恋と呼ぶには苦い

はぁい!ボク監督生!突然異世界にぶち込まれて色々巻き込まれてきたけど、今ほど命の危機を感じたのは初めてです。

目の前の大男がボクを急に地面に叩き伏せて、ボクの顔スレスレに足を力一杯踏み下ろしたんですよ!

何事?!と思う間もなく、本当に一瞬の出来事。

まぁ、冷静に解説しているように見えるかもだけど、ぶっちゃけ何が起きたのか未だによくわかってない

下校中でのんびり歩いてたら、気付いたら視界が回って後頭部と背中に激痛が走った。思わず呼吸が止まって、のたうち回ることも出来ずに硬直することしばし

呆然と見上げたら不機嫌いっぱいなフロイド先輩がのっそりとマウントポジション取ってきたから、あ、フロイド先輩にやられたのかって初めて気がついた

流石に文句のひとつくらい言っても許されるだろうと思った瞬間には大きな足が顔面潰さんばかりの勢いで耳を掠めていったから、なんの言葉も出なくなった

思わず唾液をゴクリと飲み込んだけど、口の中が緊張で急速に乾いて上手く飲み込めなかった気がする

近くですごい破壊音がした左耳が少し痛くて聞こえにくい

多分だけど、地面抉れてるんじゃないかな…

オッドアイを細めたフロイド先輩はじっとこちらを見下ろすこと数分、何も言わずにただただ立っていた

こちらも何をされたのか、そしてこれから何をされるのか全くわからず、何も言えないままさらに数分の無言タイム

フロイド先輩はゆらーりゆらーりと身体を揺らして、自身の首の後ろに手をやる

「ねぇ、小エビちゃん」

妙な沈黙を破って、フロイド先輩の声が降ってくる。不機嫌そうで、だけどどこか甘い不思議な声色。

返事をしようとしたけど、プレッシャーでノドが物理的に締め付けられるように圧迫されて声が出ない

パクパクと酸欠の魚のように口を開くボクを見下ろして、フロイド先輩はゆっくりと顔を近付けるように屈む

「小エビちゃんみてるとさー、なんか腹の奥がイライラすんだよねぇ」

ボクの顔の上に跨る様にして、フロイド先輩はじーっとこちらを見下ろしている

顔が影になっているのに、目だけが獲物を捉えて離さないとでも言うようにギラギラ光っている

金色の目が太陽みたいだ。なんて、どこか現実逃避をしつつ他人事のように考える。

フロイド先輩の目が見開かれ、瞳孔が広がる。あ、マズイ

「なぁ、ボケっとしてんなよ。聞いてんのかよ…」

「っ、ひゃい…」

低くなった声色に慌てて何とか返事をしたが、出たのは掠れた情けない声だった。

先程とは反対に目が細められ、にんまりと効果音がつくくらいに口を横に裂けさせて笑う

鋭く並んだ牙が剥き出しになる。思わず背筋がゾクリと粟立つ

このウツボはよく捕食者の顔をする…人を害して組み敷くのを当たり前とする強者の顔だ

「小エビちゃん、俺と付き合って?」

「……へ?」

「俺の番にしてあげる」

フロイド先輩はニコニコ笑っている。その顔をじーっと眺める。冗談では無さそうだが、さっき見てるとイライラするとか言われてなかったけ?

フロイド先輩はボクの首にそっと大きな手のひらを置いた。

骨ばった長い指がゆっくりと首に回されていく

「なに?さっきから寝ぼけてんの?絞められたいわけ?」

「い、いえ…ただその、急だったから…」

「だから何。オレと付き合えねぇってことぉ?」

首に置かれた手に、今のところ力は込められていない。なのに、酸素が上手く吸えない。

プレッシャーと射殺さんばかりの鋭い眼差しが呼吸を止めさせる

首に置かれた手が冷たい。ゴールドとオリーブの瞳が覗き込んでくる

「なぁ、答えろよ。オレと付き合って?俺の番になりたいでしょ?小エビちゃん」

少しづつ、指が首にくい込んでくる。断ったら、このまま体重をかけて本格的に首を絞められるかもしれない

見下ろす目が細められていく。微笑むように優しく、しかし深海のように冷えきった眼差し。

答えなど分かりきっているのだからさっさと答えろと促すように、指がどんどん気道を圧迫していく

心臓が耳に入っているようにバクバクと脈打ってうるさい。頭が熱くて痛い。

抵抗したいのに、恐怖で指1本動かない。返事、返事しないと…

「…番に、なりたいです…お付き合い、して下さい」

「ほんとぉ!よかったぁ!」

フロイド先輩はぱぁっと花が綻ぶ様に無邪気に笑った。先程までのプレッシャーが嘘のように消える

首に置いていた手で襟を掴んで無理やり立たせて、ぎゅっと抱き締めてくる。背骨が軋む音しそうなくらいの力で締め上げられる。

受け入れてこれなら、拒否してたらどんな目に遭っていたのだろうと思うとゾッとした。

「よろしくねぇ、小エビちゃん」

フロイド先輩は幸せそうに笑って、抱きしめる力からは考えらないくらい優しくボクの髪を撫でた


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