息抜き

ジャミルはルームメイトのハルトが気になっていた

ハルトは何か問題を起こすことは無いし、成績も優秀で特に悪目立ちするタイプではない

真面目で勤勉。という言葉が似合うタイプだろうか

しかしリドルとは違いそのスケジュールを淡々とこなせる程要領は良くないし、アズールのようにゲーム感覚で物事を進めたり適度に息抜きを入れるということが出来ないらしい

ハルトはいつでも机に齧り付いて、カリムの開く宴にも参加せずに黙々と勉強をしている

ジャミルとしては別に害はないし、ルームメイトとしても静かでなんのストレスもないので放っておいても良かったのだが、ハルトが手首を噛むのを見てしまってからどうも気になるのだ

自分で自分を追い詰めて、少しずつ逃げ場をなくして、滲み出すインクに少しずつ染っていくようで、まるで

オーバーブロットをする直前の自分のようじゃないかと

ハルトは手首を噛む。何度も噛んでいるのだろう、アザになりかさぶたになり、血が流れても痛み等感じないらしく噛み続けている

「…手を貸せ」

ジャミルはハルトの左手を掴む

ハルトは余程集中していたのか、急に手を掴まれた事に驚いてペンを落とした

「治療してやる」

ジャミルがそう言って、部屋に置いてある救急箱から処置セットを取り出す

ハルトは引かれた左手首に目をやり

「あ、血が出てる」

と初めて気が付いて呟いた

ジャミルはテキパキと慣れた手つきで消毒し、包帯を巻いていく

「少し休んだらどうだ?見ているとお前は根を詰め過ぎているようだ」

ジャミルが処置をしつつそう言うと

「でも、俺にはこれしか出来ないんです」

とハルトは眉間に皺を寄せて笑う。それは痛々しい笑みで、ジャミルもつられるように眉間に皺を寄せる

「カリムにも見習わせたい程だな。」

ジャミルは呆れ半分、嫌味半分でため息を吐く。巻き終わった包帯をテープで止めて、救急箱を仕舞う

「しかし、何事にも「程」がある。勉強くらい俺がカリムのついでに見てやるからちょっと来い」

「あ、ちょっと、ジャミル…?!」

ジャミルは無理矢理、ハルトの手を引いて歩き出す

落としたペンも開かれたままのノートもそのままに、ハルトはジャミルの手を振り払えず引き摺られていく

鏡を通り抜け歩くことしばし、ジャミルが連れてきたのはバスケ部が活動している体育館だった

「あれ、遅かったすね」

「ウミヘビ君ー、誰そいつ」

既にボールを手に練習をはじめていたエースと体を伸ばしていたフロイドがそれぞれ笑って声をかける

ジャミルは戸惑うハルトの手を引いて2人の前に押し出す

「コイツはハルトだ。ルームメイトなんだが、コイツは息抜きの仕方を知らないんだ」

お前達、少し一緒に遊んでやってくれないか?とジャミルは口の端をつり上げる

「へ?ちょ、ジャミル?!俺そんなん頼んでな…」

「ジャミル先輩の奢りっすよね?」

「いーじゃん。バスケ飽きたし、面白そうだし」

慌てて断ろうとするハルトの言葉を遮り、エースとフロイドはニヤリと笑う

「まずは小腹も空いたしアイス食いに購買部いきましょ!ハルト先輩?も食えるでしょ?」

エースは人好きのする笑顔でハルトの手を引く

「いいねぇ、カニちゃん。息抜きなら、1人2個食っちゃおーよ。1口頂戴ね、フジツボちゃん」

「ふ、フジツボちゃん?!」

「閉じこもって自己完結するタイプでしょ?だからフジツボちゃん。」

フロイドも反対の手を引いてふにゃんと笑う

「ウミヘビ君優しいんだァ。ちょっとアズールに似てるよね、フジツボちゃん」

ジャミルは助けを求めるように自身を振り返るハルトにニッコリと

「これも「勉強」だろ、ハルト」

と笑った



「今日はゴチでしたー!また何時でも誘ってくださいね!」

「フジツボちゃん、めっちゃ必死でウケたし!じゃ、またね、ウミヘビ君、フジツボちゃん。カニちゃんも」

鏡の前で手を振ってエースとフロイドと別れる。

ジャミルとハルトも鏡を通り抜け自寮に戻る

「こんな楽しいの、久しぶりだった」

ハルトは先程までのことを思い出しつ不器用に笑った。

それぞれアイスを奪い合うように食べたり、急に壁を昇るなどと言い始めたフロイドに抱えられてパルクールに参加させられ、ジュースを賭けて馬鹿みたいに真剣にゲームして

ハルトは包帯を巻かれた左手を撫でる。それを見つめジャミルは少し呆れたように笑う

ハルトの表情は普段より多少穏やかで、肩の力が抜けた様に見える

「真面目なのもいいが、そんなに思い詰めてちゃ逆に効率が悪いだろ。」

まぁ、カリム程図太くなれとは言わないが

「もう少し誰かを頼れ、ハルト」

ジャミルは包帯を軽く振れるように撫でてからハルトの手を握り、指を絡ませる

「俺もたまになら付き合ってやるから」

「今日みたいに、ですか?」

「そうだな」

ハルトは握られた手を見て、絡められた指を見て、ジャミルの目を見る

眩しいものを見つめるように目を細めて

「ありがとう。」

とギュッと手を握り返し、やはり少し不器用な笑みを浮かべる

ジャミルはハルトと繋いだ手を勢い良く引いて、軽くバランスを崩したハルトの頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた

「わっ、ジャミル」

「あまり心配させるな」

ハルトが顔を上げる前にジャミルは少し前を歩き始める

ハルトは少しポカンとしてからへにゃりと笑って素直に手を引かれ歩く

「本当にありがとう、ジャミル」

ジャミルは背中越しに聞こえた柔らかな声に口元を緩ませた



☆☆☆
俺なんかを気にしてくれて、心配してくれて、手を引いてくれて…
俺なんかを見てくれて、ありがとう。

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