世話のやける…

あてんしょん
同族のよしみのタコちゃん出ます。



「おはようございます。こんな朝早くから、一体僕になんの御用ですか?」

そろそろ朝食でも摂ろうかという時に現れた人物に、アズールはそうニッコリ笑いかける

朝早い時間にも関わらず、身嗜みをきっちりと整えたリドルとトレイがオクタヴィネル寮まで訪ねてきたのだ

「こんな時間にすまんな」

「ボクも本来ならモーニングティーを飲まなければいけない時間なのだけれど、苦しんでいる寮生を放っておけなくてね」

リドルはトレイに抱えられた生徒を指す

「あれ、金魚ちゃんとウミガメ君じゃん!おはよー!」

アズールを朝食に呼びに来たフロイドは見知った人物を見つけて顔を綻ばせたが、すぐにトレイに抱えられている人物に気が付き眉を寄せる

「…タコちゃん、どうしたの?」

「それがだね…」

リドルは困った様に溜息を吐きつつ説明をはじめた

ハルトは時間やルールを厳守とまではいかずとも極力守るほうだ

しかし、今日はいつまで経っても起きて来ず、心配したルームメイトが声をかけた

すると、ハルトは布団の中で身体を丸め、脂汗を浮かべて苦しみながら

「脚が絡まって解けない…苦しい…痛い…」

と涙を浮かべて訴えたのだ

「しかし見ての通り、今は人間の姿をしているし当然絡まってもいない。対応の仕様がないだろう?」

ルームメイトは困り果てて寮長を呼んだが、リドルにもどうすることも出来ない

「ハルトはタコの人魚らしいし、同族のお前なら何とか出来るかと思って連れてきたんだ」

トレイがそう言うと、リドルは小声で

「本当はアズールにはあまり相談したくは無かったんだけど」

と付け足した

ハルトはトレイの腕の中でぐったりとし、うわ言のように

「脚が…脚が痛い…脚、絡まってる…苦しい…」

と繰り返している

「タコちゃん可哀想、アズールなんとかしてあげてよ」

ハルトの額に汗で張り付いた前髪をどけてやりながら、フロイドはアズールにそう声をかける

「はぁ…ハルトさんは大切な従業員の1人ですからね。お預かりします。」

「あぁ、任せたよ。ハルト、また迎えに来るよ」

アズールにハルトを預け、リドルとトレイの2人はオクタヴィネル寮を後にした



ハルトをゲストルームに寝かせ、変身を解く薬を飲ませる

人間の脚が解けるように八本の触腕へと変化していく

しかし、タコの姿に戻ったにも関わらずハルトは

「脚が絡まってる…痛い…」

と魘されるように繰り返している

「アズール、元の姿に戻ってますし、脚も絡まっていませんが…」

落ち着きませんね、とジェイドは心配そうにハルトを見下ろす

アズールははぁと溜息を吐いた

どうも、この泣き虫でか弱い同族を見ていると過去の自分が思い起こされて嫌なのだが

どうも放っておけないというか、助けてやらないと気が済まないというか…

アズールはハルトの触腕の1つへ触れる

「ハルトさん、僕が今どこを触っているか、分かりますか?」

アズールはゆっくりと、小さな子供に話す様に声をかける

「…脚の、付け根…」

ハルトは薄らと目を開けてそう答えた

「そうですね。では、僕の手に集中して下さい」

アズールはゆっくりと手を下へと滑らせていく

ゆっくり、ゆっくりと手を滑らせ、先端まで撫でるようにして

「ハルトさん、ほら、わかりますか?この脚は解けましたね。」

と言った

ハルトは目を閉じて小さく頷く

「では、この脚は絡まないようにジェイドに持っていて貰いましょう」

ジェイドは触腕を受け取ると繰り返し撫でてやる

「解けてよかったです。少し楽になりますね」

「次の脚は俺が解いてあげるね」

アズールのやり方を見ていたフロイドも、真似をするように先程とは違う触腕の付け根に優しく触れる

「タコちゃん、次はこの脚、解くからね」



「ほらハルトさん、全部解けましたよ」

アズールはそう穏やかに声をかけた

ハルトもその声につられるように少し穏やかな表情で

「脚、解けた…」

と言って、すぅすぅと寝息をたて始めた

「タコちゃん、寝ちゃったね」

フロイドは抱えていた脚を下ろし、ハルトの頬を指でつつく

「あれは何だったのですか?」

ジェイドも抱えていた脚を下ろし、不思議そうにアズールに尋ねる。

ハルトの脚は絡まってなどなかったが、本人はかなり苦しんでいた様子だった

アズールは少し考えて

「…人間には、幻肢痛というものがあるそうです。」

と言った

幻肢痛とは、何らかの理由で四肢を失ったにも関わらず、痛みや痺れ等を感じる症状が出る病気である

ハルトはタコから人間になる際、数だけで言うなら6本もの触腕を失っているような状態になる。

タコと人間への変身を繰り返すうちに脳が混乱してしまったのかもしれない

「ハッキリとした原因はわかりませんが、」

おそらく疲れやストレスがこういう形で出てしまったのでしょう。とアズールはハルトの触腕を撫でた

「本当に世話のやける…」

「この子って、アズールの稚魚の頃に似てるよねぇ」

フロイドはケタケタ笑う

ジェイドも口元に手をやって

「泣き虫なところもそうですが、案外頑張り過ぎてしまう所とか、ね?」

とアズールを見つつ笑った

「うるさいですね!ハルトさんが起きてしまいますよ。」

アズールはすやすや眠る同族を見下ろして、また大きく溜息を吐いて

「本当に世話の焼ける」

と呟いた




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