サヨナラなんてさようなら

「あはは、ハルトってば泣き虫ー」

フロイドはベソベソ泣いているハルトの顔を覗き込んでケラケラ笑う

ハルトは植物園の木の影で誰にも見つからないように膝を抱えて丸くなっていた

ハルトは泣きたくなると人目につかないところに隠れるのだが、フロイドはハルトがどこに居ようと探して見つけ出し、隣に座る

「今日は何があったのー?」

「別に…ちょっと色々と上手くいかなかっただけ」

「ふーん」

興味無さそうに返事して、ポケットに入っていたくしゃくしゃのハンカチで半ば無理やり涙を拭いてやる

「早く泣き虫治さなきゃ…人魚の涙は貴重なんだから」

「…僕は人魚じゃないです」

「今はねぇ。」

フロイドは最近妙なことを言う。涙を袖で拭いながら、ハルトはこの人魚のことを考える

この気まぐれな彼は、自分が泣いているとどこからともなく駆け付けて隣に座り込む

泣き虫で感情をうまくコントロール出来ないのはいつもの事なのだが、飽き性の彼が毎度毎度慰めたりからかいに来るものだから、ハルトは多少彼のことが気になりつつあった

「フロイドって変なの」

「どこが?」

「早く泣きやめって言うくせに、ずっとそばに居るんだもん」

ハルトは鼻をすすりながら隣の男を見る。フロイドは少し呆気にとられたように口を開けたが

「…ハルトのその顔も涙も俺のもんなの」

と少し頬を膨らませて拗ねるような表情をしてみせる

「いつからそうなったんですか…」

「ずっと前からだし」

「さいですか」

ハルトは笑う。いつの間にか涙は引っ込んでいた

「泣き止んだじゃん」

フロイドはハルトの頭をぐちゃぐちゃに撫で、反動をつけて勢いよく立ち上がる

「おいで。お昼まだでしょ?奢ったげる」

俺いまちょー機嫌いいし。とフロイドはケラケラ笑った



放課後

フロイドはハルトの姿をみつけ、ニコニコ機嫌よく笑いながら2階から飛び降りる

急に目の前に現れたフロイドに、ハルトは

「んぎゃ!」

と汚い悲鳴を上げる。バクバクと音を立てる心臓を抑え、よっと立ち上がる人魚を見上げる

「ちょっと、フロイド?!足大丈夫?!」

「大丈夫だし、そんなことでいちいち泣かないでよ?」

フロイドは手に持った小瓶に異常がないか日に翳して確かめながらケラケラ笑う

「ハルト、おいでー」

「え?なに?」

フロイドは腕を伸ばしてハルトを抱え込み、手に持った小瓶の蓋を口で開ける

不思議そうにしているハルトの口に小瓶を押し込み、無理やり上を向かせて中身を飲ませる

「んぐっ…」

液体が減っていくのを、フロイドは目を細めて機嫌良く見つめる

最後の一滴まで飲み終わるのを確認してから、フロイドは口から小瓶を引き抜く

拘束する腕を弛めてやると、ハルトは喉を押えて噎せ始める

「はっ…はっ…かはっ…」

初めは無理やり飲まされた液体が気管に入ってしまったのだと思った

しかし、ハルトは直ぐに違和感に気が付く

まるで暑い日に水を飲まずに何時間も走らされたかのように、全身が水分を渇望しているかのような渇き

日光がやたら肌を刺して痛みを感じる

口を開けても呼吸が出来ず、口内がパサパサになってまともに声も出ない

「はっ…はっ…く、苦し…何を…」

「あはっ、またすぐ泣く」

フロイドは瓶をポイと捨て、ハルトを横抱きにして抱える

ハルトは息苦しさに喉を押えて涙を流し、フロイドに縋り付く

「フロイド…喉、痛い……苦し…痛……フロイド…」

「ちょっと待ってね、水槽まで連れてってあげる」

フロイドはポロポロ泣いているハルトの額に口付ける

「苦しい…痛いよ…フロイド…フロイド…」

「ん、いい子いい子。もうちょっと待ってね」

