君の手はドルチェの香り

「いい匂いする」

「うおっ?!」

トレイは驚いた様子で、背後からひょっこり現れた人物を見下ろす

「なんだお前、また嗅ぎつけてきたのか?」

ハルトに気がつくと、トレイはニッコリ笑う

「今日は何を作ったんですか?」

「イチゴのタルトだ」

「へぇ!美味しそう!サムさんのところで買って帰ろー」

ハルトはニコニコ笑ってトレイを見上げる

「なになに?この子知り合い?」

隣を歩いていたケイトがトレイに尋ねると、トレイはハルトの頭を撫でながら苦笑いする

「サイエンス部の後輩のハルトだ。こいつは、甘い物が好きでな」

菓子を作った日は必ず気が付いて寄ってきて、何を作ったか聞きに来るんだ

頭を撫でられつつハルトはケイトを見上げて笑う

「おれ、トレイ先輩の匂いを好きなんです。バターの匂い、焦がした砂糖の匂い、果物の甘酸っぱい匂い、色んな美味しい匂いがする」

「あらら、食いしん坊ちゃんだねぇ」

「甘い物は確かに好きですけど、おれはトレイ先輩の手と匂いが好きなんです」

呆れた様子のケイトを気にした風もなく、ケラケラ笑う

「おれってば影響されやすいんで…トレイ先輩に何作ったか聞いて、それと一緒の買って食べるの楽しみなんです」

トレイはハルトの髪をくしゃくしゃと混ぜるようにしながら笑う

「そんな面倒なことしなくても、作ってやるのに」

「いや、ただでさえパーティの準備とかで忙しいのに、おれの分まで作ってもらうのは悪いですよ」

ハルトはトレイに好き勝手撫でられながら目を細めて幸せそうにしている。その様子はさながら猫のようだ

トレイもほぼ無意識に甘やかしてやっているようで、気まぐれに頬や顎の下にも手を持っていく

ケイトはそんなふたりを眺め、少し思案してから笑った。わざとらしくウインクをしてポーズを決めて

「「余り物」ならハルトちゃんも気にしないんじゃない?」

とトレイに言う

「あぁ、そうだな。パーティで余ったやつを持ってきてやるよ。」

それなら受け取ってくれるな?とトレイはイタズラっぽく笑い、顎の下に手をやって顔を持ち上げる

ハルトは少しキョトンとして、破顔した

「あはは、楽しみにしてます」



トレイは黙々とスイーツを作っていた

今日は何でもない日おめでとうのパーティの日だ。

美しく磨かれた食器に乗せられるストロベリーのタルトと、ブルーベリーのタルト

甘くないミートパイに、アップルパイ、スコーンも忘れてはいけない。

スコーンに合うジャムだって大量の果物を砂糖とともにじっくり煮込んで1からの手作りだ

次々と完成していくスイーツの香りにつられて、エースがキッチンに顔を覗かせる

「お疲れ様でーす、先輩!お、今日も美味しそうですね!」

ニッコリ人好きのする笑顔で現れた後輩に、トレイは苦笑する

「はは、試食はやってないぞ」

「ちぇっ、ざんねーん」

エースはわざとらしく肩をすくめていたが、何かに気が付きキッチンへ入ってくる

「ん?こっちのスイーツはなんですか?」

「あぁ、それは部活の後輩用なんだ」

「へぇー」

わざわざ避けて置いてある分を見つめ、エースは少し考えてから意地悪く顔を歪めてニヤリと笑う

「いいんですかぁ?トレイ先輩、パーティ用のお菓子を勝手にくすねちゃって」

「ははっ、バレなきゃいいだろ?それにこれは「余り物」なんだ」

トレイもニヤリと笑って抜け目ない後輩を見下ろす

「次のパーティの時にはチェリーパイも作ってやるよ」

「あざーっす」

エースはそれ以上聞かなかったが、トレイは少し苦笑いして頬をかく

「少し、多すぎるかもな」



中庭のベンチにハルトとトレイは並んで腰かけていた

「わぁ!」

トレイからタルトを受け取ったハルトは顔を綻ばせる

「こんなにいいんですか?」

「あぁ、余ったものだし、捨てたらもったいないだろ?食べてくれ」

ハルトは

「では遠慮なく」

と早速スイーツに手をつける

トレイは目を細め、ハルトの頬にかかる髪を耳にかけ、梳くように撫でる

すっかりトレイに甘やかされるのがクセになっているらしいハルトは、髪を撫でられながらもぐもぐとタルトを頬張る

「うまいか?」

「はい!毎日でも食べたいくらいです!」

「…そうか」

菓子を振舞って褒められることは多いが、ハルトからのシンプルな褒め言葉が妙に嬉しく感じる

ハルトは夢中になってタルトに齧り付いている

はぐはぐと頬張る姿は小動物のようだ

唇の端にストロベリーソースがついている

「………ハルト」

トレイはハルトの顎を掴み、自分の方を向かせる

キョトンとした様子で不思議そうに自分を見つめてくるハルトの唇を、トレイはぺろりと舐めとった

そして

「痛いっ」

頬にガブリと噛み付いた

「はは、すまんな。あまりに美味そうだったから」

つい味見したくなった。と悪びれた様子なくトレイは笑う

ハルトはぽかんと頬を抑えて笑う男を見上げる

「か、噛みましたね」

「あぁ、そうだな。」

「おれを太らせて食べる気です?」

タルトから落ちたソースが手を汚しているが気が付かないようで、ハルトはトレイを見上げるだけだ

「どうだろうな?」

トレイはタルトを箱に戻し、ハルトの手を取って指を口に含む

ソースを丁寧に舐めとって、真っ赤な顔をしているハルトに顔を寄せる

「お前はどうされたい?ハルト」

「っ!」

ハルトはばっと弾かれたように立ち上がり、すごい勢いで走り去って逃げていってしまった

残されたトレイはケラケラと笑って、ハルトの食べかけのタルトを齧る

「はは、やり過ぎたな」



☆☆☆
甘い匂い、大きな掌
髪を撫でるときの、あなたの香り
包み込まれて、幸せになる

俺の匂いが好きで、俺の手が好きで
髪を撫でると、細められる目が好き
砂糖で固めて、食べてしまいたい



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