小エビの物騒面白い話

はぁい!皆さんご存知、監督生でぇす☆

今日も今日とてやんちゃ系な生徒に絡まれてまぁす☆

ここの生徒は魔法が使えちゃう奴らばっかり…つまりは丸腰な監督生は喧嘩なんて吹っかけられてもめっちゃくちゃ不利な訳ですよ

もとの世界で言うなら、自分以外の全員が凶器持ってるみたいなもんじゃんね。

だから極力大人しく目立たないようにって頑張ってんのにさぁ…なんでこうなるわけ?

監督生は死んだ目で半分現実逃避しつつ脳内で愚痴る

わかる、わかるよ。自分らが必死こいて入学したとこに魔力なしがタダで居候してんの、面白くないよねぇ

でもさぁ、こっちだって必死に毎日生きてるんだよ…わからんだらけなのにグリムの面倒見て、勉強して、巻き込まれて…

「聞いてんのかよ!」

柄の悪そうな生徒に胸ぐらを掴まれる。

「あー…すみません。聞いてません。」

恐怖より何より、虚無の感情が勝っている

何時間もかけてようやく完成した魔法薬とレポートを床にぶちまけられ、集団で囲まれて、顔面ぶん殴られて、空き教室に連れ込まれて…

ここまで来ると1周回って怒りの感情なんて出てこないらしい

課題さぁ…今日までなんだよ。ごねるグリム宥めて、材料集めて、先輩に労働やら対価払いつつコツを教えて貰って…めっちゃ大変だったんだよ

やっと完成して、あと提出したら終わりだったのにさぁ…ぜぇんぶ床の上。1から作り直し。材料集めからやり直し。絶対間に合わない。

クル先バッボーイ待ったナシ

なんかもう、全部嫌になった。てかイジメくらい1人でしろよ。連れション文化男子かよ

殴られた頬は外側も内側も痛い。熱を持ってジンジンしてる。

こちとら殴られ慣れてないし、頭がめっちゃ痛い。

こっちは無抵抗なのに、相手は遠慮なしだ

乱暴に投げられ、床に転がされる。おまけとばかりに背中を蹴飛ばされた

げらげらとバカにするような不愉快な笑い声が落ちてくる。

なんで自分がこんな目に…もうやだ。やだやだ。

もう、全部、やだ。

監督生はポケットに手を入れ、スマホを取りだした

死んだ目で床に転がったままスマホをポチポチと操作する

運良く電話の相手はワンコールで出た

間延びした声は普段よりも高く、歌うように

「はぁい、フロイドでぇす♪小エビちゃん、どうしたのぉ?今授業中でしょお?なのにサボりぃ?珍しぃねぇー?」

と嗤う

ワンコールで出てくれた事に引き続き運のいいことに、かなりご機嫌のようだ。

まぁ、本当に幸運ならこんな奴らにボコられることも無かっただろうけど

悪運が強いってやつか。監督生は自嘲気味に笑う。やってられるか。

「あー、フロイド先輩、人殴りたい気分じゃないです?目の前にサンドバッグいっぱいいるですよ。」

極力明るく、心底心躍ると言わんばかりにおどけてそう言ってみせる。

口を動かすと鉄っぽい味が広がる。口ん中切れてるわ。最悪

「対価に、元の世界の面白い話教えますんで。どうです?」

「ふぅん?いいよー」

電話越しの声は、優越を含んでいた



「可哀想な小エビちゃん。5人に囲まれた位で抵抗できないんだぁ」

秒で駆け付けてくれたフロイドにより、やんちゃ系生徒たちは制圧された

海底2万マイルの足で扉を開けるなり3人を一気に薙ぎ倒し、残り2人が何とか抵抗し放った魔法をユニーク魔法で打ち返して、あとは拳でぶん殴る

結局世の中、暴力が解決するんや…

魔法で身動きを取れなくした生徒達を椅子に縛りつけ、何故か監督生が持っていた布を口に噛ませながら、フロイドはケタケタ笑う

「で、かわいそーな小エビちゃん。対価の面白い話ってなぁに?」

ゆっくりと床から上半身だけ起こした監督生の前にしゃがみ込み、ポケットから出したシワシワのハンカチで乱暴に頬を拭ってやる

監督生は顔を顰めてハンカチから逃れようとしたが、フロイドは後頭部を押さえつける

「いたたた…もう少し優しくして下さいよ」

「小エビちゃん、唇切れてるよ。痛いねぇ、可哀想にねぇ」

あとはどこ殴られたの?それとも蹴られた?

