魔法の料理(リメイク)

アテンション
魔法の料理をもうちょっと書きたいこと足したバージョン。
話の中身は変わりません


フロイドはくわっと大きく欠伸をした。

「やっと、午前の授業終わった。腹減ったー」

今日はちゃんと授業に出ろ!お前がサボるとオクタヴィネル寮全体の評価に繋がる!と朝っぱらからアズールにがなられ、全く乗り気でなかったが授業に参加したのだ

参加はしたが、真面目に受けていたとは言い難い。殆どは寝ているかノートに落書きをしてやり過ごしていた

それでも参加しただけ、サボるよりかはマシじゃないかと誰に言うでもなく言い訳をして、空腹を満たす為に他の小魚達に紛れて食堂に向かう

「はぁ?!お前そんだけしか食わねぇの?俺ら育ち盛りだぞ!!」

「監督生、体調が悪いのか?」

「こいつ、昨日もその前もほとんど食ってねぇんだぞ!」

他の生徒より背の高いフロイドは、群れの中でも頭1つ飛び抜けているので周りが良く見える

賑やかしい声を拾い、目をそちらにやると、何かと愉快な厄介事を持ち込む一年達が騒いでいた

その中にお気に入りの生徒…イレギュラーづくめの監督生の姿をみつけ、フロイドは無意識に顔を綻ばせる

監督生はエースとデュースとグリムに詰め寄られつつ

「お腹、空かないんだよね」

と笑っていた。皿には、小さなパンが1つあるだけだ

ただでさえ小さい身体をしているというのに(フロイドから見れば大抵の生徒は小さい部類に入る)あんな手のひらに収まる大きさのパン1つで空腹が満たされるはずがない

それも気になったが…

「小エビちゃん?」

フロイドは監督生の笑顔に違和感を覚え、足を向ける

他の生徒の間を縫って大股で近付き、エースとデュースの2人に挟まれている監督生の前に立つ。

グリムはフロイドに気が付くと、監督生の肩から飛び降りてエースの足元へと逃げていった

監督生は急に飛び降りたグリムに驚き、その次に背後にぬっと現れたフロイドに気が付いて驚いた

フロイドは小柄な生徒を前傾姿勢でじっと真上から見下ろす

監督生を見つけた時の笑みは既になく、表情が抜け落ちたかのような全くの無表情だ

「フロイド、先輩?」

監督生は引き攣った笑みを浮かべる。この気紛れな先輩の意図が全く読めないし、純粋に恐怖を覚える

いつも近付いてくる時はニコニコしていることが多いし、好き勝手にハグして好き勝手に話してあっという間に嵐のように過ぎ去ってしまう

なのに、今のフロイドは早朝の海の様に静かだ

エースとデュースも、フロイドが何をしたいのかが読めないため、助けに入るべきか監督生の手を引いて逃げるべきか悩んでいた

妙な緊張感が漂う中、フロイドは監督生の笑みを見下ろしたまま

「小エビちゃん、気持ち悪い」

と無表情で言い放った。監督生の何かが気に触ったようで、見下ろす目は冷たい

監督生は怯えて、無意識に1歩下がる

額には冷や汗が浮かび、今にもガタガタと震えだしてしまいそうだ

フロイドが離れた1歩分の距離を詰めると、肩がビクリと跳ねる

その姿が初めて出会った時の様で、本当に小エビにソックリだ

小さくて無力で、誰かに守られないと生きていけない小エビちゃん

エースとデュースが庇うように少し前に出て、監督生を隠す。グリムも監督生の肩に飛び乗って小さく威嚇する

フロイドは多少イラッとしたが、監督生の怯える瞳を見て目を細める

監督生はその目に全てを見透かされるような気分になって、逸らしたいのに逸らすことが出来ない

自分の弱い所を真っ直ぐに突き刺してくる様な視線が怖い

「……あはっ!」

フロイドは急に笑顔になった。前に出たエースとデュースなど見えていないように、監督生をじっと見つめてニコニコと笑う

「小エビちゃん、放課後、モストロラウンジにおいで。」

絶対来てね。とフロイドは監督生の空いている方の肩に手を置く。監督生の、身体がまたビクリと跳ねる

「カニちゃんとサバちゃんとアザラシちゃんはお留守番しててね。小エビちゃん…ちゃんと来いよ?」

圧を感じる笑顔を近付けて、フロイドは念を押すようにそう言った



放課後、モストロラウンジに監督生は約束通りに一人で訪れた

エースもデュースもグリムも何度か引き止めたり一緒に行ってやると言ってくれた

しかし、フロイドの機嫌を損ねると後が怖いので結局一人で来たのだ

何をされるのかさっぱり予想がつかなかったので、足取りは囚人のように重かったが

入り口から中を覗き込む。フロイドの姿どころか、人っ子一人いやしない。

「おや、監督生さん。こんな所でどうされました?」

後ろから声をかけられ、監督生は小エビのように跳ねる。3センチくらいは地面から浮いたかもしれない

気配もなく近付いてから声をかけるなんて、性格の悪い人だ

監督生はおそらくわざとそうやって声をかけてきたであろう人物を振り返り、見上げる

「こんにちは、ジェイド先輩。その、フロイド先輩に呼ばれたんですけど」

ジェイドはニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて、モストロラウンジの入口の扉を大きく開き監督生を迎え入れる

