日常的プロポーズ

ナイトレイブンカレッジを卒業し数年経った

結局故郷へ帰る手段の無かった監督生は現在、エースと同居している

薔薇の王国の観光地から外れた場所で、のどかで公園の多い小さな町のマンションの一室だ

卒業と同時にエースから告白し、2人は恋仲になった

後から聞いた話、監督生も随分前からエースのことが好きだったらしい。

ただ、元の世界に帰り一生の別れになると辛いから告げなかったんだとか。

早い話、2人は両思いだったのだ

エースは学生時代に研修に行った場所へ就職し、エースの職場に近くて賃金の安いマンションが2人の愛の巣となった

ちなみにだが、監督生は相変わらずナイトレイブンカレッジの雑用係として働いている。

マンション内の姿見と闇の鏡を繋げて貰ったので、本来なら片道だけでも交通機関を乗り継ぎ数時間かかる場所にある学園にも楽に行き来することが可能となっている

名目上は用務員に変わったが、やっていることは学生時代と差程変わらない

グリムも変わらず監督生のパートナーとして、オンボロ寮に暮らし共に雑用係をこなしている

「私、優しので」が口癖の胡散臭い学園長であったが、やっぱりなんだかんだで優しく、卒業後の面倒もみてくれている

身寄りのない監督生と養子縁組し、親代わりとなってからは孫の顔を見るのが楽しみとなっているそうだ

余談はさておき、エースは監督生と付き合ってから気が付いたことがある。

監督生は、喧嘩すると籠城するタイプだった

部屋から出てこず顔を合わせなくなってはや3日。

正直喧嘩の原因もすでに忘れるほど些細なものだった

エースは今日も誰にも見送られることなく出社し、仕事を済ませて帰宅する

相変わらず籠城している監督生の出迎えはなかった

しかし机の上にはホカホカの…恐らく帰宅時間に合わせて作られた夕食がちゃんと並んでいるものだから、エースは思わず口元に笑みを浮かべてしまう

愛されてるよな、オレ

エースは監督生が籠城している部屋に向かって

「ちょっと用事思い出したからコンビニ行くけど、なんかいる?」

と尋ねてみる

返事は返ってこず、部屋の中の気配がモゾリと動く

しばらく部屋の前で返事を待ってみたが、沈黙のみが続く

エースはドアノブへと手を伸ばしかけたが

「……。」

結局そのドアを開けることなく踵返した

「ちょっと出掛けるかんね。すぐ戻るから」

エースは玄関から出ていく

その背中をちょこっとだけ部屋の扉を開けた監督生が見つめていた



エースがコンビニ袋をぶら下げて帰宅すると、監督生がべそべそ泣きじゃくって玄関で座り込んでいた

学生時代に数々の問題に巻き込まれたが、流石のエースも玄関開けてすぐに見えた恋人の泣き顔にぎょっとする

「どうした?!」

「エース…エースゥゥ!!」

コンビニ袋を床に置いて、泣きじゃくっている監督生を抱き締める

「なぁ、泣いてちゃわかんねぇし。ちゃんと話せって」

監督生も学生時代に散々巻き込まれ騒ぎの中心にいたが、怒ったり怯えたりすることはあっても泣くことは滅多になかった

そんな恋人が子供のように声を上げている

「あー、よしよし。どうした?ほら、ソファー行くぞ」

エースは呆れたように笑いながら監督生を横抱きにし、リビングまで連れていく

「うぅ…えぐっ…エース…」

「んー?どした?ご機嫌斜め?ほら、ちゃんと息吸えって」

リビングまで運ぶ間、恋人の額に唇を押し当てる。ブッサイクな泣き顔だが、自分以外にこの顔を見る奴はいないんだろうなと思うと妙に愛おしくなる

監督生を横抱きにしたままソファーに腰掛け、まつげについた雫を指で拭ってやる

「で、どうしたわけ?」

「…エース…前に「喧嘩したら絶対オレから謝る」って言った…」

監督生はべそべそ泣きながら蚊の鳴くような声でそう言った

どこか聞き覚えのあるそれがいつのものだったか少し考え、思い出したエースは少し目を細める。

懐かしい。確か、学生時代にゴーストの花嫁が押し掛けてきた時のプロポーズの言葉だ。そんなことを未だに覚えているのか

「オレ、そんなこと言ったことあったっけ?」

「あった!!幽霊の花嫁に告白した時!」

「何年前の話だよ」

そんなの覚えてねぇし…。と言いつつ、エースはちゅっちゅっと監督生の顔に何度も口付ける

監督生は子供のように唇を尖らせムッとする

「付き合う時「毎日笑わせてやる」って言った!」

「ん゛ん゛。それは言ったわ…」

流石に恋人への正式な告白を忘れたフリは出来ず、思わず苦笑いする。

「…エースが悪いの…。3日も経った…。謝って」

監督生は涙で潤む瞳で傲慢なセリフを吐く。しかしその目はエースの様子を窺うように、少しの怯えに揺れている

エースはしばらく監督生と見つめ合い、長いため息を吐く

つまり何?本当はさっさと仲直りしたいけど素直になれないから俺から謝れって?