「弱っちい小エビちゃん…。魔力無しで無抵抗の小エビちゃん虐めるの、楽しかったァ?」

フロイドはニコニコと笑って椅子に縛り付けた生徒たちに言葉を投げかける。愉悦を含んだ目が弓なりに細められる

フロイドの視線は監督生を向いたままだが、言葉を投げ掛けられた先程まで優位に立っていたはずの生徒たちはビクリと肩を揺らす

対価を払いさえすれば、オクタヴィネル寮の人魚共は大抵の事はやってのける。例えばそれが、報復だとしても

監督生が何らかの対価を差し出せば、自分たちが酷い目に合わされると察したのだろう

監督生はフロイドの左右色の違う瞳を見つめ

「フロイド先輩」

と薄ら笑う

「監督生オススメの面白い話、聞いてくれます?」



結論から言えば、直接的な報復は行われなかった。故に、逆に、監督生をリンチした5人の生徒は二度とコイツに手を出すまいと誓った

フロイドはげたげた笑いながら歪んで縦長になってきたスイカを見ていた

「やっべぇね!小エビちゃんの世界の拷問!!」

監督生とフロイドは、2人がかりでスイカに輪ゴムを通し続けていた

何十、何百と輪ゴムを伸ばし、スイカの真ん中辺りに嵌めていく

先程までまん丸だったはずのスイカは嫌な音を立てながらゴムの弾性に負けまいと踏ん張っている

監督生が話した面白い話とは、人をじっくりと痛めつける方法であった

「小エビちゃんの話面白すぎて、モストロラウンジからスイカ盗ってきちゃった

とフロイドがダッシュで奪ってきたスイカは、予行演習に使われている

何の予行演習か?それは…

「ミシミシ言い出しましたねぇ。これが人の頭だと思うと怖いですねぇ?」

監督生は椅子に縛りつけられ仲良く並んでいる5人の生徒をちらりと横目で見て、にっこりと微笑む

暗に、スイカの次はお前の頭蓋骨でこのゲームをやるからな。ということである

「あ、これ割った方が負けですからね」

「そんなチキンレースだったの?これ」

フロイドはビョインビョインと数十本束ねた輪ゴムを伸ばし、またスイカに掛ける

ぎちぃ…と大きく軋む音がする

監督生は大袈裟に身を引いた

「あ、そろそろ爆破しますね!退避退避!!」

監督生がフロイドの後ろに身を隠すと同時に、束ねられた輪ゴムが収縮しきり、スイカが真っ二つに弾け飛んだ

真っ赤な果肉が辺りに飛び散る。縛り付けられた生徒達は防ぐ術もなくそれを全身に浴びた

びしゃびしゃ!!と勢いよく果汁が床を汚す。若干の青臭さと甘い香りが室内を満たす

「ぎゃははは!!やっべぇ!めっちゃ吹き飛ぶじゃん!!もう1回やろ!!!」

ちゃっかり魔法で果汁やら果肉を弾いたフロイドは、腹を抱えて涙が出そうなほど笑った

監督生もフロイドの背中から顔を出し、けたけた無邪気に笑う。

「いいですね!もう1回やりましょ!!」

「でも、スイカ無いねぇ」

「無いですねぇ、スイカ」

フロイドはゆらりと大きく1歩を踏み出す。

椅子に固定された生徒は、スイカ臭い空気の中、冷や汗を流し始めていた

監督生は笑っている。しかしその笑みはまるで張り付けられた面のように無機質で不気味に感じられる

「次、どれにするぅ?」

「ねぇ、沢山あるから悩みますねぇ」

「ねぇ、さっき一方的に小エビちゃん殴ったの、楽しかったねぇ。仕返しされるかもって思わなかったんだよねぇ?だって小エビちゃん、魔法使えないし喧嘩も弱いもんねぇ」

フロイドは嗤う。牙を剥き出しにして、ケタケタ笑う

長い指が順番に生徒を指さしていく。どれにしようかなぁーと、場違いなほど呑気な歌が室内に響く

何周かしたのち、ピタリと1人を指差す