「あぁ、フロイドなら張り切ってキッチンに立っていますよ。随分機嫌がいいと思ったら、」

あなたのためだったのですね。とクスクス口元を隠して笑い、監督生を席に案内する

「今日は他のお客さんはいないんですか?」

「新メニュー開発の為にアズールが休みにしたんですよ」

ジェイドは大人しく腰掛けた監督生と雑談しつつ、なんの警戒心も疑いもなく1人でこんな所に訪れるなんて呑気な人だとわりと失礼なことを考えていた

以前、オンボロ寮を奪われかけたことを忘れたのだろうか。また騙されたり、酷い目に遭わされるとは考えないのだろうか。

妙な人間だ。全くもって理解出来ない。そんな監督生だからこそ、フロイドは気に入っているのだろか。

フロイドは朝の時点ではメニュー開発に乗り気ではなかったが、今は鼻歌を歌いながら料理を作っている

そろそろ呼んでこようかとジェイドが考え始めた時、話し声を聞きつけたのかキッチンからひょっとりとフロイドが顔を覗かせる

「あー、小エビちゃん、待ってたよー」

機嫌良さそうにフライ返しを片手に奥から現れ

「もう少し待ってね、今できるから。出来たて食べさしてあげる。」

とニコニコ笑う。監督生はまさか自分の為に料理を作っていたとは思わず慌てて立ち上がる

「待って下さい!お腹は空いてなくって…」

フロイドは話しを聞かずに、すぐにまたキッチンに戻ってしまった

監督生は困った様にちょこんと椅子に座る

「試作品なので、お代はいりませんよ?」

ジェイドは監督生が対価を気にしているのかと思い、そう声をかけた。監督生はゆるゆると首を横に振る

「フロイド先輩、何がしたいんでしょうか」

「さぁ?それは僕にもわかりかねます。飲み物でもお持ちしますね」

ジェイドはごゆっくりと言い残し、監督生から離れていく

残された監督生は居心地が悪そうに椅子に収まっている。

お腹は空いていないのだ。ここ最近、ずっと。

何を食べても粘土でも食べているかのようで、食事をしているという実感がなくて、美味しくない。

だから食べること自体が億劫になってしまった。ほとんど食べなくても、不思議とお腹は空かなかった。

キッチンの奥からいい匂いが漂ってくるが、それでも空腹を感じることは無い

監督生ははぁと小さくため息を吐く

食べたくないのだ。何も。

そんな監督生の気持ちなどお構い無しに

「お待たせー小エビちゃん!」

とフロイドはニコニコ笑ってキッチンから踊るように駆けてきた。監督生の前にごとりと皿を置く

「海鮮リゾット、召し上がれー」

フロイドは大きめのスプーンを監督生に手渡す。早く食べろと言うように

「その、フロイド先輩」

監督生は困った様にフロイドを見上げ、料理に手を付けようとしなかった

「どうしたの、小エビちゃん。」

「お腹、空いてないんです。」

無表情とまではいかないが、フロイドの笑顔はあっという間に引っ込む

気まずそうな監督生をじっと見下ろし、思案すること数秒

「よっと。」

何を思ったのか、フロイドは監督生の隣にどかりと腰を下ろした。

そして、驚く監督生が逃げる間もなく力一杯抱き寄せる

「フロイド先輩?」

抱き寄せた右手を監督生の口の中に突っ込んで無理やり開かせ、左手でスプーンを手に取る

監督生はフロイドを見上げる。フロイドの金色の目はいつになく真剣だ

「やめて、フロイド先輩、やめて!」

「食べて、小エビちゃん」

「イヤだ!やめて!やめて!!!イヤだ!!!」

監督生は、駄々をこねる子供のように暴れようとし、叫ぶように拒否をする

しかしフロイドとの力の差は歴然で、ビクともしない。

監督生がイヤイヤと首を振るが、怒るでもなく

「小エビちゃん。お願い、食べて。」

