ウツボと小エビ

中庭を歩いていたら、小エビちゃんが他の生徒に絡まれてやんの。

小エビちゃんは学園長とか寮長とかと良く関わるから、媚び売ってるみたいに思えんだろうね

でも、実際観察してみたら体良く使われて巻き込まれてるだけだし、第一そんなに賢く立ち回れるだけの技量も無い。

素直で馬鹿で世間知らずな稚魚ちゃんだ

そんな稚魚ちゃんを複数人で取り囲んでさ、うっかり壊したらどう責任取るつもりなんだろ。

仮にも学園長や寮長達のお気に入りに見えるなら、壊すより取り入った方が得じゃん。アイツら馬鹿じゃん

つか、小エビちゃんは俺のお気に入りのおもちゃなのに横取りしようとするなんていい度胸じゃね?

「ねぇ?何してんのぉ?」

俺が後ろから声をかけると、小エビちゃんに絡んでた奴らは馬鹿みたいにビビって小魚みたいに逃げてった

つまんね。蹴散らして遊んでやろうと思ったのに

小エビちゃんは俺の顔を見て、ちょっと泣きそうな顔して、はぁとため息をついた

人の顔みてため息とか失礼じゃね?絞めよっかな

ちょっと距離を詰めて脅してやろうとしたんだけど

「フロイド先輩、生きてるだけの僕を全力で褒めて下さい」

とか意味わかんねぇこと言い出したから、絞めるタイミングを逃した

たまに小エビちゃんは訳の分からないことを言い出す

番でもねぇし、仲良しなお友達ってわけでもねぇ

なんでアズールでもジェイドでもなくオレに言うのかもよくわかんない

つか、怖くないわけ?1回オンボロ寮取り立てたし、魔法も使えないのに、もしオレが手を出したらどうするつもりなんだろうか

力もねぇし、足も遅いし、なんの対抗手段もないくせに、平和ボケしてる

ほっそい首に手をかけてみる。小エビちゃんは逃げるでも怯えるでもなく、無警戒に首を傾げるだけだ。

稚魚より警戒心が無い。

「…カニちゃんとかサバちゃんに言えば?アザラシちゃんもいるじゃん」

いつも一緒にいる奴らの名前をあげると、小エビちゃんは渋い顔をする

なんかブッサイクな顔。

「だって、一緒のことしてるのに、ボクだけ褒めてっていうの変じゃないですか」

視線を逸らして地面を見てる。小エビちゃんはただでさえちっちゃいのに、そのまま縮んで消えていっちゃいそう

「…でも褒められたいんでしょ?」

「…褒められたい、です」

「ふーん」

気分か気分じゃないかと言えば、小エビちゃんを可愛がる気分じゃないしちょっとめんどくせぇ

でも、今日の小エビちゃんを放っておいたら、なんかそのまま消えそう

さっきの奴ら、絞めときゃよかった。多分、なんか変なこと言われたんでしょ

見下ろす小エビちゃんはぼんやり俺を見てる。地面と見分けつかなくなるくらいちっちゃくなって、そのうち踏んじゃいそう。

縮まないように軽く捕まえて、腕の中に閉じ込める

ほっそ。骨折れそう

小エビちゃんは俺のシャツに顔を埋めたまま動かない。普通こっち見ない?

小エビちゃんの見慣れてるつむじ。何も入ってなさそうな、ちっちゃい頭

でも多分この頭の中は、ブロッドみたいにドプドプドス黒いもんが回ってる

吐き出せなくて、グルグルグルグル、深海で溺れるみたいになってる

小エビちゃんは水中で息が出来ないくせに、深く沈んでる。そんな感じ。

「小エビちゃんはいい子だね。」

そう出てきた声は、自分でも驚くほど穏やかだった。

気分じゃねーのに、なんか、優しくしてあげなきゃって思う

だってやっぱり俺はウツボだし、小エビちゃんは小エビちゃんだから。

「知らない世界で、1人頑張ってるんだもんね」

小エビちゃんの身体がビクリと揺れる

自分で言ったくせに、褒めてもらえるなんて微塵も思ってなかったんだ

本当に何も考えられなさそうな、ちっさい頭。今にも折れてしまいそうな小エビちゃん

「俺も海から陸に来たけどさ、訳わかんねぇ事ばっかで何回も海に帰りてぇって思った。」

小エビちゃんはさ、帰りてぇって思っても帰れないし、一緒に苦しんだり相談出来るやつも居ないんだよね

「小エビちゃん、超がんばってんじゃん。そんな頑張ってる子は、いっぱいギュッてして、よしよししてあげなきゃね」

「も、もう大丈夫です…」

小エビちゃんの声が震えてる

全然大丈夫じゃねーじゃん。ちょっと褒めただけでキャパオーバーしてるし、これって余っ程キてるじゃん

逃げようとする小エビちゃんを抱える。なんか必死に顔を隠してるし。

「別に誰も居ねぇし泣けば?オレ、このままモストロラウンジ行くから。なんか美味しいもん食わせてあげるね」

オレのシャツに顔を押し当てるようにしてやって、モストロラウンジへ向かう

直ぐに服が湿ってくる。ちょっと気持ち悪いけど、オレは優しいから我慢してあげる。あとで魔法で乾かせばいいし。

昨日ジェイドが山程キノコ取ってきたし、今日の賄いにされる前に全部小エビちゃんに食わせてやろ

あと、期間限定のメニュー用の余った食材も使って、デザートも作っちゃえ

小エビちゃんがひっくひっくと嗚咽を漏らし始める。マジで稚魚ちゃんじゃん。

海ん中だと涙は見えないし、陸に来てから涙ってもんを見たけど、結構嫌いじゃない

あくびの時とか勝手に涙が出てくるのは、メイクも落ちるし鬱陶しいけど

他人のはキラキラしてるし、まぁ綺麗だと思う。

「小エビちゃん。今度気が向いたら、涙が宝石になる薬作ってあげるね。そしたらオレにも涙、頂戴。小エビちゃんの涙でピアス作っちゃおか」

小エビちゃんにもお揃いで作ってあげる

小エビちゃんは聞こえてんのかよくわかんねぇけど、オレの胸に顔を埋めてめっちゃ泣きだした

うるせぇけど、わんわん素直に泣いてる小エビちゃんがちょっと可愛い気もする。顔は、まぁ、ブサイクな顔してるけど

存在が可愛いって言うの?どっちかと言えば、愛しいってやつ?

「小エビちゃんは可愛いね。一生懸命に生きてて可愛い。」

つむじにちゅーして、出来るだけ揺らさないように歩く

小エビちゃんはオレの服をギュッと握った



☆☆☆
「んで、褒めて食わしてギュッとしてたら寝た」

監督生を抱えたフロイドは機嫌よく歌っている

恐らくフロイドが振舞って監督生が食べたのであろう空になった皿を片付けながら、ジェイドは笑う

「随分と懐かれてますね。安心しきっているようです」

すやすや眠る監督生の瞼は赤く腫れている。何か冷やすもの…濡れタオルでも渡してやろう。随分と泣いていたようだ

「ジェイド。小エビちゃんね、いっぱい褒めて欲しいんだって。可愛いねぇ」

「おや、ではまた目を覚ましたらボクも褒めて差し上げましょうか」

「んー、ジェイドはダメ。小エビちゃんをよしよしするのは俺の役目だから」

フロイドは監督生のつむじにキスを落とす

「ホントに可愛いねぇ、小エビちゃん」








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