ガラじゃない

ハーツラビュルの談話室で、ハルトはノートを開いて唸っている

隣に腰掛けるリドルは勉強を教えてやりつつ、紅茶に口をつける

「そこ、間違ってるよ」

「えー…なんで…?」

「問題のここを良くご覧」

たまたま通りかかったエースはハルトを見つけると足を止めた

ハルトはエースに気付かず頭を抱えている

「……。」

気が付かないハルトも、自分以外の他人と過ごしているのも何だか面白くない

エースはしばらくブスッとした表情でハルトを見ていた

リドルはエースに気が付き、面倒くさい奴に見つかったと視線を逸らす

いつまで経っても気がつく様子のない痺れを切らしたように、エースは口元に笑みを作る

つかつかと歩み寄り

「おっすー、ハルト。何このクソだせぇ猫」

とハルトの筆箱についたストラップにちょっかいをかける

眠たそうな顔の猫のストラップだ。カラフルで何匹かまとめてついているそれを指で弾く

ハルトはムッとして筆箱をエースから遠ざけた

「可愛いじゃん」

「どこがだよ」

エースにはわからんかもな。とハルトは舌を出す

リドルが少し呆れたように首を振って

「僕は可愛いと思うよ」

と言うと

「さすが!寮長は分かってますね!」

とすぐ笑顔になった。ハルトはコロコロと表情を変える

エースはハルトのそんなところが好きだった

「ガチャガチャでしか手に入んなくて…俺が欲しい赤いやつが1000マドルくらい回しても出なかったんですよ」

「こんなんに1000マドルもかけたの?!もったいねぇ!」

「エースはうるせぇんだよ!お前が1000マドル回しても出ねぇし!」

「いや、俺なら1発だな。」

まぁ、そもそもこんなもん要らないから回さないけど。とエースも舌を出す

ハルトもまた舌を出して応戦する

リドルはエースを見上げてまた呆れたように首を振って紅茶を1口飲み、ため息を吐いた

「2人とも、いい加減にしないか」

「だって、エースが絡んできたから…」

「ハルト、これ以上僕の時間を無駄にすると首を刎ねるよ?」

少し低くなった声に、ハルトは不満そうな表情をしつつ

「…すみません寮長。」

と謝罪をする。

ん。と頷いて、リドルはエースを見上げ

「エース。君ももう少しやり方があるんじゃないか?」

と咎めるように言う。ハルトは何を言っているのかと首を傾げる

エースは少しの間リドルを見下ろしてなにか言いたそうにしていたが、結局何も言わず

「へいへい。またな、ハルト」

とハルトに声をかけて軽く手を振って行ってしまった

「全く。手の焼ける後輩の多い事だ」

リドルは軽く笑って、キョトンとしているハルトの頭を犬のように撫でた



次の日

「あー!なんでお前がそれ持ってんの?!」

「さぁね。」

「しかも赤色じゃん!」

ハルトは興奮して詰め寄る。エースのスマホには、ハルトが欲しがっていたガチャガチャの猫のストラップがついていた

「頼む、それくれ!」

「ヤダね」

「昨日めちゃくちゃダセェしいらねぇって貶したじゃん!」

「そんなん覚えてねぇな」

エースはわざとらしくストラップに口付ける

ハルトは

「エースの意地悪っ!」

と、頬を膨らます。エースはケラケラ笑ってストラップを見せびらかすように揺らす

ハルトは恨めしそうにエースを見ていた

しばらくその顔を堪能してから、エースは

「…まぁ、お前がどーしてもって言うなら、ダブった奴と交換してやってもいいぞ」

とスマホからストラップを外す

「マジ?」

「嫌なら良いけど」

「嫌じゃない!」

「んじゃ、交換な。ほら」

ハルトはニコニコと笑ってストラップを受け取る

「交換だから、お前もよこせよ」

「じゃあ、俺に似てる猫ちゃんやるよ」

ハルトは筆箱からストラップをひとつ外し、エースの手のひらに乗せる

どこが「俺と似てる」のかはよく分からないが、何となくその猫が愛おしく見えるから不思議だ

「ありがと、エース。大事にするよ!」

「ん。」

エースはたかがストラップで大袈裟なほど喜ぶハルトを見て微笑む

「この赤いやつさ、エースに似てるなって思ってからずっと欲しくてさー」

ハルトは無邪気に笑う

エースは口元を隠して、猫のストラップをポケットにしまいつつ

「そうかよ。良かったな」

と答えた。頬が赤くなってやしないかと、ガラにもなく心配になった



☆☆☆
お前の気を引きたかっただけだし
お前の持ってるもんが欲しかっただけだし
お前の事がちょっと好きなだけだし
悪いかよ。

まぁ、お前は気が付かないけど





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