君と紅茶とキラキラ

ジェイドは中庭でいくつもの茶葉やティーセットを広げて作業していた

茶葉はモストロラウンジで出す予定のもので、高価なものが多い

食器も上等なものだ。

備品をなくしたり破損させることのないように丁寧に、それでいてテキパキと並べていく

出来ることなら屋内で作業したいところだが、キッチンを占領するとアズールからお叱りを受ける

今日は天気が良いので、ピクニック気分で研究も捗るだろうと中庭を作業の場に選んだ

しかし中々うまくいかないようで、ジェイドは先程から少し飲んでは眉を顰める

「…渋いですね。何故でしょう?茶葉の入れ過ぎでしょうか?」

ジェイドは手元のメモに先程までの行程を書き起こす。

その様子を後ろから眺める生徒が1人

美味しそうな紅茶の香りに誘われてふらふらとやってきたのだが、火にかけられたヤカンに目を止め口を開く

「それ、沸かしすぎ」

「え?」

頭の中で行程の整理をしていたジェイドは後ろの人物に気がついておらず、驚いて振り返る

腕に赤い腕章をつけた生徒は、ヤカンを指差し

「そん中に茶葉入れちゃダメ。温度は大事なんだ。直接火にかけてたら渋くなるし香りが飛ぶ」

と続ける。ジェイドは目を瞬かせる

「あなたは…」

「あ、俺?突然ごめんな。ハーツラビュル寮の紅茶担当、ハルトちゃん!…知らない?」

「たしか、フロイドと同じクラスの…」

「そう!通称ウミウシちゃんね。ヒラヒラしててゆっくりしてて美味しそうなんだと」

フロイドって俺の事食べる気なのかな?とハルトは呑気に笑う

ジェイドは裏表のなさそうなハルトの笑顔につられるように口を弛める

「さぁ、どうでしょう?」

「あ、否定してくんないのね」

ハルトはケラケラ笑う。

「そういえば、先程ハーツラビュル寮の紅茶担当と言われましたよね?」

ジェイドがそう尋ねる。ハルトは背の高いジェイドを見上げて

「そう!あのさ、そこにあんの、高級な茶葉じゃん?良ければ入れ方教えるから、味見させてよ。ね?」

と上目遣いで拝む様に両手を合わせる

ジェイドは欲のない人だと思いつつ

「ぜひお願いします」

と、答えた



「まず使うポットとカップはお湯を入れて温めて、軽く拭いとく。んで、ポットにはティースプーンで人数分とポットの分の茶葉を入れんの」

いくつか並んでいるうちのポットから1つ手に取り、ハルトは

「ポットは丸いヤツね。水流がうまく出来るから」

と続ける。カップにお湯を注いで温めながら、ジェイドは感心したように

「茶葉や入れ方だけではないんですね」

と呟く。

「そりゃそうよ。こだわるとキリないから、今回は簡単な説明だけね」

とハルトはポットに茶葉を入れつつ笑った。沸かしなおしたヤカンを手に取り指差す

「水は軟水ね。容器は、鉄のやつは使っちゃダメ。色汚くなるから。お湯は沸騰した瞬間のやつを、勢いよくいれんの」

ほら、水流で茶葉が回るじゃん?この刺激で茶葉が開くの

紅茶について語るハルトはニコニコしていてとても楽しそうだ

ジェイドは彼が動く度に水面のように煌めく瞳に魅せられる

「お詳しいんですね」

「昔からこれだけが趣味で取り柄なんだよね」

ハルトは少し照れたように頬をかきつつ、ポケットから小瓶を取り出す。

小さな赤い宝石のようなものが詰まっているそれを日に翳す

「んで、いい茶葉でごちそうになるし、俺のとっておきあげちゃう」

「綺麗ですね」

結晶のようです。とジェイドが瓶を見つめる。ハルトはそんなジェイドの表情をじっと見つめて、眩しそうに目を細めた

「ドライフルーツを細かく切ったもんなんだ。これはベリー系のドライフルーツ。あとはリンゴとオレンジの皮も少し。砂糖とスパイスも入ってるんだ」

ほら、やるよ。とハルトは瓶をポイと投げる

ジェイドは少し慌てつつしっかりと受け止め、瓶の中身を手のひらに出す

「いい香りですね」

「だろ?そのまま食べても美味しいけど、紅茶に入れるとまた違った感じになっていいんだ」

ケーキ作りで余った皮でオレンジピールやレモンピール作ったり、残りもんでドライフルーツ作ってんだ。スパイス系はジャミルに分けてもらう

「ビタミンも採れるし、紅茶だけど多少腹も膨れるし、スイーツ感覚で女の子ウケ良いよ。ここは男子校だけど」

少量口に含んで表情を輝かせたジェイドをみて、またハルトは目を細める

「見た目も可愛いらしくていいですね。アズールに相談してみましょう」

「必要ならドライフルーツとピールの作り方も教えるよ?」

「是非ともお願いします」

ハルトを見下ろし、ジェイドは笑う

紅茶のいい香りが2人を包み込む

「ぼどよく蒸したら完成!」

「いい香りです」

早速飲みなよ。と温めたカップに紅茶を注ぐ。

受け取ったジェイドは、自分が入れた紅茶よりもよく香りが立っていることに多少驚きつつ口をつける

「渋味がなく、ほのかに甘みがあって美味しいです」

「んー!良いねコレ!美味しい!」

自分のカップにも注いでクンクン匂いを嗅いでから1口飲んだハルトも満足そうにしている

「あ、瓶のやつもいれてみなよ。ちょっと甘めでまた飲みやすいから」

「……本当ですね。これなら子供にも女性にもウケそうです。とても勉強になりました。ありがとうございます」

と、ジェイドはハルトに軽く頭を下げる

「これならアズールとフロイドも納得するでしょう。…何か対価を」

対価と聞いて、ハルトは何故か少しぎょっとした表情になる

「いや、大袈裟だなぁ。真剣に話し聞いて貰えて嬉しかったし、ご馳走になったし良いってー」

「しかし、とっておきの小瓶も頂いてますし…」

ジェイドは本当に無欲な人だなと思いつつ食い下がる。ハルトは目を閉じて少し考える仕草をする

「なら、また紅茶入れるし、話し聞いてよ。俺、こんなに楽しく喋ってたのはじめてだし」

褒めてもらえて嬉しかったし。とハルトは目を開け、人差し指を立てる

ジェイドは少しキョトンとしてから、吹き出すように笑った

普段冷静そうなジェイドが急にケタケタ笑いだし驚くハルトに対し

「それでしたら、今度は僕がスイーツをご馳走します」

僕の手作りです。トレイさんには負けるかもしれませんが

とジェイドは言った

ハルトは目を細めて

「超楽しみにしてる」

と紅茶に口をつけた



☆☆☆
「ジェイドー、その小瓶何ー?」

「ハルトさんから頂きました」

「ウミウシちゃんから?へぇ。ウミウシちゃんってなんかいつも美味しそうな匂いしてたけど、それだったんだねぇ」



☆☆☆
好きなものについて話す君が好き



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