おまけ

☆とある少女が老婆になるまでの話



監督生が元の世界に帰ると、両親は既に他界していた。3年前に、事故だったそうだ。

「お姉ちゃん!本当にお姉ちゃんなの?!」

自分より歳上になってしまった妹が泣きながら言うには、私は20年もの間、行方不明だったのだとか。

とっくに死んだと思っていた姉が、いなくなった当時の姿で現れたというのに、妹は受け入れくれた

友達には会えなかった。20年前と変わらない姿でなんと言って再会するというのだ

元の世界に帰ってもなんの意味もなかった。…世界は相変わらず私に優しくない。

両親の墓参りをした。生きているうちに一目会いたかった。両親はずっと私を探してくれていたそうだ。

妹は喫茶店を経営していた。そこで住み込みで働かせてもらえることになった。

実家には妹夫婦が住んでいるそうだ。

妹は既に結婚し、子供もいた。

そのうち子育てに専念したいからと、妹は店を譲ってくれた。そこで1人暮らした。

かつての思い出を忘れないように、黒猫のぬいぐるみや海を模した飾り付けをしてみたり、テラリウムを置いてみたりした。

喫茶店に毎日訪れていた常連客の1人から告白をされた。もちろん断った

「私には、待っている人がいるんです。ごめんなさい」

月日の流れは早かった。何回か告白されたり、縁談の話を貰ったが全て断った

アズールはいつまで経っても迎えに来なかった。

そのうち縁談の話も来なくなった。

肌身離さず持っていたペンダントは、磨いても曇りが取れなくなってきた

妹にはいつも間にか孫が出来て、その孫はいつもおとぎ話を強請った

甘いミルクティーをいれてやり、何度も話した

忘れやしない、ツイステットワンダーランドで過ごした日々のこと。イタズラな親分や、親代わりの学園長、悪友で親友だった同級生達、癖が強くて頼りになる先輩たち、色んな種族の生徒達、魔法溢れる日常

そして、

「いつかこの世界まで、その人魚さんが迎えに来てくれるの。わたしは、ずっとそれを待っているの」

銀色の髪の、美しいタコの人魚の話

妹が、自分より先に老衰で亡くなった

すっかり自分もお婆ちゃんになってしまった

「アズール先輩、私、一目会えるだけでいいんです。」

鏡に触れて、呟く。こんなに年老いてしまった。人魚の寿命は長いと聞くが、彼は今、何歳なのだろうか。

どの道、自分とは釣り合わない。

けど待ってしまう。諦められない。

「アズール先輩…」

どうして世界は、いつも私に優しくないのだろう。



☆女の子とアズールが灯台に続く山道を登る話



なんで港町なのに山登りをしなければならないのだ。山登りはジェイドの役割だろうが

アズールは内心毒突きつつ女の子の背中を追う

稚魚のくせにひょいひょい山道を登って行ってしまう

これは後で監督生から聞いた話だが、灯台への道は中級者向けの長いハイキングコースと初心者向けのなだらかな短いコースに別れているのだとか

アズールが今登っているのは中級者向けのコースだ。

「お婆ちゃんね、わたしのお婆ちゃんのお姉ちゃんだったんだって」

女の子は優しい声で語られたおとぎ話をアズールに聞かせる。

「なのに夢の国へ行って帰ってきたら、妹になったんだって。変なのー」

「妹さんが、自分より歳上になっていた…」

アズールは額に滲む汗を拭いつつ呟く。

7つ違いの妹がいると聞いたことがあった気がする。少なくともツイステットワンダーランドとこの世界では7年以上の時差があるらしい

いや、待て。私のお婆ちゃんのお姉ちゃんってことは、この子は監督生の孫では無いのか!

アズールの表情がぱっと明るくなる。やっぱり彼女は僕を待ってくれている!!