フロイドは鏡を通り、オクタヴィネル寮の水槽までハルトを連れてきた

ハルトはぐったりして荒い呼吸を繰り返している

フロイドはにっこり笑って、ハルトを抱えたまま水槽に飛び込んだ

ハルトは大量に水を飲み込んでしまい、パニックになる

「溺れ…!!」

「溺れるわけないじゃん。人魚なのに」

フロイドはいつの間にか元の姿に戻っていた。水の中でケラケラと笑ってハルトの周りを泳ぐ

ハルトは水中で呼吸出来ていることに気が付き、フロイドが楽しげに指差した先に尾ビレが見えたことに目を見開く

「は?」

足が無くなっていた。魚だ。魚の下半身がついている

脇腹に違和感があり服を捲ると、皮膚に切り込みが入っていて、パクパクと動いている。もしや、エラ?

「…フロイド、僕に何を飲ませた?!」

「何って、人魚になる薬」

フロイドは平然と言った。上手く泳げず少しずつ沈んでいくハルトの手を取り、フロイドは水槽の中を泳ぐ

「これで俺から逃げられないね、ハルト」

フロイドは進行方向を見つめていて、手を引かれるハルトから表情は見えない

ただ怖いくらい優しい声色で続けられるそれを聞く

「卒業してサヨナラなんて俺には耐えらんない。だから、ハルトは人魚になって、俺の国で一緒に暮らそうね」

フロイドは歯を剥き出しにして笑い、ハルトを引き寄せた

目を合わせながらラッコのように仰向けになり、腹にハルトを乗せてゆっくりと泳ぐ

ハルトはしばらく目を見開いて何も言わなかった

色んな感情がぐるぐると頭の中を回って言葉が中々出てこなかった

フロイドが水槽を2周したくらいで、ハルトは泣きそうに顔を歪めて笑い始める

「あは、あははは!馬鹿なフロイド!」

彼の中で、自分はいつか人魚になってフロイドと一緒に暮らすことは決定事項だったのだ

だからいつも「人魚の涙は貴重だから泣くな」って言っていたのだろう

フロイドは随分と自分に執着してくれていたらしい。

「ほんとフロイドってば馬鹿だ」

ハルトはフロイドの首元に顔を寄せる

「はぁ?俺マジだったんだけど」

「こんなことしなくたって、普通に言ってくれればいいのに」

「ふーん」

ハルトはパタパタと尾ビレを動かす

フロイドはハルトの後頭部を見つめ、何か思案する

ハルトの肩を掴み、額を合わせる

「ハルト、俺と番になって。一生飽きないし、ちゃんと守るから、人魚になって俺のとこに来て」

「いいよ、フロイド」

泣き虫はなかなか治らないけどそれでもいいなら

ハルトはふにゃりと笑う。フロイドはまたケラケラ笑う

「すぐ泣く。人魚の涙は貴重だからハンターに狙われるよ」

「でも守ってくれるんでしょ?」

「うん、守る。泳ぎ方も教えてあげる」

ハルトの手を引いて、フロイドは泳ぎ出す

「これからもずーっと一緒にいようね、ハルト」



☆☆☆
ハルトと(特に)フロイドは後でどちゃくそクルーウェル先生に怒られた


「Bad Boy!!!!この駄犬が!!変身薬なんて一生徒が作って飲ませていいような代物じゃないだろ!!今回は運良く上手くいっていたから良かったものを、下手すりゃこの仔犬が肉塊になる可能性もあったんだぞ!!!
お前も何でも野良犬のように口に入れるんじゃない!!」

「無理やり飲まされたのに…」

「成功したんだからいいじゃーん。これでハルト死んでたら俺も死ぬつもりだったし。」

「Be Quiet!!とりあえず解毒剤は作ってやる。リーチは責任とって材料集めてこい」

「えー?せっかく人魚にしたのに戻すのぉ?」

「どのみち変身薬はそう長く持たないが…水中で薬の効果が急に切れたら仔犬は死ぬがいいか?」

「ダメ!」

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