冬虫夏草

「あんた、ジェイドだよな」

ジェイドが廊下を歩いていると、後ろから急に声を掛けられた

声を掛けてきたと言うことは、一応敵意は無いのだろう

ジェイドは少し驚きつつゆっくりと振り返る

「はい。そうです。」

「あんた、リーチ兄弟のキノコ好きな方だろ?」

「そうですね。」

「リーチ兄弟の比較的やばくない方」「リーチ兄弟の胡散臭い方」等と呼ばれたことはあったが「キノコ好きな方」とは初めて呼ばれ方で、ジェイドは少し可笑しくなる

「これ、良ければ貰ってくれね?」

「これは…」

ハルトは手に持っていた瓶を差し出す。瓶の中には、宝石のように輝くキノコが入っていた

ジェイドの視線は瓶に釘付けになる

「サイエンス部で新種のマンドラゴラ作ってたんだけど、何故かキノコになっちゃってさ。」

残念ながら毒も薬効はほとんど無いんだが、透き通って綺麗だろ?とハルトは笑う

「あんたがテラリウムだっけ?やってるって聞いてさ。よければ貰ってくれ」

「ありがとうございます。こんな、水面の様に輝く美しいキノコははじめて見ました…」

ジェイドはキノコを受け取り、目をキラキラと輝かせる。

大人びて見えるタイプだが、こんな子供っぽい表情もできるんだなとハルトはケラケラ笑った

「何か対価を…」

「いいって、言っちまえば失敗作だからな」

ハルトはじゃなっ。と手を振って走っていった

「ハルトさん」

ジェイドはキノコの入った瓶を手に持ち、胸を抑える。ジェイドは、ハルトに恋したのを自覚した



次の日から、ジェイドの猛アタックは始まった

「ハルトさん、こんにちは」

「うぉっ?!」

ハルトが驚いて振り向こうとするが、後ろから両肩を掴まれ体の動きを止められる

仕方なく見上げると、ジェイドはニコニコ笑って真後ろに立っていた

「あれ、ジェイドじゃん。どうしたの?」

ジェイドはニコニコしながら、ハルトを見下ろす

「いえ、対価は要らないとの事でしたので…せめて僕が何かお手伝い出来ればと思いまして。」

「あはは、本当に対価なんて良かったのに。まぁ、手伝ってくれるなら、サイエンス部までこれ運んでくれ」

ハルトはニカッと笑っていくつかの箱を指差す

「石とか種とか運んでて、結構重くってさ」

ジェイドはハルトの顎を掴んで瞳を覗き込む。ハルトはキョトンとした表情でただ見返す。

「そのくらい、喜んで」



ジェイドはハルトのいる所なら何処でも現れるようになった。

どのくらいの頻度かと言えば、サイエンス部の部室に篭もりがちなハルトの元へ、ジェイドを探しに来たフロイドとアズールが訪れるくらい

「ジェイド探すよりこっちに来た方が早ぇし。」

とフロイドが面倒臭そうに言い置いていったのは記憶に新しい

「ジェイドー、ベルーガとセブルーガの小瓶とってー。カスピ海のチョウザメのやつ」

「…これと…この瓶ですか?」

「ありがとー。なんか最近さ、ジェイドと居るのが当たり前になってきちゃったな」

とハルトが大釜を混ぜながら笑う

「そうですね。」

ジェイドはニコニコ笑って釜を覗き込む

「渦潮みたいです」

「あんま煙吸うなよ。俺、一回それで倒れてトレイに超怒られた。」

「おやおや」

ジェイドは少し鍋から離れ、ハルトを見る

ハルトは、ジェイドがいつ訪れても嫌な顔せず、楽しそうに話しをしてくれる

「ハルトさんは、僕が怖くないんですか?」

「なんで?」

「いえ、なんとなく」

ハルトは

「手が離せなくて悪いな」

と前置きして釜を混ぜながら口を開く

「なんか色々やらかしたとは聞いたが、別に俺があんたになんかされたことねーし。最近一緒にいるけど、あんたといると楽しいし。まぁ、」

今はジェイドといない時の方が違和感が有るくらいだよ

ハルトは肩を揺らして穏やかな声でケラケラ笑う

「そうですか。」

ジェイドは口元を手で覆う。ハルトから表情が見えない様に隠して笑う

「あぁ、早く…あなたが僕だけのものになればいいのに」

「何か言ったか?ジェイド」

「いえ、大変参考になりました。これからもお邪魔しても?」

「あぁ。ジェイドがここにいて暇じゃないなら、いつでも来てくれ」

ハルトはジェイドをちらりと見て笑う

「では、遠慮なく」

ジェイドはニッコリと目を細めて笑った



☆☆☆
いつしか一緒にいることが当たり前になって
いつしか全く離れられなくなる
あぁ早く早く、あなたが僕だけのものになればいいのに

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