爪噛む君

モストロラウンジで給仕をしていたハルトがフラフラとカウンターの方へと戻ってくる

何やら厄介な客に絡まれていたようで、先程ジェイドが交代しに行ったところだ

そのうち厄介な客はお引き取りするか、アズールにご招待されるかの2択を迫られるだろう

しばらく引っ込んでいろと指示されたハルトはキッチンに入り、無意識に爪を噛む

フロイドは調理の手を止め、その様子を見る

ハルトは壁にもたれて無心で爪を噛み、もう片手で頭を掻きむしっている

フロイドにはそれが妙に気になった

1度火を止めハルトの元へ歩み寄り、壁に手をついて覗き込む

「ねぇ。指、美味しいの?」

「…あ、すみません…」

我に返ったように顔を上げ慌てて手を隠すのを見て、フロイドは首を傾げなんで謝んの?の尋ねる。

ハルトは背中で指を絡ませ、フロイドから視線を逸らす

「爪噛むのクセで、アズールから治すように言われてるんだよね」

ハルトは壁に追い詰められる様な状況に気まずそうにしている

フロイドは背中に回された手を掴み、引き寄せる

少し慌てるハルトを気にせず、指先を見つめフロイドは眉を寄せる

何度も噛み切られた爪の先はガタガタになっており、指先はからは血が滲んでいる

「あーあ、血ぃ出てんじゃん。痛くねーの?」

「…痛い。」

ハルトははぁとため息をつく。

「無意識にやっちゃうんだよな…」

フロイドは体を起こし、手を引いてシンクまで連れていく

「おっと、フロイド?」

ハルトは引き摺られる様に歩く。フロイドは血の滲む指先をじっと見ていた

水を出して血を洗い流し、ポケットから何枚か絆創膏を取り出す

「可愛いでしょ。サービスで貼ったげる」

「…ウツボ柄じゃん」

「タコのもあるよぉ。アズールが作ったやつで、回復薬が染みてるから治りが早いんだって」

両手の指にペタペタと慣れた様子で絆創膏を貼っていくフロイドを、ハルトは少し困った顔で見ている

フロイドの気紛れはいつものことだが、テキパキと処置をされるのもポケットからやたら可愛い絆創膏が出てくるのも予想外過ぎる

「手馴れてるな」

「雑魚ども蹴散らしてるとたまに怪我するから、簡単な処置なら俺もジェイドも得意なんだよね」

「なるほど」

ろくな理由じゃないなぁとハルトは少し笑った

フロイドは絆創膏だらけの指先を見て、少し思案するように口を閉ざす

「…ねぇ、バイト終わったら俺の部屋おいでよ」

「へ?」

「約束約束!」

「あ、ちょっ、…行っちゃったよ」

フロイドはさっさと持ち場に戻って調理を再開する

何か話しかけようかとも思ったが、ジェイドが

「終わりましたよ、ハルトさん。もう出てきても大丈夫です」

と声をかけた為、ハルトも仕事に戻った



仕事終わり、2人はフロイドの自室にいた。

ベッドに腰掛けるフロイドに後ろから抱えられ、ハルトは身を縮こませている

フロイドの気紛れはいつもの事だ。しかし、このバグった距離感には戸惑いしか出てこない

このまま絞められるのでは無いかと内心怯えるハルトだが、フロイドはご機嫌で爪切りを手に取る

「爪キレイにしてあげるー」

手ぇ出してー。とフロイドはニコニコ笑う。

「え、ちょっと怖いんですけど」

「は?不満なわけ?」

「い、いえ!お願いしますっ!」

急に冷たく低くなった声色に、慌ててハルトは取り繕う。

機嫌を損ねるとそれこそ絞められる。それで済めばいいが、下手すれば明日の朝日は拝めないかもしれない

恐る恐る手を委ねる。フロイドは鼻歌を歌いながら短くガタガタになった爪を切っていく

ぱちぱちと一定のリズムで爪の先が綺麗に整えられていく

「上手いな」

「慣れてるし。人魚って結構爪硬いし鋭いからさー、爪切りサボると結構引っ掻いちゃっていてぇの。」

「へぇ」

「ほら、動くなって」

フロイドの声色は穏やかだった。ハルトは背中から伝わる温度に眠気を覚える

大きく欠伸をしたハルトの項を見つめて少し微笑みつつ、フロイドは爪にヤスリをかけていく

「フロイドってさぁ、意外と器用なんだな。俺、ちょっと肉切られるかと思ってた」

うとうとしつつ、ハルトは笑う

「何?切って欲しいの?」

「これ以上痛いのはごめんだな」

ハルトは好きに手を弄られながら肩を揺らす

「ん。こんなもんでしょ。おしまーい!」

「ありがとう。フロイド」

フロイドはハルトの指先を掴んだり揉んだり繰り返す

「くすぐったいよ」

「……ねぇ」

眠そうにしているハルトの顎をつかみ、上を向かせて覗き込む

「なんで、指噛むの?痛いじゃん」

「さぁ…昔からのクセで…」

「………ふーん。…爪噛むのってさ、甘えたい奴に多いってアズール言ってたんだよね」

「……ん?ごめん、ちょっと、寝てたかも…なんて?」

ハルトはフロイドに体重を預けて目を開けるのもやっとの様子だ

フロイドはニンマリと笑う

「マニキュア塗ったげる」

「なんで?」

「俺のどっかいったし…ジェイドの奴借りよー」

「ちょっと…」

フロイドはハルトをベッドに下ろし、勝手にジェイドの棚からマニキュアを取り出す

「海ん中じゃマニキュアなんて塗れねーじゃん?式典の時とかたまに塗ってんだー。」

またハルトを後ろから抱えて手を取る

ハルトはすっかり安心した子猫のように身を委ねている。フロイドはそれが妙に愛おしくなった

先程より多少整った爪にマニキュアを乗せていく

「ハルト、マニキュア似合わないね。」

「…マニキュアは爪が長い人が似合うからな」

「じゃあ、似合うようになるまでちゃんと伸ばしてよ。そしたら可愛いやつ買ったげる」

ハルトは眠そうにしつつ

「フロイドが?」

と尋ねる。

「うん。俺とお揃いでー、海っぽい青いヤツね」

嬉しい?フロイドはハルトの項に口付ける

ハルトは擽ったさに軽く身を捩って笑う

「……爪、噛まないように頑張らなきゃな」

「ん。」

フロイドはハルトを抱き寄せて、抱え込む

ハルトはすやすやと寝息を立て始めていた



☆☆☆
アズールとジェイドが言ってたけどさー
爪を噛む奴って不安とか寂しいとか思ってる奴が多いんでしょ?
なんかさー、気になったんだよねぇ
爪噛まなくなったらさ、俺に心許したってことじゃん?
そしたらいいなって、思っただけ


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