あなた何歳なんです?
今日もモストロラウンジは大盛況だった。片付けを終え、おのおののんびりと寛いでいた
「あー、酒飲みてぇ…」
ソファーに身体を沈ませながら、監督生は草臥れた中年男性のように言って天井を仰ぐ
「え?小エビちゃん未成年でしょ?ダメじゃん、そんなこと言っちゃ」
ドカリと隣に腰掛け、フロイドは隣の小さな頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜて笑う
「いやいやフロイド先輩、この前スイーツ用のブランデーちょろまかしてたじゃん。カントクセー知ってますよ」
「フロイド」
レジ締めの確認をしていたアズールが低い声で端的に呼ぶと、フロイドは露骨に顔を歪めた
「げぇ…ジェイドォ…小エビちゃんがバラしたぁ〜」
「ふふふ、おやおや。悪い子ですね」
「すいません、羨ましくてついうっかりわざと…」
「本音しか出てねぇんだよなぁ…。絞めよ」
「ぐえぇ」
監督生の首に腕を回し、絞めあげる。あくまで小エビに対する戯れなので力はそこまで強くはない
大袈裟に苦しがる監督生が面白く、フロイドはオラオラと丸い頭を乱暴に撫で回す
クシャクシャに乱れる髪を微笑ましそうに眺めていたジェイドだが
「そういえば、あなた時折物凄く大人びたことを仰いますよね。」
本当はお幾つなんです?なんて尋ねる。珍しくにやにや顔じゃなくて割とマジな顔
監督生の年齢ってそんなミステリー?あーでもジャパニーズって年齢わかりにくいんだっけ。なんて、当の本人はぼんやり考える
「あー、16、7?」
「いや待って、なんで自分の歳が曖昧なの」
「監督生さん、1年生の大半は15~16歳ですよ。」
アズールが呆れたようにそう指摘すると
「あらやだ。かんとくせー、15ちゃいれすっ」
と監督生は態とらしく目をきゅるるるんと丸くして幼女のように振舞ってみせる。
幼い子が5しゃいれす!と言いながら間違えて3本の指を見せびらかすように、8本指を立てるというどうでもいい演技付き
童顔のせいかちょっと可愛いのがめっちゃ腹立つんだが?
「はっ倒すぞ」
「まぁまぁ」
思わず素になったアズールをジェイドが演技がかった仕草で宥める
「そういや、ここでの成人って何歳からなんです?」
フロイドの腕から抜け出し、監督生が尋ねる。
「陸では20歳が多いのでは?」
とジェイドが飲み物を渡しつつ答えた
ジェイドから渡されたコーラはフロイドに、紅茶は自分の前に置いてお礼を言う
「じゃあレオナおじたん酒飲めるじゃん。」
紅茶に砂糖とミルクを入れながら、いいなーと監督生は呟く
フロイドはお子様舌なんだから最初から紅茶じゃなくてコーラ頼めばいいのに。とどうでもいいことを考えつつストローを噛んでいた
「あそこの国は15からですよ、確か」
ジェイドが監督生の隣に腰掛ける。両側に足の長い男を並べるな。相対して短足に見えるだろうが
「熱砂の国も15って言ってなかったァ?」
「マジ?カントクセー今日から夕焼けの草原生まれ熱砂の国育ちね、お酒プリーズ!」
両脇に双子を侍らす監督生の前の席に腰掛けアズールはわざとらしくにっこりと微笑む
「大変申し訳ありませんが、ラウンジでの飲酒は学園長より許可されておりません。」
「えー、カラスで焼き鳥作って飲もうよォ」
「それオレの真似?」
「ぐえぇ…」
「もしかしなくても、そのジビエは学園長のことですか?」
「想像におまかせしますぅ」
再びフロイドの長い腕に首を絞められつつ、ジェイドににっこり微笑んでみせる監督生。最近いい性格になってきましたね
「そーいや、珊瑚の海は何歳からとかあるんです?やっぱ20歳?」
「繁殖能力があれば成人…成体ってところでしょうね」
アズールがストレートの紅茶を優雅に口に含みつつ答える。
「生死がかかってんのに今日から大人ね、なんて呑気なこと言ってらんねぇよな」
「ふふふ、年齢と強さは比例しないものですよ」
「あー、なるほど…怖いっすね」
海の中は弱肉強食ってわけだ。ナチュラルで物騒思考にもなるわなぁ
「で、小エビちゃんっとこはぁ?やっぱ20歳?」
「自分のところは、10歳になると成人扱いされパートナーのモンスターと共に国中を巡る旅に…」
「はいダウト。」
アズールストップが入った。かなり早かった。ジム巡りの下りまで語らせて欲しかったんだが?
「あなたそれ元の世界のゲームの話でしょう?」
イデアさんに作ってくれと無茶振りしてたやつ…と呆れたように眼鏡に触れる
フロイドがなにか思い出したらしく、あ。と声を上げる
「それ完成しそうってクリオネちゃん言ってたよ。」
ジェイドもそう言えば、とフロイドに続く
「イグニハイド中からモンスターデザイン募集していましたね」
「マジか!!あ、ちょっと自分もモンスターデザイン参加したい!!」
「それで、監督生さんの生まれたところでの成人の話はどこへ?」
「あぁ、実は言うと自分の国では12歳になるとニンジャ修行を…」
「はいうそー!」
「そろそろボクのユニーク魔法が火を吹きますよ?」
「ジェイド先輩なら、普通に口から火を出せそ…いだだだごめんなさい嘘です」
この監督生、まともに話が通じない。飄々としているというか、煙に撒きまくっているというか、本質になかなか触れさせてくれないのだ
双子に両側からプレスされ潰されている監督生を呆れたように見つめつつ、アズールはため息を吐く
「あなた、年齢の話になるとすぐそうやってはぐらかすの、どうしてなんです?」
「いだだだっ!潰れる!」
190cmと191cmの巨体の隙間で暴れる監督生が、なんとか2人の胴体から出てきてぐったりしつつアズールを見上げる
「引かない?」
「引くような理由なんですか?」
「んー、実はね、カントクセーはねぇ」
クルーウェル先生と同じ歳なんだよねぇ。
そう監督生が言うと、沈黙が訪れる
え、年上?こいつが?あのレオナ・キングスカラーよりも年上?
先程まで可愛い小さな後輩を弄り倒していた双子は、まじまじと小さく丸い頭を見ろし、アズールは無意味に何度か眼鏡をかけ直す
「……ほら、こーなったじゃん。」
監督生は無邪気にケタケタと笑ってから、紅茶を1口啜る
「あー、酒飲みてぇ」
そんな呟きが沈黙の支配するモストロラウンジに零れ落ちた
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