向日葵の告白3

「大丈夫だった?小エビちゃん」

フロイドは人の少ない砂浜へと監督生を連れてきていた。買い物はいつでも出来る。監督生を落ち着かせてやるのが先だと考えたのだ

カップル用だろうか。海が見えるようにいくつか並んでいるうちの1つのベンチに腰かける。

潮風が前髪を揺らすのが心地よい

2人の手は繋がれたままだ。監督生の小さな手は先程の緊張のせいか、汗でじっとりと湿っている

しかし、フロイドはそれを不快とは思わなかった。縋るように繋がったままの手が、何だかとても愛おしい

「…ご迷惑かけて、すみませんでした」

監督生はフロイドの上着を頭から被ったままそう謝罪した。表情はよく見えないが、きっといつもの切羽詰まった顔をしてるんだろう

「なんで小エビちゃんが謝んの?小エビちゃん、被害者じゃん」

フロイドはまだ何か言いたそうな監督生の頭を上着越しにポンポン叩いて黙らせる

「次、謝ったら絞めるからね。」

「無茶苦茶です……。…ありがとうございます」

「んー。」

満更でもなさそうに微笑んで、フロイドはポケットからキャンディを取り出す

棒付きキャンディの袋を破って、監督生の口にズボッと入れる

「ん?!」

「ミントキャンディ。嫌いじゃないでしょ?」

「…なんでもお見通しですね」

「俺ね、小エビちゃんのことよーく見てるの」

だって、好きな子だから

フロイドは飴を舌で転がしながら、眩しいものを眺めるように優しく目を細める

「好き…」

飴と一緒に言われた言葉を口の中で転がす

監督生は頭に被ったままのフロイドの大きな上着を引き寄せ、赤い頬を隠す。耳が凄く熱い。フロイドに見つめられるところから火が出て燃えてしまいそうだ

「好きって、どういう好きですか?」

「んー?臆病な小エビちゃんが怖がらなくなるまでゆっくり慣れてから仲良くなって、」

2人きりでデートしちゃうような好きって言ったらわかる?

いつまでも顔を隠す上着を取っ払って、ベンチの背もたれにかける

「あはっ、茹でエビじゃん」

「恥ずかしいので見ないで下さい…」

「んー、やだ。」

監督生はパタパタと顔に風を送って少しでも熱を逃がそうと無駄な努力をしている

初めて見る表情が、フロイドの胸を甘く締め付ける

「で、茹でエビちゃんは、俺の「好き」の意味を聞いて、どうしたかったの?」

「…その、私も、」

「ん?」

「フロイド先輩のこと、」

監督生は何度か口を開くが、なかなか続きの言葉が出てこないようだ

フロイドは促す様に、小首を傾げて

「俺と番になりたい?」

と尋ねつつ、頭から湯気が出そうな監督生を覗き込む。

金とオリーブのオッドアイに見つめられ、監督生の潤む瞳が揺れる

「ねぇ、小エビちゃん」

「…そうです!フロイド先輩と、恋人になりたいです!」

半ばヤケだった。何もかも見透かすような瞳に耐えかねて、勢いでそう告白する

「あははははっ!いいよぉ、茹でエビちゃん、俺とお付き合いしよぉ」

フロイドはケラケラ笑ってズボンの左ポケットから小さな箱を取り出した

「小エビちゃん、これあげる」

「へ?」

薄紫のリボンを解き、シンプルな小箱を開ける。中身は向日葵の飾りがあしらわれたシルバーのリングだった

「陸では番に嵌めるんでしょ?」

ほら、手ぇ出して 。と監督生の小さな手を取り、指にはめる。いつの間にサイズを測ったのかピッタリだ

よりにもよって左手の薬指にリング嵌めてくるなんて、と監督生はドキドキ高鳴る心臓を押さえる

「今日が命日になりそうです…」

「あははは、そんなのダメに決まってんじゃん」

フロイドはケラケラ笑う。熱が上昇し過ぎて今にも倒れてしまいそうな監督生に、トドメとばかりに魔法で取り出したものを差しだす

「あと、これもあげる。」

「黒い、バラ?」

「小エビちゃんの為に、魔力込めて咲かせたの。受け取ってね」

「凄い…ありがとうございます」

向日葵のリングを嵌めた手で薔薇が受け取られる。フロイドは目を細めて、目の前の少女のおでこにちゅっとリップ音を立ててキスをする

「陸は面白いもん多いよね。海の中に花はねぇし。あ、黒バラの花言葉、聞きたい?」

「花言葉…」

「んー、黒いバラの花言葉は…」



☆☆☆
買い物を終え、監督生はアズールの待つ寮長室へと赴いていた

「スパイスに魔法薬の材料…ちゃんと揃ってますね。……食器類はどうしました?」

「フロイド先輩がキッチンの方へ片付けにいってくれてます」

「なるほど。領収書は?」

「はい、こちらに」

「随分と帰りが遅かったですね。フロイドとのデートは楽しめましたか?」

「…少しトラブル?もあったんですけど、楽しかったです」

「そうですか。ところで、可愛らしい指輪ですね」

「っ!!…その、フロイド先輩から、頂きました」

「はぁ、お熱いことで。よければデートの詳細をお聞かせ頂いても?紅茶でも淹れましょうか?」

「……勘弁して下さい」



☆☆☆
アズールは監督生が胸に大切そうに抱えていた黒い薔薇を思い出し、花言葉を口にする

「…永遠の愛、決して滅びることの無い愛。それともう一つ、」

貴方はあくまで私のもの。

アズールは喉の奥でクツクツと笑う。黒い薔薇は、愛を語るだけでは終わらない

別れる際に渡す黒い薔薇が意味するのは、憎しみと恨み

「反転の意味になることが無いよう祈っていますよ、監督生さん」

人魚の愛は、人間などあっさり溺れてしまうほど深いのだから





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