と穏やかに声をかける

「フロイド、一体何を…」

飲み物を持ってきたジェイドは片割れが無理やり食事させようとしているの止めようとした

しかし、フロイドの表情を見て迷う

フロイドは怒ってもなかったし、笑ってもなかった。ただ真面目な顔をして、なんなら少し優しい表情をしていた

リゾットが掬われたスプーンが口に入ると、監督生はピタリと抵抗をやめた

「味がある…美味しい…」

ポロポロと涙を流し、咀嚼し、飲み込む。

上手く言葉にならないが、監督生にとってリゾットの味がどこか懐かしく、どこか恋しいものだった

何を食べても味が無く不快だったのに、急に味覚が戻ってきたようだった

先程まで感じなかった空腹が一気に襲ってくる

フロイドはポロポロ泣き出した監督生の頭を軽く撫で

「はい。どーぞ」

とスプーンを渡す。

監督生はかき込むようにリゾットを食べ始めた

口から溢れんばかりに詰め込んで、飲み込むのも焦れったいとばかり勢いよくスプーンを動かす

ジェイドと騒ぎを聞きつけてやってきたアズールは呆気に取られる

泣きながらご飯にがっつく監督生と、それを穏やかに笑ってみているフロイドをみて

「一体、なんなんです?」

とアズールが呟き

「わかりません…」

とジェイドは答えた。



「明日も作ってあげるから、ちゃんとおいでね、小エビちゃん」

フロイドがヘラヘラ笑ってヒラリと手を振る。監督生は何度もアタマを下げて帰っていった

「それで、なんだったんですか?」

アズールがそう問うと、フロイドは

「小エビちゃんね、しばらく何も食べてなかったんだって」

と笑った

「小エビちゃん、本当はすごいお腹すいてたのに、食べれなかったみたい」

「…どうしてですか?」

ジェイドが不思議そうに首を傾げる

「上手く言えないけど、手料理が食べたかったんじゃない?」

フロイドはなんとなく感覚的に監督生の望んでいるものがわかっただけで、それを言葉にするのは難しいらしい

「手料理?」

「手料理ってさ、ある程度愛情がなきゃ作って貰えないじゃん?」

「それが今回のとなんの関係が…」

アズールが困惑して尋ねるが、フロイドは無表情になる。考えるのが面倒くさくなったのだ

あと、この感覚はベラベラ他人に喋りたいとも思わなかった。それがアズールやジェイドだとしても。

「よくわかんねぇけど、俺が食べさしてあげなきゃ小エビちゃんが死んじゃう気がしたの」

そんだけ。とフロイドはキッチンに戻ってしまった

ジェイドとアズールはしばらく顔を見合わせていたが、フロイドの気まぐれはいつもの事なので聞き出すのを諦めてそれぞれ戻っていった



☆☆☆
フロイドの気まぐれな餌付けは1週間ほど続いた

「小エビちゃん、もう味、するようになった?」

フロイドはパクパクと料理を頬張る監督生の前に座り、肘をつきながら穏やかにそう尋ねる

監督生は少し寂しそうに

「はい。」

と笑った。フロイドの料理以外を食べても、きちんと味がわかるようになっていた。フロイドの料理以外もちゃんと食べられる

「なら、もう俺のご飯はいらないね。」

目の前の人魚はへにゃんと笑う。

監督生の笑顔の妙な違和感もすっかり消えて、元気そうだ。と少し安堵して。

「…そうですね。ありがとうございました。でも、フロイド先輩のご飯が食べられなくなるのは残念です」

「また必要になったら作ったげる」

「ありがとうございます。」

「だから、ちゃんと教えてね。」

監督生は眉を下げて笑う。フロイドは監督生の頭をくしゃりと撫でて、額に口付けた



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