「次はお前の番だよ。」

そう告げた声は明らかに死刑宣告で、遥か北にある深海よりも冷えきっていた



「あっはっはっ!スッキリしました!!」

監督生は晴れやかに笑う

解放してやった生徒たちは土下座せんばかりに謝って逃げていった。

自分一人では決してこんなマネ出来なかっただろう

「ふっふふ、アイツらの顔みたぁ?ちょっとチビったんじゃねーの?」

「あー、写真撮っておけばよかったー。アイツらが就職する時に企業に送り付けんの。いじめの実行犯ですって」

「陰湿ー!!!」

フロイドはゲラゲラ笑いつつ、マジカルペンを一振

一面に飛び散ったスイカの果汁やら果肉やらがあっという間に集まって、部屋の中心でぷかぷか浮かぶ

「魔法って便利ですねぇ」

「オレこの魔法得意なんだー。はい、証拠隠滅かんりょー!!」

フロイドがペンをまた一振すると、窓の外へとスイカ玉が飛んでいく

「え、まさか外に捨てます?」

「うん!!」

ぱん!と子気味のいい音がして、誰かの悲鳴がした。

なむなむ…ご愁傷さまと監督生は見知らぬ誰かに合唱する

「ところで小エビちゃん、なんで輪ゴムとか布とか持ってたの?」

フロイドはにぃんまりと笑って監督生の顔を覗き込む

監督生は首を傾げたが、あぁ!と手を打ち

「よく飛ぶ水鉄砲作ろうとしてたんです!」

まさか、拷問道具として持ってたわけないじゃないですか!と無邪気に笑う

フロイドは二、三度目を瞬いてから

「やっぱ小エビちゃん、面白いね♪」

と頬を緩ませた



☆☆☆
これは入り切らなかったおまけ


「皮膚をね、少しつまんで輪ゴムで止めるでしょ?そこを切り取ると、痛みはあるけど止血されてるから中々死ねないんだそうですよ」

面白い話として切り出された話にしてはとても物騒だ

平和ボケしてヘラヘラ笑っている監督生と同一人物か疑いたくなる

笑っているのに、目の奥は冷えきっている

ガサガサとビニール袋から輪ゴムを取り出し、フロイドに差し出す

「ねぇ、楽しそうでしょ?ほら、丁度あるんですよォ、輪ゴム」

「準備いいねぇ小エビちゃん。まるで使ってくださいと言わんばかりじゃんねぇ」

それをしれっと受け取って、箱を遠慮なく開けながらフロイドは笑う

「小エビちゃん、そんなやべぇ顔出来んだねぇ」



「あぁ、そういえば…見て見てフロイド先輩!こんな筒も持ってます!」

監督生は無邪気な声色でそう言って、筒を覗き込んでフロイドを呼ぶ

「あはぁ、望遠鏡みたい。それも楽しいこと出来んの?」

「これねぇ、目に当ててぽんと叩くと、お目目がコロリンと飛び出ちゃうらしいですよ」

「え、マジ?」

「あはは、やったことないんでわかりませぇん。試してみます?」

2人してちらりちらりと縛り上げた生徒を見るもんで、全く気が休まらず、妙な寒気が嫌な汗と共に背中を伝っていく

先程までいじめの加害者だった彼らはいつ自分達に手を出されるのかとただただ青ざめるしか出来なかった



☆☆☆
さらにおまけの補足。監督生は課題達成祝いによく飛ぶ水鉄砲を作ろうとしていただけ。これはマジ。

塩ビパイプの先端に穴開けたものと、布をグルグル巻いて輪ゴムで固定した棒を作れば完成!

めっちゃ飛ぶけどまぁまぁかたい。

課題はご機嫌フロイド君がぱぱっとやってくれたので間に合いました。お礼に水鉄砲あげました。

フロイドはビシャビシャで帰寮したのでアズールにバチくそ怒られました。
え、僕も欲しいです!とジェイドとも後日作って遊んだ



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