自分が引きこもったくせに、寂しくなっちゃった訳?

はぁー?何コイツ。なんか妙に面倒臭くて可愛いことするよなぁ

「今コンビニでさぁ、期間限定スイーツ見つけたから買ってきたんだよねぇ。お前好きかなって」

エースはいじらしい恋人と額同士を合わせ、微笑む

「仲直りの印って言ったら、受け取ってくれる?」

「う゛ん゛」

「声汚ぇな」

ケラケラ笑って、服の袖で監督生の顔を優しく拭う

「はぁーよしよし。俺と3日も会えなくて寂しかった?」

「…さみしかった。」

「はいはい、ごめんねぇ。でも飯とかちゃんと作ってくれてありがと。掃除もしてくれて、風呂も準備して待っててくれて…」

「う゛ん゛」

「やっぱ声汚ぇな」

監督生をソファーにおろし、玄関に置きっぱなしだったコンビニ袋を取ってくる

当たり前のように隣に腰掛けると、すりすりと子猫のように寄ってくる

それに気を良くしたエースは、監督生の髪を指で梳いてやる

「今日は3日ぶりにオレとイチャイチャ出来るねぇ。なぁ、うれしい?」

「…うれしい」

監督生は涙を乱暴に掌で拭ってへにゃりと笑う

そこは素直なのかよ…こういうとこ可愛いよなぁコイツ

ソファーの前に置いてあるローテーブルにスイーツを並べ、スプーンを取り出す

エースはイタズラをする子供のように企んだ笑みを浮かべ、モンブランの蓋を開けて掬う

「ほら、あーん」

「あーん…」

「うまい?」

「うん、おいしい」

監督生はへにゃんと笑って、また口を開ける

雛鳥のように素直に甘えてくる姿が愛おしい。泣いているより、笑っている方が可愛い

もう一口、もう一口とモンブランを可愛らしい小さな口へ運んでやる。

「ハハッ。毎日笑わせてやるって、言ったもんな」

「うん。」

「結婚、する?」

「…ほんと?」

涙が止まりかけていた監督生だが、また目の端からポロリと涙が零れる

「まーた泣く。はい、あーん」

「あ゛ーん゛」

「声汚ぇな」

エースは泣きながら嬉しそうに笑って、グチャグチャな顔をしている監督生の目尻にキスをする

「しょっぱ」

健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

定番の誓いの言葉は、オレらには似合わないなぁ。なんて、エースは1人笑う

「たまには喧嘩しても、オレから謝る。毎日、俺の隣で笑ってくれる?」

エースがスプーンをくるりと手の中で回すと、それは真っ赤な薔薇の花へと変わる。

花弁の中心には、赤いハートの形をした宝石のついた可愛らしいデザインの指輪があった

「エ゛ース゛!!う゛れ゛し゛い゛!!」

「おーおー元気なこった。幸せにしてやるからな」

エースはまたわんわん泣き始めた監督生を抱きしめて苦笑いした

「お前みたいな面倒臭いやつ、オレしか結婚出来ないっての」



☆☆☆
おまけバスケ部同窓会

フロイド「カニちゃんさー、小エビちゃんと番になったんだってぇ?おめでとー」

ジャミル「軽そうに見えて、中々やるじゃないか。おめでとう。式には呼べよ。御祝儀弾むぞ、カリムが。」

エース「一言余計っすよ、ジャミル先輩。まぁ、ありがとうございます。そういえば、フロイド先輩は彼女さんどうなりました?」

フロイド「それがさぁ、今喧嘩中ー。ねぇカニちゃんって喧嘩したときどう仲直りする?」

ジャミル「エースと監督生がケンカしたら、絶対にお前から謝るんだろ?」

エース「…なんで知ってるんすか」

ジャミル「本人から聞いた。たまに惚気の連絡が来て困るんだ。プロポーズの言葉もお前らしくてよかったんじゃないか?」

エース「は?アイツそんなことまで…」

フロイド「え、なにそれ面白そう!ウミヘビ君見せて見せて!」

ジャミル「ちょっと待ってろ、開いてやる」

エース「あ!ちょ!やめて!!絶対恥ずかしいやつ!!」



☆☆☆
この後、ジャミル&フロイドにスクショでナイトレイブンカレッジ同期全員に広められた。悶死した。

是非結婚式二次会はモストロラウンジでと怪しいメールが入った。いや、メアドもアカウントも教えたことなくね?

結婚式サプライズでヴィル様監修プロポーズ再現VTR流された。もう許して

監督生はゴースト相手だし本気でなかったとはいえ(作戦の為に必要だったとはいえ!)自分以外にしたプロポーズを生涯忘れず覚えてるし、ちょっと根に持ってる

そのうち小生意気だけど妹思いの長男と甘え上手であざとい長女に恵まれる。エース遺伝子濃いめ

子供の誕生日とか記念日の度にプロポーズの話をするし、子供たちもせがむ(エースは死ぬ)

なんなら孫にもその話する。


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