監督生は優等生

ジェイドはグルグルと大釜をかき混ぜていた

今は1年と2年合同の魔法薬学の授業中

2年生と1年生でペアを組み、課題の魔法薬を完成させるのだ。

魔法薬生成に失敗したり釜が爆発した場合、1年生は補習、2年生は指導不足としてBadboyされレポート提出をさせられる

個性豊かで協調性皆無な1年生の面倒を観させられることで2年生にとっては気の重い授業だが、予定調和を嫌うジェイドはそれなりに楽しみにしていた

だって無知特有の意味不明理解不能魔法薬が生成されるの、めっちゃ面白くありません?

レポート提出くらいいくらでもするから、出来るだけド派手にやらかして欲しいんですけど

なーんて思っていたのだが、ペアになったのは監督生だった

「ジェイド先輩がペアですね。頼もしいです」

とニコニコする監督生に

「ふふ、よろしくお願いしますね」

と穏やかに人好きのする笑みで返したが、正直ジェイドはガッカリだった。

闇の鏡にどこからが導かれ、帰ることが出来ない。魔力を持たず、魔法学校に通うクセに魔法が使えない。

その2つを除けば、どこにでもいる平均的なパッとしない人間だ

成績は中の中、運動神経も可もなく不可もなく

仮に魔力があれば、まぁそれなりの魔法士になれたであろう人材

魔法薬作りでもちゃんとレシピを見て、材料を測り、手順通りに作る

あぁ、このままいけば、何事もなく課題の魔法薬は完成するだろう

つまらないなぁ

ジェイドは監督生の黒々とした髪を見下ろす

トラブルメイカーで妙に人を惹き付けるくせに、本人は至って冴えない人間でしかない

退屈するジェイドの背後で、ゴボゴボゴボッと粘液質な泡の弾ける不快な音がした

監督生を引き寄せて音のする方を見つつ防御魔法を展開させる

何事かと不思議そうにする監督生と含み笑いをするジェイドの視線の先で、エース、フロイドペアとデュース、カリムペアが派手に釜を爆発させた

ほぼ同時にボンッ!!と真っ黒な煙が天井へと吹き上がり、室内が一気に暑く、焦げ臭くなる

飛び散った魔法薬を間近で浴びたエースとデュースとカリムが熱さでのたうち回り、ちゃっかり自分だけ防御したらしいフロイドが爆笑していた

慌ててカリムを捕まえ、ジャミルが水をかけている。幸いちゃんと実験着とゴーグルを着用していたので火傷等は無さそうだ

「うわっ!あーあ、派手にやりましたね」

エースとデュースの二人は補習行きだ。とくすくす監督生が笑う。ジェイドも目を細め

「そうですね。」

と笑った。実に愉快だ。欲を言うなら、もう少し間近で見たかった

今回の課題である声変え薬は手順さえ守れば簡単に生成出来る。

以前クルーウェルが2年生の課題として出した魔法薬のように、一定の温度を保ちながらゆっくりと撹拌し続けないと分離する、なんてことは無い。

そんな魔法薬なのに、一体何をどんなタイミングで混ぜたと言うんだろう

クルーウェルがBadboy!!と叱りながら鞭を振ると、ビターンと窓が勢いよく外側に開く

「爆発のせいか、すごい熱気ですねぇ。流石に暑っついや…」

「ふふ、そう言えば監督生さんは、いつも額も耳も髪に隠れていますね。」

ジェイドは手袋を外して腕にかけ、ポケットからピンを取り出す

監督生は少しだけ驚いた顔をする

「え、意外ですね。ピンなんて使ってましたっけ?」

「ふふふ。ほら、大人しくしてください。食事の際に、髪が邪魔になることがあるんですよ」

ジェイドの長い指が監督生の汗ばんだ額にかかる髪を掻き分ける

まじまじと顔を見るのは、案外初めてかもしれない。

自分を見上げる黒曜石のような目を彩るまつ毛が長い。

ジェイドはじっと監督生を見下ろし、観察してから誤魔化すように

「…意外と幼く見えますね」

と微笑んだ。監督生はヘテロクロミアを見上げつつちょっぴり苦笑いする

「それが嫌で隠してるんです。…あ、」

「おや…?」

髪を耳にかけてやる際、違和感を覚え、ジェイドは監督生に顔を寄せる

「あーあ、バレちゃいましたね」

監督生は猫のように目を細めて笑う

監督生の耳には、いくつものピアスが開いていた。

耳たぶから軟骨まで、小さな耳をシルバーのピアスが埋めつくしている

ジェイドは目を丸くしつつ、監督生の耳を指でなぞる

ピアス一つ一つを確かめるように、ゆっくりと指先で触れる。擽ったいのか、監督生は少しだけ身を捩るが大きな抵抗はしなかった

「ひとつ、ふたつ…7つも空いてるんですね」

「ふっふふ、えっち」

「意外ですね」

「ふふ、ちゃんと真面目そうに見えてたでしょ?」

監督生はイタズラが成功した子供のようににまりと笑う

「ただでさえ目立っているので、隠してたんです。ピアスが見えると、やんちゃそうでしょ?」

「…そうですね。とても印象が変わりました。右耳にも空いているんですか?」

「見ます?」

「はい。」

ジェイドは躊躇いなく監督生の髪を掻き上げ、耳にかけた

両耳が見える監督生はとても新鮮で、そしてなんだか…

「とても素敵ですね」

ジェイドは胸が疼くような感覚を覚える

いつもの冴えない、なんの特色もない人間が急に輝いて見えた

「ふっふふふ、僕、あなたの事がもっと知りたくなってしまいました」

ジェイドは鋭い歯を剥き出しにして笑う

監督生はほんのちょっぴり背筋が冷えるような感覚に身震いする

要らぬ興味を引いてしまったらしい

ジェイドの指先が監督生のピアスを、星座をなぞる様に撫で上げていく

どこか遠くの釜がまた爆発し、ジェイドの腕にかけられた手袋が爆風で床に落ちる

「この後、お茶でも如何です?是非あなたのお話が聞きたいです。」

「…お手柔らかにお願いしますね。」

これは余談だが、監督生とジェイドのペアの魔法薬はなんのトラブルもなく完成し、Goodboyを頂いた



☆☆☆
イデア「あーはいはい、ギャップ萌えってやつね」


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