監督生君、Subだってよ2

この世界にはダイナミクスはない。

本を読み漁ってもスマホで調べてもオルトにも尋ねても、検索に引っ掛からなかった。

DomもSubも居ないのだから、当然Glareも存在しないはずだ。

はずなのだ。

監督生は震える膝に手を付き、跪きそうになるのを何とか堪えていた

真っ青な顔には冷や汗が浮かび、意識を保つ為に無意識に噛み締めた唇から血が流れる

Glareとは、DomがSubに対し、躾やお仕置に使う威圧の様なものだ。

Domが不機嫌になったり怒ったりと、攻撃的な感情を持った時に放たれる事もある。

Subにとってそれは耐え難い罰だ。恐ろしく、すぐにでも服従したくなる。

「な、んで…」

この学園の生徒は元の世界であればDomと判別されそうなタイプが多いとは思っていたが、まさかGlareまで放てるとは思いもしなかった

どこかで喧嘩しているのか、怒号が響く。

頼むからGlareを引っ込めてくれ。このままじゃSub dropしてしまう

監督生は元の世界でもGlareを受けたことは殆ど無く、耐性が低い。

そもそも元の世界では、ところ構わずGlareを放ちSubを従わせることは法で禁止されているし、DomはGlareをコントロール出来るよう訓練を受けることが義務化されているのだ

信頼しているパートナーとのPray中のGlareでもSub dropを起こす危険性があるのに、赤の他人の全くコントロールされていないGlareを浴び続けるのは危険過ぎる

この場からすぐに離れないとと思いはすれど、立つことでやっとな足は指示を受け付けてくれない

助けを求めたくとも、運悪く1人で行動していた為、誰にも頼ることが出来ない

このままじゃ、耐えられない。怖い。謝らなきゃ。許しを貰わなきゃ。

Glareを当てられ続ける恐怖と不安でパニックになりかけた時

「小エビちゃん?どーしたの?」

と間延びした特徴的な声が後ろから聞こえた。監督生はなりふり構って居られず、その声の主にしがみつく

「え、急になんなの?」

「すみません、抱きしめて、頭を、撫でて、くれませんか」

「はぁ?」

命令される気分じゃねーし。なんで言うこと聞いてやんなきゃなんねぇの?言ってる意味わかんねーし。

フロイドは急にしがみついてきた監督生の要求に顔を顰め振り払おうとするが、監督生の顔面が蒼白なことに気がつくとため息をついた

振り払うことは簡単だ。監督生の手には大して力が入っていないし、体格の差だってある

しかしなんとなくだが、息も絶え絶えに縋り付いて来た彼を放っておいたら、このまま死ぬ気がした。例えるなら、稚魚をサメの前に置き去りにする様な感覚だ。

「…貸し、ひとつね。あとでちゃんと説明しろよ」

フロイドは言われるがまま監督生を抱き上げ、頭を撫でてやる。

口の端から血が流れていることに気が付き、べろりと長い舌で舐めるとビクリと肩が跳ねる

「…褒めて」

「あぁ?…あー、クソッ」

ぜぇぜぇと胸を抑えながら呼吸をする姿は陸に上げられた魚のようだ。なんの抵抗も出来ずに弱り果てる

涙で潤んだ瞳が力なく見上げてくる

「小エビちゃん、いい子。…そうそう、ちゃんと落ち着いて息して。大丈夫。」

「俺、悪い子じゃ、ない?」

「…小エビちゃんは何も悪くないよ。雑魚で馬鹿だけどかわいーよ。」

何だよ褒めてって。と思ったが、ガタガタ震えてフロイドの胸に埋まるように擦り寄ってくる小エビが憐れで、言われるがままに褒めてやる

ガシガシと大きな骨ばった手が乱暴に頭を揺らすように撫でると、監督生の過呼吸気味だった荒い呼吸が少しマシになる

「はぁ~~~。とりあえず連れて帰ろ。」

フロイドはガクガク震えている小エビを抱えたまま自分の寮へと向かい歩き始めた



「で、散々オレに抱けだの褒めろだの指示してよしよしさせてぇ、何がしたかったわけぇ?小エビちゃぁん」

ねっとりと話しかけつつ、自分より小柄な肩を抱くフロイドはいつになくご機嫌だ

フロイドが監督生を降ろしたのはオクタヴィネル寮のVIPルームだった。

カタカタ震える監督生をラッコのように抱えて連れてきたフロイドを見て、面白そうなことを嗅ぎ付けたアズールとジェイドも揃っている

Glareから解放され、フロイドに半ば無理やりCareをしてもらい落ち着いた監督生だったが、今は違う意味で落ち着きを失ってソワソワしている

「あー、その」

「まさかぁ、散々助けて貰っといて「言えません」なんてこと、ねぇよなぁ?」

「あー…」

人の弱味に付け込み、対価を要求するのはオクタヴィネルの常套句だ。

緊急事態だったとはいえ、頼る人物は選ぶべきだったのだ。自ら餌を与えるような真似をしてしまった。

監督生は頭を抱える。

ジェイドはニコニコ笑いながらティーセットをテーブルに並べていき、アズールがそのうちのひとつに口をつける

「フロイドに助けられたなら、恩を返すのが礼儀でしょう?事情くらい話して頂いてもよろしいのでは?」

「フロイドが通りかからなければ、もっと大変な事になっていたのですよね?監督生さん」

「そーそー、借りたら返す。稚魚ちゃんでもわかる常識でしょー?」

「うぅぅ。」

監督生はこの3人…特にフロイドにはダイナミクスについてあまり説明したくなかった

Dom、Subの体質について話すならPrayの話も当然聞き出される

そうしたらきっと…



「へぇ!ねぇ小エビちゃん、オレ、そのPrayってのやりたい!」

ほら、こうなった。



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