look at me

「ボク、ユニーク魔法で誰の姿にもなれるんです」

美少女ともとれる程、可愛らしい小柄な生徒は笑った

「その人の姿、声、体重、匂い、その気になればユニーク魔法でさえコピーできるんですよ」

性格までは流石にコピー出来ないけど、それ以外なら全部コピー出来ます

「あなたの好きな人になれます。言われたい言葉を囁けます。あなたの望む様になります。だから、ボクと付き合って下さい」

その子は胸の前で手を組んで笑って、そう告白をしてきた

トレイは後頭部を掻いて、困ったように眉を寄せる

「悪いが、今のお前とは付き合えないな」

「どうしてですか?」

大きな目が零れてしまいそうな程に自分を見上げるその子を、トレイはじっと見つめる

目の前の美少年は、怯えるように1歩下がった

「ひとつ聞くが、それはお前の本当の姿か?」

「っ!」

トレイがそう問うと美少年は顔色を変え、踵を返して走り去ってしまった

残された男は困ったように笑って

「名前すら教えてくれないんだな…」

と呟いた



「さっきの子って、ポムフィオーレの子でしょ?エペルくんだっけ。なんの用だったの?」

先程可愛い生徒に呼び出されたトレイが寮に戻ってきたのを見つけ、ケイトが声をかける

入学式の時からマジカメ映えしそうな可愛い生徒だと注目していたので、エペルのことは印象に残っていた

トレイもその際にケイトと些細な賭け事をしていたので、エペルという生徒のことを覚えていた。

先程告白してきた生徒の言っていたことが本当なら、エペルの姿を借りてから自分のことを呼び出したのだろう

余程自分に自信がないのか…それとも別の理由なのか

一説によると、ユニーク魔法は自己の発現であると言われている

他人のほとんどをコピー出来るが、性格だけは真似出来ないユニーク魔法…

トレイは少し考えてから

「…エペルじゃなくて、エペルの真似をした誰かに告白されたんだよ」

と困ったように眉を寄せる

「え?どゆこと?わかるように説明してよ」

「うーん…まぁ、またな」

曖昧に笑ってそれ以上トレイは答えなかった



告白されてから1週間後

「トレイ君、一緒にランチ食べよー」

「あぁ、いいぞ」

後ろから合流してきたケイトと共に食堂へ向かう

ケイトはいつものようにマジカメを確認しながらトレイの横を歩いている

トレイはそんなケイトを器用だなぁと呆れ半分で眺めていたが、急にあ。と声を漏らす

「そうだケイト、ランチの前に少しだけ寄りたい所があるんだが…ちょっと付き合ってもらってもいいか?」

「えー??どこ行くの?」

「教室に忘れものをしたんだよ」

若干面倒臭そうなケイトを宥めつつ、トレイは来た道を戻っていく

トレイが教室に入り、ケイトもそれに続く

「忘れ物あった?早くランチ行こうよー」

「お前、前に告白してきた奴だろう」

トレイはケイトの腕を掴んで、逃げられないようにしてから笑った

ケイトはふにゃりと曖昧に笑う

「何その冗談…意味不明で笑えないんですけど」

「そうか。なら」

トレイはマジカルペンをポケットから取り出す

「俺のユニーク魔法は「上書き」が出来るんだ。お前のユニーク魔法に上書きして解除させることも出来る」

「…!」

目の前のケイトは焦ったような表情になる

「やっぱりな。お前、嘘をつけないタイプだろ」

トレイは慌てて手を振りほどこうとしている人物の額に、マジカルペンをコツンと当てる

「ドゥードゥル・スート」

「あ、トレイ先輩、見ないで…!!」

綿菓子の上から水をかけたかのように、キラキラと輝きながら魔法が溶け落ちていく

「やだ…ボク…」

トレイは、力なくへたり込んでいく生徒の腕を離してやる

その子は両手で顔を覆って俯いた。顔を隠して、小さく丸まってしまった姿は迷子の少女のようだ

トレイは小柄な生徒が落ち着くまでただ待っていた。教室の外の喧騒がどこか遠くに聞こえる

