昨晩はお楽しみでしたね

「やいカリム!よくも子分を虐めたな!」

廊下を移動中、背後からそう声をかけられ、カリムは不思議そうに振り返る。

一緒に並んで歩いていたジャミルは振り返らなかったが、面倒臭そうにすっと目を細めた

「待って…!違うからグリム!待って…」

グリムに置き去りにされた監督生が遠くの方から歩いて来る…と言うより、走ろうとしているのだが、身体が言うことを聞かないようで動きがぎこちない

「お前は良い奴だから何もしねぇと思ってたのに!案外ひでぇ奴なんだゾ!」

「急にどうしたんだ?」

事情がさっぱりわからないカリムは首を傾げつつ、グリムに視線を合わせて屈む。

「昨日お前んとこから帰ってきた子分が、身体中痛いって言ってるんだゾ!」

「………。」

「違うのグリム!ただの筋肉痛だよ!」

カリムはグリムを止めようと声を上げる監督生を見つめ

「あー…すまん、俺のせいだ」

と少し困ったように笑う。ジャミルははぁとため息を吐いた。バカ正直に言う必要などないのに

グリムはぷりぷり怒って、今にも火を吹きそうな様子でやっと追いついてきた子分を見上げる

「ほら!認めたんだゾ!こんな奴庇うことは無いんだゾ!!」

「ううう…確かにカリム先輩も原因だけど、虐められたんじゃないから…せめて誰もいないところへ」

移動してから話そうよ…と続けようとした監督生の言葉を遮り、カリムは大きな声で

「でもなグリム!誓って、俺は監督生の嫌がることは何一つしていない!それだけは信じてくれ!」

と胸を張る。監督生は金魚のように顔を赤くしてパクパクと口を開閉させる

確かに嫌がることはされてない。でもね!人目があるところで大声でそれを言われるとちょっと困るかなー?!

忘れるなかれ、ここは学園の廊下。当然、自分たち以外の他の生徒達だっているのだ

そして生徒たちは皆、年頃の男子達だ。

全身筋肉痛で人目を避けたがる監督生…カリムと行われたであろう全身運動…男子達の頭の中にはもうその行為しか浮かばない

そして、健全な男子たちは考える。あんな純新無垢で天真爛漫を体現したかのようなカリムが抱いたのかと。

抱かれる側ではなく、組み敷くほうだったのかと

そういえば監督生って中性的で可愛い顔してね?もうカリムと監督生は百合ップルと言えるのでは?等とどこかのイグニハイド寮生がボソッと呟く

周りにいる生徒達のざわめきにジャミルはもう一度ため息を吐いた

「あぁぁぁ!!カリム!!カリム!!お願いだからここで話さないで!!」

監督生!2人きりの時は呼び捨てのタメ口なんだな!出ちゃってるよ!と近くにいた生徒は他人事ながら頭を抱えたくなる

ジャミルは助けを求めるような監督生の視線に気が付き、ニッコリとグレーの瞳を細め微笑む

「あぁ、安心しろグリム。監督生の方からよがってオネダリしてたからな」

「ジャミル先輩ぃぃぃぃぃぃぃ?!?!?!」

援護射撃と見せかけて背後からヘッドショットを食らった監督生の顔が真っ赤に染まる。頭から湯気が立ちそうだ

1度ドッカンしてから吹っ切れているジャミルではあるが、その発言は流石に酷いのではなかろうか。

カリムにダメージは全く無く、監督生だけが被害を蒙っているのがなんとも可哀想だ

もうこれは確定的だ。皆まで言うな。

昨日、カリムと監督生はやっている。何をとは言わないが確実にやっている。

「じゃあ、身体中の小さい内出血はどう説明するんだ?!」

グリムは監督生を心配し気遣って怒っている。それは見れば分かる。だから監督生も強く出られないのだろう

しかし、その好意が今は監督生を追い詰めていく

身体中の小さな鬱血…キスマークじゃんそれ!!と少し離れた所にいた獣人が内心呟く。獣人は耳がとても良いのだ。

居合わせた獣人達の耳は皆、カリムの方へと向いている。興味津々だ

カリム君たら可愛い顔して独占欲が強い方なのね…なんて生暖かい視線があちこちから突き刺さる

そういえば監督生君も、いつもはネクタイを緩めにしているのに、今日はやたらきっちりと着込んでらっしゃいますね?

