お菓子の箱庭

どんぐりを踏む。カリッカリッと音がする

「ふっふふ、この音ってなんだか芳ばしくって好き」

ハルトは中庭でどんぐりを踏んで遊んでいた。カリッコリッと音を立てながら、踊るようにステップを踏んでいく

「殻はきっと、ビターキャラメル味。パリッパリなの。中にはナッツが入ってるんだ」

機嫌よく笑いながら、ちょっと大きな独り言。アイデアは口に出さないと忘れちゃうんだもん

「帽子は…なんだろ…」

ハルトはステップを止める。キャラメルとナッツで味が完成してしまっている気がする。

「んー…」

「ビターチョコなんてどうだ?いや、カリッとした食感がいいなら飴の方がそれっぽいか?」

「ひょえっ」

背後から急に話しかけられ、ハルトは飛び退いた。

背後に音も無く立っていたのは、同じ部活に所属する先輩だった

「と、トレイ先輩…!」

聞いてたんですか?と羞恥でポポポと頬を赤らめるハルトに、トレイは苦笑いする

随分大きな独り言だったのは、誰もいないと過信していたからなのだろう。悪い事をした。

「ははは。スマンな、驚かせたか?」

「あの、その、恥ずかしい所を…」

「ん?いや、楽しそうでつい参加してしまって。悪かったな」

「いえ…その、えっへへへ」

照れ笑いをするハルトはなんだか年より幼く見え、可愛らしく映る

トレイはハルトの頭をポンポンと撫でて、人好きのする笑みを浮かべる

「もしよければ、今後のスイーツ作りの参考にしたいんだ。お前の考えていることを、教えてくれないか?」

のちのち思ったが、もう少し気の利いた言い方をすればよかった。

我ながらちょっと恥ずかしい言い回しだった。



「魔法とか液体窒素で凍らせたバラを握り潰す実験とかたまにあるじゃないですかー。」

あれ、飴細工みたいで美味しそうですよね。なんて笑いながら、ハルトはメモ帳をパラパラ捲る

同じ部活の後輩だが、スイーツ作りが好きだなんて知らなかった。アイデアをメモ帳に書き溜めているそうだ

実用的かそうでないかは問わず、何でも書いておくんだとか

「なるほど、お前にはそう見えるのか」

「雲を見たら綿菓子だーとか、カステラのふわふわベッドで寝たいー!とか思いません?」

「ははっ、楽しそうでいいな」

「あれ、ちょっと馬鹿にされてます?」

「いや、そんなことないぞ?」

ハーツラビュルのキッチンにふたり肩を並べて小さなメモ帳を覗き込む。

トレイが談話室で話しているとすぐ人が集まってきて次のスイーツのリクエストをされたり、おやつをねだられて困るのだ。

キッチンならあまり人が寄り付かない。まぁ、甘くていい匂いがし始めると「味見」をしにちゃっかりした後輩が覗きに来たりもするが

「あ、」

「なんだ?」

「そういえば、おれ、この前結構いいもん作ったんですよ」

ハルトはポケットからスマホを取り出し、ぽちぽちと弄ってから画面をトレイに向ける

画面の中では、金魚鉢ほどの大きさのガラスの容器いっぱいに花やキノコが溢れていた

小さな池には魚が泳ぎ、花の上には蝶が舞っている

「これは、テラリウムか?」

「ふふふ、この前支配人が食べられるお花を使ったメニューの考案しててね、その時に作ったんです。テラリウム風スイーツ」

支配人と聞きなれない言葉で浮かんだのは、オクタヴィネル寮の寮長の姿だ

「あー、そういやモストロラウンジで働いてたんだっけか」

「よく「ぽくない」と言われますが、オクタヴィネル寮生です」

ほんのちょっぴりムッとして腕章を見せ付けてくる後輩に、トレイは眉尻を下げる

「ははは、悪い悪い。」

半眼でじっとり見つめてくるハルトの頭を撫で回す。

どうもあのオクタヴィネル寮トップ3の印象が強過ぎるのか、この素直な後輩が指定暴力団…じゃなくて詐欺集団…でもなくてオクタヴィネル寮所属に見えないのだ

ハルトは誤魔化されたな。と思いつつも、撫でられて機嫌を直してしまうあたりやっぱり素直なのだ

「まぁいいや…で、見て下さい!これね、土はチョコクッキーを砕いて作ったんです」

そこにロックチョコとか、抹茶をまぶしたんですよ。とハルトは楽しそうに続ける

「キノコはクッキーとアイシングか。カラフルで可愛いな。蝶は飴とチョコだな」

「チョコの方は、俺がクッキングシートに、こう、うまいこと描いて作ったんです。」

それを見ていたフロイドが魔法で飴細工の蝶々とか花とか作ってくれたんですよ!

「ゼリーの池には白玉の魚で、池の周りの大きめな石はなんとメレンゲクッキーです!」

「ふむ、なかなか面白いな。参考になるよ」

「んっふふ。まぁ、不採用でしたけど。手間とカロリーが多過ぎるって」

ジェイドからは絶賛!大好評!だったんですけどねとハルトがケタケタ笑う

「あいつキノコ好きだもんなぁ…」

「何がそこまで人魚の心を鷲掴みにしたのかはさっぱりですけどね。…どうです?何か参考になりそうですか?」

ハルトが首を傾げつつ微笑む

トレイはしばらくその裏のない微笑みを眺めてから

「あぁ、ありがとう。」

と唇を弛めた



後日聞いた話、何でもない日のパーティーに赤の女王の庭を再現した箱庭風巨大スイーツは大好評だったそうだ

「助かったよ、ハルト」

「いえいえ、お力になれて何よりです」

「これはそのお礼だ。良ければ受け取ってくれ」

そうラッピングのされた可愛い袋を手渡される

中に見えるのはマロングラッセとカップケーキ

「わぁ美味しそう!」

「喜んでもらえてよかったよ。」

「でも、珍しい組み合わせですね」

「ははっ、気がついたか?」

なんとなしに放った言葉に意味ありげな笑顔を返され、ハルトは首を傾げる

「スイーツに詳しいみたいだし、意味が伝わるかと思ったんだが」

トレイはわざとらしく微笑む

ハルトはしばらくマロングラッセとカップケーキを眺めていたが、なにかに気が付くとぽぽぽと頬を赤らめる

「お、お返しにドーナツ焼きますね」

ハルトがそう小さな声で言うと、トレイはニッコリと笑ってその丸い頭を撫でた



☆☆☆
カップケーキ「あなたは特別」
マロングラッセ「永遠の愛を誓う」

ドーナツ「あなたが大好き」



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