「なんで…」

泣きそうな震える声が

「なんでわかったんですか」

と尋ねた。顔はまだ両手に覆われたままだ

「なんとなく、な。」

トレイは少し意地悪く笑った

今朝、ケイトはマジカメで流行っていると新しく買った香水を付けていた

しかし、先程隣を歩いていた男からはその香りが全くしなかったからカマをかけてみたのだ

「いいこと教えてやろうか」

トレイは顔を隠したままの生徒の髪を撫でる

「お前が俺のどこを好きになったかは知らないが、俺は案外冷たい男でな」

トレイはメガネ越しの目を細めて、目線を合わせるように屈む

「愛情かければ料理が美味しくなるとは思わんし、必要でない面倒なことは極力避ける。」

あと、興味のない奴に構ってやる程優しくないんだ。

「意味、分かるか?」

顔を覆ったままの手を掴んで下に降ろさせる。

「なんだ。隠すからどんなもんかと思ったが…可愛い顔してるじゃないか。」

トレイがそう優しい声で言うと、目の前の少年の顔がぶわっと赤くなる

「で、でも、ボク」

「それで、お前はその姿では俺に告白してくれないのか?ハルト」

なにか言おうとしたのを遮って、トレイは片方の眉を吊り上げ笑う

「な、なんでボクの名前…」

「ん?まぁ、ちょっとな」

トレイは濁して口にしなかったが、実は言うと寮生達に尋ねて回ったのだ

特徴的なユニーク魔法のお陰で、ハルトに辿り着くのは早かった

普段から他人の望むまま芸能人の姿になったりユニーク魔法を披露していたようだ

「それで「今のお前」から、俺に言いたいことはないのか?」

トレイは目を逸らせないよう、大きな手で顎を持ち上げてやる

ハルトの潤んだ瞳が揺れる。ハルトは何度か口を開いては躊躇い言い淀む

「ハルト、いま、俺はお前を見てるんだぞ」

トレイはそう優しい声で促す

ハルトはギュッと目を瞑って、トレイの服の端を掴んだ

「…ボク…かっこよくも可愛くも無くて…勉強もダメで、得意なことなんて何もなくって」

取り柄が何も無いんです。でも、何も無いボクだけど

「トレイ先輩のことが好きなんです!ボクのこと、好きになって下さい!」

トレイは、今にも世界が終わってしまうとでも言いそうなハルトの顔を見て思わず吹き出す

必死に告白してくれたところ申し訳ないのだが、仮にフられたとしても死ぬわけでは無いのに、あまりに酷い表情をしている

トレイは顔を持ち上げていた手で襟を掴み、思い切り自分の方へ引いた

バランスを崩したハルトを受けとめ、背中に手を回す

「…ホントのボクを、好きになって下さい…。」

戸惑うようにトレイの背中に手がゆっくりと回される

ハルトの声は震えている

トレイは破顔して

「最初からそう言えばいいんだよ」

と背中をポンポンとあやす様に叩いた



☆☆☆
「で、付き合うことになったハルトだ」

トレイがそう紹介すると、ハルトはトレイの背中から少しだけ顔を覗かせてぺこりと頭を下げる

ケイトはぱぁと表情を明るくしてハルトに詰め寄る

ハルトは慌ててトレイの背中に隠れ、トレイはそんな様子を見て苦笑いした

「へぇ!誰の姿でもなれるの?流行りのネージュ君の姿とかでもなれる?」

ケイトが質問すると

「はい、なれます。でも」

とハルトはトレイを見上げる

「ハルトはユニーク魔法禁止なんだ。悪いな」

「えー?なんで?」

「なんでも。」

トレイはケイトからじりじりと距離をとるように隣に来たハルトの頭を撫でる

他人の姿を借りて、他人の能力もコピー出来る

しかし、この子が真に望んでいることはきっととてもシンプルだ

トレイに撫でられると、ハルトは幸せそうに目を細めた



☆☆☆
ボクに気付いて、ボクを見て
ボクを好きになって、ボクを愛して
あの子じゃなくて、ボクを





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