恥ずかしさのあまり今にも死んでしまいそうな酷い顔をしつつ、監督生は突き刺さる視線に何とか耐える

「やめっ…グリム、ホントに…」

「噛み跡だって沢山ついてたゾ!!」

「グリムー!!!」

監督生の顔から火が出るどころか、羞恥のあまり爆発してしまいそうだ。

「監督生にちゃんと許可は取ったぜ!俺は監督生の嫌がることや、痛いことを無理矢理したりしない。約束だからな!」

「カリムお願い黙って…」

グリムは監督生の為に怒っている。カリムはそれに真摯に向き合い対応しなければと思っているのだろう

思ってのことだろうが、グリムとカリムの2人の優しさがどこまでも監督生を追い詰めているのが滑稽でジャミルはクスクス笑い始める

監督生は真っ赤な顔でジャミルを睨み付けるが、目は潤んで全く迫力がない

「もっと噛んでくれってせがんでたのはお前だもんな、監督生」

そうにっこり追い打ちをかけられる。そもそも、何故ジャミルはそれを知っているのだろうか…

アジーム家の次期当主様のそういった行為には付き添いが必要なのだろうか…等と生徒たちは考え始める

実際、ジャミルは防音魔法を張ったり万が一に備えて(性行為中に暗殺が起こらないとは限らない為)部屋の隅にいた。

何が悲しくて他人の性行為等見守らなければならないのか。従者としての仕事と言われてしまえばそれまでだが…

ジャミルはほんの少しの腹癒せも兼ねてからかってやる

「うぅぅ…ジャミル先輩の意地悪」

しかし、監督生はついに恥ずかしさのあまり泣き出してしまった

グリムとカリムはギョッとして監督生を見る

「監督生、どうした?どこか痛むか?」

すぐにカリムが心配し、監督生に駆け寄り俯く顔を覗き込み、涙を拭う

「……監督生?」

「か、帰る…。」

監督生はボロボロ泣きながらよたよたと引き返し、カリムは監督生の腰を支えて連れ添う

「子分?」

「…やり過ぎたか…。」

不思議そうなグリムと、少しつまらなそうなジャミルがそれぞれ呟く

「監督生、どうした?」

「みんなにジロジロ見られて…恥ずかしい……カリム、しばらくエッチなしだからね」

監督生がなぜ真っ赤な顔で泣いているのか全く理解してなかったカリムは、大袈裟に驚く

「そりゃないぜ監督生!嫌だったか?下手だったか?次はちゃんと満足させてやるから、なしだなんて言うなよォ…」

「だから!そういうことを人前で話さないでぇ!!」

監督生はべそべそ泣きつつカリムの手を払おうとするが、よたよた歩く監督生が心配で仕方がないカリムに横抱きにされる

「腰、辛いだろ?とりあえず送ってくから、な?」

「話聞いてよぉ…」

監督生は両手で顔を覆って弱々しく呟く

抵抗を諦めた監督生は大人しくカリムに抱かれて廊下を移動する

前から歩いて来たレオナがニヤニヤ笑って、通りすがりざまに

「見せ付けてくれるなぁ。昨夜はお楽しみか?」

と呟く

カリムは少しキョトンとしてから

「おう!」

とにっこり笑う。監督生は思考を放棄してカリムの胸に顔を埋めた



☆☆☆
グリムはしばらく呆然としてから監督生を追い掛けていった

残されたジャミルはさて。と呟き、周りでソワソワしていた生徒達を見る

「わかっているとは思うが、監督生に対して変な気を起こすなよ。熱砂の国一の商家を敵に回したくなければな」

そう口だけで笑って釘を刺す。思わず足を止めて騒ぎを聞いてきた生徒達が足早に離れていく

「さっきのは牽制も兼ねてか?大変だなぁ、坊ちゃんのお守りは」

レオナがそう口元を歪めつつジャミルを見下ろす

「カリムはあぁ見えても商家の跡取り息子なので…欲しいものは必ず手に入れるし、本当に大切なものは決して手放さないのですよ」

どんな手を使っても。


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