戯れ

「おやおや、これは面白いものを見つけてしまいました」

ジェイドは木の陰に身を潜めつつ、クスクスと笑う。これはなかなか良いものを見つけた

学園内の森の中。人気のない場所で、それは行われていた

優等生、いい子ちゃん、真面目君等と呼ばれている成績優秀で品行方正の揃った生徒…ハルトが複数の生徒と殴り合いをしていた

殴り合いとは少し語弊があるか。ほぼ一方的に殴り蹴り、相手を地面に押さえつける

マジカルペンを奪い取って遠くへぶん投げステロゴを組む様子は、普段の大人しく微笑む姿からは想像出来ないほどずっと活き活きとして楽しそうだ

人数差をものともせず軽いフットワークで相手の拳を躱して、重い蹴りを放つ

全員が地面に倒れ痛みに呻くだけとなるまで、そう時間はかからなかった

「はぁー、スッキリしたァ。真面目にやってると、こうやって絡んでくる不良っぽいバカ多いよなぁ。まぁ、ボコれていいけど」

ハルトは下品にゲラゲラ笑い、地面に伏せた生徒の上にどかりと座る

ジェイドは木陰からゆっくりと出て行く

「お見事ですね」

「……。」

ハルトはすっと無表情になった。まさか、見られていたとは。よりにもよって、オクタヴィネルの副寮長とは運が悪い

こいつは確か寮長と組んで、人の弱みを握って理不尽な契約を結ばさせるとか…悪い噂や胡散臭い噂の絶えない人物だ

一生懸命真面目ぶってやって来たのに、本性を…秘密を見られた。しかしまだ、やりようはある。

「テラリウムに使う植物の採取をしていたのですが、面白いものが撮れてしまいました」

ジェイドはスマホをチラつかせる。ハルトはニヤリと笑い

「…撮ってないだろ」

と言いつつ、立ち上がった

「おや、バレてしまいましたか」

ジェイドはあっさりそう言って、ニッコリ笑う。

性格の悪いジェイドの事だ、撮影していたのならその映像を見せつけてくると思ったのだ

「…で、どうする?誰かに言っても、優等生の俺がそんな事するわけないって、誰も信じないと思うぜ?」

マジカルペンをくるりと右手で回しつつ、ハルトはニヤニヤ笑い続けている

「当の本人たちは、互いに殴りあったと思い込むだろうしなぁ」

軽い錯乱魔法を使いながら、ハルトはジェイドに近づく

「先程の動画は撮っていませんが、今の発言は録音しています」

ジェイドはしれっと言った

またハルトの表情が消える

ハルトはつかつかと歩み寄り、ジェイドの胸ぐらを掴んだ

ジェイドは全く動じることなく、振りほどこうともしない

至近距離で目が合う

「『そんなに怖がらないで、力になりたいんです。『ショック・ザ・ハート』』…答えろよジェイド、ホントは録音もしてないんだろ?」

ハルトは黄金の瞳を覗き込んで問いかける

ジェイドは一瞬、目の前の男の瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えた

「ええ、そうです。録画も録音もハッタリです。」

唇が、勝手にそう零したように感じられた

ジェイドは思わず自らの口を塞いで目を見開く。いま、この男は何をした?

「ははっ、やっぱり。じゃーな。ジェイド」

ハルトは色っぽく笑って、投げキッスして立ち去る

ジェイドはしばらく口元を抑えていたが、そのうちクスクスと笑い出す

「あぁ、本当に面白いものを見つけた」



「こんにちはハルトさん」

「うげっ」

背後からぬっと現れた男に、ハルトは露骨に顔を顰める

「同じ選択授業でしたよね、ご一緒しても?」

そう尋ねつつ隣を陣取った男を見つめ、ハルトは口を横に裂いて意地悪く笑う

「お前は違う授業のはずだが?フロイド」

「……なんでわかったのぉ?」

フロイドは頭を掻き乱す様にして髪型を崩し、目にかけていた色変えの魔法を解く。ハルトはフロイドの足を指さして

「靴下がさっきと違ってたから」

と笑った。

「そんなとこ、よく見てんね」

「前髪数ミリ切ったとか、リップの色微妙に変えたとか、ネイルやったとか、そんな細かいとこに気が付く男がモテんだよ」

人好きのする笑みで小首を傾げ、耳に指を当てる

「あと、お前がジェイドの真似してる時、足音が違う。」

ポカンと口を開けたフロイドに、ハルトはべっと舌を出した

「俺の事を嗅ぎ回るのは勝手だが、何もボロは出さねぇよ」

フロイドはニッコリ笑ってハルトの首に腕を回す

「ジェイドが言った通り、面白い奴じゃん」

ハルトはニンマリ笑って、フロイドの腕から手品のようにするりと抜け出す

「俺ってば、お前らが思うよりよっぽど「悪い子」だから気をつけるこった」



「それで、何の用だ?」

ジェイドに呼び出され、ハルトは閉店後のモストロラウンジを訪れていた

フロイドとジェイドの2人に追い回されているのにも多少飽きてきたし、呼び出されついでに話し合いでもしてやめともらおうと思ったのだが

「正直に申し上げますと、あなたに一目惚れしてしまったようでして」

と告げられた内容にハルトは少し驚いた

ジェイドは口元を隠して笑う

「お付き合いしていただけませんか?」

「あー、想定外で頭回んないからちょっと待って…」

「はい」

ジェイドはニコニコして大人しくしている。本当に待っていてくれるらしい

「あのさ、俺の弱みを握りたくて追い回してたんじゃねーの?」

「それもありましたが、どうもあなた自身に興味があったようで…観察するうちに恋心を自覚してしまいました」

クスクスと笑う姿がまるで乙女のようで、ハルトは頭を抱える。顔はいいんだよこの人魚

「それで、お返事はいただけないんですか?」

「そーねぇ」

ハルトは少し考え、ニッと笑う

「俺が「悪いこと」する時、 一緒に遊んでくれたりお前のせいにさせてくれるならいいかもな」

ハルトは優等生を演じている。何か問題を起こした時は錯乱魔法で誤魔化して来たが、それにも限度がある

どうせジェイドに本性がバレてしまっているのなら、共犯者として遊んだ方が楽しそうだと思ったのだ

「ええ、構いませんよ」

ジェイドはニッコリ笑う。

「では、今日から僕と貴方は番ということで」

「あぁ、よろしく、ジェイド」

ハルトとジェイドはニコニコと笑い合う

「ところで、」

ジェイドはわざとらしく、少し首を傾げる

「僕と会う前に、ジャミルさんと会っていたようですね。」

一体、僕のことをどうするつもりだったのですか?

ジェイドが尋ねると、ハルトはニヤリと笑う

「さぁ?恋人に酷いことする訳にはいかないからなぁ」



☆☆☆
猫被りなハルト君のユニーク魔法解説

最後に触れた相手の魔法をコピー出来ちゃう(ユニーク魔法も含む)
他人の使える魔法やら詠唱やら使い方をよく観察しておかないと使いどころが難しいユニーク魔法

ジェイドの胸倉を掴んだ時にジェイドのユニーク魔法をコピーしました

ジェイドと会う前にジャミルに会ってきた(ユニーク魔法をコピーしてきた)ってことは、そういうことですよ



☆☆☆
「ジェイドはさー、アズールに頼んでフロイドのユニーク魔法借りてきてたみたいだけど、どうしたかったんだ?」

「おやおや、こちらもバレていましたか」

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