君は吾輩の猫である

イデアの自室にて、ハルトは部屋の主人を差し置いてベッドでゴロゴロと好き勝手していた

彼は猫の獣人であり、この部屋の主の恋人だ。

先程までスマホを弄っていたのだが、それに飽きたらしく、スマホをポイとベッド上に投げて大きく伸びをする

イデアはベッドのすぐ下の床にクッションを置いて座り、漫画を読んでいた

「なぁ、イデア。何読んでんの」

ハルトが声をかけるが、イデアは漫画に集中しているらしく、返事がない

ハルトはわかりやすく機嫌を損ね、三角耳が後ろへ倒れる

「なぁ、イデアー。恋人の俺が退屈してんのぉ。なぁなぁ、イデアー。イデアー。」

イデアは漫画から視線を上げることなく恋人の声が聞こえる方へ手を伸ばす

「ハルトがゲームするから構うなって言ったんでしょー?忘れたんですかぁ?」

手探りでハルトを探し当て、耳の付け根を撫でると、イデアの頭上からゴロゴロ喉を鳴らす声が降ってくる

「そんな昔のこと知らなぁい。ねぇ、イデア。何、その本。面白い?」

イデアが自分を見てくれない為か、漫画を上からひょいと奪い取り中身をパラパラと捲る。

本を盗られたイデアはよっこいせとハルトの方へ身体を向ける。

イデアはこの猫が猫らしいところを好ましく思っているので、別段腹を立てるでもなく本人のやりたいようにさせてやる

作業の邪魔をしてくるところすら愛おしい。猫ちゃんあるあるだ

「何これ…疲れたら犬になるから可愛がってやるってストーリーなの?ぶっ飛んでんね」

「いやいやハルト、この漫画は可愛らしい題材だけでなく、犬になった時の描写や登場人物の心情の移り変わりが事細かに」

「あー、はいはい。わかるわかる。」

ハルトは早口になったイデアに適当に相槌を打って漫画を読み始める

「…ハルトのそーゆーとこ、拙者嫌いじゃないよ」

「知ってるぅ」

若干蔑ろにされじとーっと恋人を見つめるイデアだが、ネコは目を細めて勝ち誇ったように笑う

「くぅ…可愛いねこたんめ…」

悔しがりつつも満更でもなさそうなのは、やはりこの恋人が猫であり、イデアが猫好きだからだろうか

この気まぐれ小悪魔は、イデアが自分を怒らないことを知った上で計算して振舞っている節もある

自分に甘くなんでも許容してくれることに優越感と幸福を覚えるのだ

「なぁ、イデア。俺、この漫画の犬やるから可愛がって」

ハルトは唐突に漫画を枕の上に置き、イデアにそう言った

イデアは目を丸くする

突拍子のないことを言い出すのはいつものことだが、なんで犬?

君、猫じゃん。僕のベッド占領してネコたんなうですけど。しかも犬になるつもりらしいけど、箱座りしてますよ?

進行形で箱座りだし、癖で手首丸めてるしにゃんにゃんのお手手じゃん…クソかわ

どこからどう見ても猫ちゃんですけど?拙者の飼い猫しか勝たん

「なぁ、早く可愛がれって」

そもそも「今日のログインミッションやってねー!終わるまで忙しいから話しかけないで」とか言い出したのがこの駄猫ちゃんだし

そのクセ、自分を構わずに漫画読んでることに怒るとか理不尽の極みなのに…

そう思いつつ、この猫が好き勝手に撫でさせてくれる機会は滅多にないので、このチャンスを棒に振りたくないイデアは一切の指摘を口にしなかった

とりあえず、可愛い恋人の耳の間に顔を沈める。

頬の両側にふさふさな耳が触れて幸福感に満たされる

そのまま頭を抱え込むように撫で回す

「よーしよしよし、可愛いでちゅねー」

イデアの猫撫で声に満更でもなさそうにしつつ

「もっと具体的にぃ」

とハルトは要求する

「はぁ、拙者の恋人ネコたん…甘えん坊でわがままで構ってちゃんでサイコー。チューしたくなる」

「してくれてもいいよぉ?」

ゴロゴロ喉を鳴らしつつ、ハルトはくるんと仰向けになる

悪戯っぽく細められた瞳に、イデアは口の端を持ち上げる

「怒らない?」

「さぁ?俺って気まぐれだからぁ」

イデアとハルトの鼻先が触れる

「ふふっ、擽ったい。なにそれ」

「猫式の挨拶。猫の獣人なのにご存知ない?」

「猫と猫の獣人は結構違うし。」

ハルトは手を伸ばし、イデアの髪を撫でる。

燃えているように揺らめくのに、不思議とその髪は熱くない

ちゅっと音を立てて、イデアの唇がハルトの額に、瞼に、鼻先にと口付けていく

彼の自前の青い唇が触れる度、ネコは身を軽く捩る

「ふふっ、ふふふ。イデアってなんで俺なんかが好きなの?俺が言うのもなんだけど、」

俺って自分勝手で、気まぐれで、悪い子なのに

「ハルト、そんなこと気にしてたの?」

「……。」

ハルトは窺うようにイデアの金色の瞳を見つめる。何もかも見透かしてしまいそうな透明な瞳

そのくせ、自分の本心は巧みに煙に巻いて隠してしまう自由な猫

「ふひひ、拙者の可愛いねこたん。我儘も気まぐれもぜーんぶ好きに決まってるでしょ。だって、」

君は拙者だけのねこたんなんだから。

イデアはハルトのお腹を撫で回す

「ふっふふ、理由になってねぇの。バッカみたい」

ケタケタ笑いながら、ハルトはくねくね身を捩ってイデアの手から逃れようとする

しかしイデアは逃がしてやらず、ハルトを翻弄して遊ぶ。

「ひゃはは!ちょっ、イデア!」

「んんー、ねこたん、ここかな?ここがいいでしょ?気持ちいい?」

「あっひひひっ!ちょ、もうっ!イデア、擽ったい!」

「よーしよしよしよしよし、いい子でちゅねー!!可愛いねこたん!」

「あー、もう終わり!ベタベタしないで。いくら恋人でも気安く触るの禁止ぃ」

ハルトは唐突にイデアの顎を押し上げて甘い雰囲気を吹き飛ばす

「んー、自分から言い出したくせに急にキレる…。圧倒的ねこたん…」

「なんで嬉しそうなの…。イデアってへーんなやつ。」

ハルトは目を細める。

「でも大好きだよ、ご主人様ぁ」

長い尾を振って身体を起こし、ハルトはイデアの頬に自分の頬を寄せる

「だから、今日も俺を可愛がってよね」




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