馬鹿ばっかだよ

モストロラウンジは今日も今日とて大盛況だった。数少ない一般開放日となれば尚更。

スタッフ達はいつもの寮服ではなく、式典服を身にまとい、大量の客を捌いた

何故、式典服か?それは、商売の天才アズール寮長の案で

「客はナイトレイブンカレッジらしさを求めてきます。式典服は、一目でここの生徒だとわかりやすい。かつオクタヴィネル寮生以外でも、ここの生徒ならば誰もが持っていますからね」

とのことだ。確かに、式典服はNRCの象徴みたいなものだし、オクタヴィネルの寮服の中に他寮の服を着た生徒が混じって浮くこともない。一石二鳥ってこと

てなわけで、式典服のぴらぴら靡く袖に苦戦しつつも今日の仕事を捌ききった彼らは、閉店後の片付けをしていた。

先程まで黙々とモップをかけていた監督生が、んー!と腰を伸ばす。

仕事にキリがつくと心の余裕も出てくるもので

「予約の時間に来ない客ってどう思います?」

監督生は近くで売り上げチェックをしているアズールにそう声をかける

アズールは監督生にはさっぱり分からない数字の書かれた紙をパラパラと捲りペンを走らせつつ

「fuck」

と一言だけ吐き捨てた。

ルールを守らないやつは死刑。海ではそうやって生きてきた。これ常識ね、知らんけど

「んっふふ。シンプル・イズ・暴言」

真顔から放たれた一言がツボってバイブレーションする監督生。

ふらふら左右に大きく揺れながら歩いてやってきたフロイドが、バイブレーション監督生の頭に顎を乗せる。めっちゃ揺れるし擽ったい

今日の客の中に、予約時間を過ぎたため連絡したが繋がらず、仕方なく他の客を通した後に現れて文句を言い散らかしていったカップルが居たのだ

先程まで忙しさに追われ愚痴る暇もなかったが、実は言うと監督生はずっとずーっとモヤモヤしていた

「あれは無かったよねぇ。小エビちゃん、よく切れなかったね。オレならあいつの頭掴んで床に叩きつけてた」

やる時はねぇ、こうよ、こう。と髪を掴んで床に投げる仕草を繰り返すフロイドと、そのフォームを真似する監督生。うーんNRC、物騒

「いやー、意味不明過ぎて感情が追いつかなくって。そいやっ!」

「わかるー。…ちげぇよ小エビちゃん、それだと手首捻るから。こうよ、こう」

「こう?」

「こう。」

次は地面に叩きつけますね!とフロイド直伝フォームの確認をしている監督生に、アズールが

「店ではやめてくださいね。」

と素っ気なく言う。

「店の外でなら良いよってぇ」

「クソ客をー?店の外へ連れ出してからぁ?…こう!」

「そう!」

フロイドと監督生が物騒にきゃっきゃっしていると

「あれッスよ。恋人の前で店員にハッキリもの言えるオレカッコイイ!ってやつ」

机を拭いていたラギーが、妙にキリッとした表情を作り、話に参加する

自分より下の立場の人にがなり立てて優越感を覚えるやつってのは何処にでもいる

獣人の中でカースト下位のハイエナであるラギーは、地元で働くと種族柄どうしてもそういうイキリ馬鹿に絡まれることが多かった

まぁ、そこはハイエナらしく、素直に頭を下げてバカを立ててやるフリをしながら財布を頂戴致しました

いやー、マドルは良い。マドルは使っちまえば足が付きにくいし、財布なんて川にでも流しておけば指紋も残らずサヨナラできる

物は売ると足がつくからね、仕方ないね

「あー、いますね、そういう方」

すすすっとキッチンをあらかた片付け終えたジェイドも話に参加する。

大人びていようが、普段ヤクザだ不良だと言われていようが、彼らは男子高校生

面白そうな話があれば集まってくるのである

他の寮生達も黙々と掃除を続けるフリをしつつ、こっそり聞き耳を立てている様子。

オクタヴィネルトップ3に、監督生のように物怖じせず近づいていく程の度胸は無い。が、面白そうな話には興味があるので