「あずーるさん、青い髪のウツボさんはいないの?」

「そんなことまで知っているんですね。彼らは留守番ですよ。」

「会いたかったなー。すごくおっきくて強い人魚さんだって言ってたもん」

女の子は少し足を止めてアズールを見る。子供の真っ直ぐな瞳がアズールの青い目をじっと見つめる

「どうかされましたか?」

「お婆ちゃん、アズールさんと結婚するの?」

「そのつもりで迎えに来たのですが…何か問題でも?」

「…ううん。ママがね、お婆ちゃんはもうお年だから結婚できないって言ってたの。」

「結婚に歳は関係ありませんよ。そこに愛があればいいのです。」

「あいってなに?」

「とっても大切で、大好きで、その人のことをずっと考えてしまうことです」

アズールは小さなレディに分かるように教えてやる

レディはしばらく考え事をしてから

「お婆ちゃんはずっと、あずーるさんのお話してたよ!」

と笑った

「そうですか。」

とアズールは噛み締めるように言って、涙が浮かびそうになる目を瞬いた

きっと長い間、待たせてしまった。なのに待っていてくれている。あぁ、やっと、僕達は報われる

「ねぇ、火を噴く猫ちゃんはいる?耳としっぽの生えたお兄ちゃんは?わたしも会ってみたいな」

楽しそうな女の子の頭を撫で

「いつでも会えますよ。」

と笑う。もう世界は繋がったのだから

「さぁ、お嬢さん、案内して下さい」

僕のプリンセスのところまで。



☆HappyENDはお約束


可能性は考えていたのだ。間に合ってよかった。

迎えに行って、既に彼女が死んでしまっていたらそれこそ泡になってしまうところだった

一時的な若返り薬はいくらでもあるが、期限は持ってひと月ほどの上、希少性の高い材料が多く非常に高価だ

ヴィルに秘密裏に頼んでいた若返り薬は、その期限を最大限にまで伸ばし、老化をかなり遅らせることが出来る。

それこそ監督生が、人魚のアズールと共に生きていられる程に。

本来ならば学会で取り上げられ世界中から賞賛されるレベルの薬だが、ヴィルはそれを彼女の為だけに作ってくれた

本当に頭が上がらない

「わかってると思うけど、結婚式には必ず呼びなさいよ。ドレスのデザインもさせなさい。メイクもヘアアレンジもプロデュースするわよ。中途半端な花嫁姿なんか許さないわ」

「僕の意見も多少は取り入れてくださいよ。僕のお嫁さんなんですからね」

「あんたのセンスが良ければ取り入れてやるわよ」

ヴィルはバシッとアズールの背中を叩く

「さっさと、迎えに行きなさい。」

「ありがとう、ございます。」



結婚式場のスタッフは名門校の学園長を初め、王族や大商人やトップモデルや貴族等、客が訪れる度に度肝を抜かれていた。

芸能人の結婚式だとて、ここまでのメンツが揃うことなどまず無いだろう。

こんな国中探しても知らない人が居ないような有名人達を集められるなんて

「一体、誰の挙式なんだ」

思わず呟いたスタッフに、長身の男が背後から肩を組む

「そんなの…俺らの幼馴染とー、俺らの可愛い妹分の結婚式に決まってんじゃーん!」

「こらこらフロイド、驚かせてはいけませんよ。すみません、5年以上待たされたので、ついはしゃいでしまって」

受付をしていたフロイドとジェイドは心底嬉しそうにニコニコ笑う。

「ここに集まった奴ら、みーんな小エビちゃんのこと自分の妹か娘みたいに思ってるからさぁ」

「フフフ、アズールが監督生さんに何かしでかせば、ここにいる「保護者」達に大変な目に遭わされるでしょうね」

「へぇ、それは…とても可愛らしい花嫁さんなんでしょうね」

スタッフはこの有名人たちが大切にする花嫁に俄然興味が湧いた訳だが…

「気になる?でもねぇ、変な気起こすと全員に殺されるから気をつけてね」

とハートマークが付きそうな程優しく言われた物騒な言葉に必死に首を縦に振った。

「さぁ、そろそろ時間です。行きましょうか、フロイド」

「OKージェイドー!早く花嫁姿の小エビちゃん見たいねぇ」

ハッピーエンドはお約束。そしてまだまだ、2人の幸せはこれからも続く



☆☆☆
「監督生さんの稚魚さんから「叔父さん」と呼ばれるのはいつでしょうね。」

「気が早くね?」





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