフロイド・リーチ」
ホントにダンゴウオ先輩、名前覚えんの苦手だよねぇ。とフロイドはハルトの首に腕を回してケタケタ笑う
「いつになったらちゃんと名前を呼んでいただけるんでしょうね、ハルトさん」
「かわいー後輩の名前くらい早く覚えてよぉ、ダンゴウオ先ぱぁい」
「2m近い可愛い後輩ねぇ?」
「あ?可愛くねぇの?」
「可愛いです」
取り立て顔で凄まれ、瞬間的ににっこりと取り繕う。一瞬で表情が消えるから怖いんだよ
「おやおや、とてもお優しい先輩だことで」
ニンマリと笑いつつ、ここでやり返そうとか抵抗しようとか魔法を放って問答無用大乱闘に持ち込まないあたりダンゴウオなんですよねぇと、先程兄弟が考えていたようなことをジェイドも考えていた
「ハルトさん、こんにちは」
そう声をかけてきたのは、よく例の双子を引き連れている銀髪のイケメンだ
彼もハルトにとっての後輩であり、ハルトに名前を当てさせたい生徒の1人
「あ、あー…アルフォート君?」
「誰がアルフォートだ!…こほん。…アズール・アーシェングロットです」
「あー、アズール君ね、アズール君。ごめんごめん」
「全く、いつになったら覚えて頂けるのですか?」
双子に続いて、アズール君も何故かやたら名前を当てて欲しがる
ハルトからすれば、不思議で仕方がない。
自分で言うのもなんだが、冴えない先輩だと思うし、覚えて貰っても何の得もないと思うのだが…
しかし、アズールからすれば「はぁなるほどなるほど、僕の事は名前すら覚える気にならない存在だと?へぇはぁふーん」ってもんで
つまりはちょっと拗らせた構ってちゃんである
飄々としているが、飛行術で失敗して泥だらけになろうが、体力育成でドタバタ見苦しく走ろうが馬鹿にしないで褒めてくれるこの先輩がまぁまぁ嫌いじゃないもんで
「早く僕のこと、しっかりと覚えてくださいね」
アズールがそう嫌味半分、本音半分でそういうと、ハルトはちょっぴり困った顔をして
「善処します」
と答える。
嫌味ったらしい後輩に対しても平気で懐に入れて甘やかす
ここでキレたり言い返したり魔法を放って問答無用大乱闘に持ち込まないあたりがダンゴウオなんだよなこの人。と、アズールはどこぞの双子のような事を考えた
数ヶ月後
「お呼びですか、アズール寮長」
「ふふ、やっと覚えて頂きましたね、ハルトさん」
誇らしげに微笑む寮長に就任したてのアズールと、眉を下げて微笑むハルトがいたとかいないとか
☆☆☆
「と…と…うーん………(スート確認中)……クローバー君」
トレイ「おいハルト、いい加減名前を覚えてくれよ、同じクラスだろ?(苦笑)」
「はは、ごめん…。全員、顔に名前入れるシステム取り入れて欲しい。そう思わない?ダイヤモンド君」
ケイト「うーん…それ、オレとトレイくんしか通用しないからね?この前ハートスートの子にハートくん?って言って怒られてたでしょ。あと、ケー君って名前で呼んで欲しいかな」
「ごめんね、ケーキ君」
ケイト「ハーツラビュル寮のイメージから離れよっか!!」
アズール「……。」
「あー…」
ジェイド「ヒントはA,Aですよww」
「アスキーアート君?」
フロイド「ファーwwwwww」
アズール「アズール!!!アーシェングロッド!!!!」
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[mokuji]
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