だって、ここにいるのはちょっぴり図太く元気な監督生。アイツがいると、話がだんだんおかしくなってくる。

「こちらから暴力を振るうと問題になるので、どうにか1発頂きたいところですね」

とジェイドがにぃんまり悪い顔をする。何人かの寮生が反射的に顔を逸らす。だって怖いんだもん

監督生は3秒程考えて、ジェイドの真似をしてにんまり笑い、口元に手を添える

「申し訳ありません、7時にみえる筈だったお客様…って言えばよかったですかね?」

「ぶっ」

「んぐっ」

彼らの期待通り、早速、監督生の馬鹿話が始まった

不意打ちを食らったアズールとラギーが噴き出す

「そんなん絶対笑うっス」

「どうして7時におみえにならなかったのですか?と問い質す時間が欲しかったですね」

「痛い痛い痛い」

ジェイドが自身のモノマネをする監督生をぎゅっ(マイルド表現)としてやりつつ、ニッコリ歯を見せて微笑む

「んっふふ、クソ客の尋問タイム」

「無理」

「新手の見世物」

フロイドとラギーがバイブレーションする。腹筋がヒクヒク引きつって痛い

「じゃあ逆に、どんな理由なら遅刻を許します?」

アズールが大喜利のネタを振る。彼も大人びていようが男子高校生。面白い話は大好きである

監督生はジェイドのギューッから何とか抜け出し、息を整えて3秒程考えてから

「先程、妻が産気づきまして…病院に連れて行ってました」

と迫真の真顔で言った。ちょっと口の端が持ち上がってしまっていたけれど

水槽のガラスを拭いていたクマノミの人魚の1年生が噴き出す

「それこっち来ちゃダメでしょ」

「奥さんに付き添って欲しいっス」

「何呑気に食事しに来てるんですか」

笑いながら、怒涛のツッコミである。3年のライト清掃をしていた生徒が笑い過ぎて脚立から落ちかけている

そこに追い打ちをかけるはジェイドである。

「すみません、子供を産んでいたら予約に遅れてしまって」

としっとり困ったように微笑んでみせる。こちらは妙に色気がある

「奥さん来ちゃったよ」

「安産すぎですね」

フロイドは小エビに縋り付いてひーひー笑い、小エビは「いよっ!人妻が似合う男!」とジェイドを褒めている

なんだ人妻が似合う男って

「それで本当に来たらお祝いメニュー出してあげますよ」

とアズールは肩を揺らす

ラギーが監督生からモップを借り、ジェイドに恭しく差し出しつつ

「3500gの女の子ですよ」

と俯いて笑いつつ言う

ジェイドは顔を両手で覆って感嘆の声を上げ、フロイドの腕から抜け出した監督生が、旦那役として愛おしそうにジェイドの高い位置の肩を抱き、背中を撫でる

身長差のせいで恋人と言うより親子になっているし、そもそも肩をちゃんと抱けてない

「おめでとう!」

「おめでとうジェイド!!」

「おめでとう!」「御祝儀何がいい?」「おめでとうございます!」

もう傍観者ではいられねぇと、モストロラウンジの至る所から祝福が送られ、ぱちぱちとまばらな拍手が響く

「皆様、ありがとうございます…」

妙にしなを作ってセクシーにお礼を言うジェイドの流し目が炸裂すると、もう男子高校生達は黙っていられない

「その抱えたモップを下ろせ」

「赤ちゃん、ちょっと痩せ型かな?」

「ふっふふふ、マジ無理」

「デケェんスよね、縦に」

「妻に似て、大きな子になりました…んっふふ」

「あなたが笑ってんじゃ無いですよ」

「しっかりしろよ旦那、お前の子だろ」

「ここの素敵な皆様にあやかって、モス、トロ子と名付けます」

「だっせぇ!」

「マジ無理、お前ら頭おかしい」

わちゃわちゃと騒ぎ立て、馬鹿みたいに騒ぐ

男子高校生達は今日も今日とて、元気いっぱいなのだ



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